CBAM抜け道の指摘
先月のFTに、次のような記事が掲載されていました。
簡単に言うと、「現在のCBAMルールには抜け道があるから、目的・効果が達成できないばかりか、グリーンウォッシュも助長する」ということです。
記事では「溶解したものであれば、バージン・スクラップに関係なくゼロ排出とされることから、中国などの低コスト高排出の地域で生産されたアルミ製品が流入する可能性がある、と主張している」とあります。
「業界団体であるEuropean Aluminiumによると、EUの製錬所はアルミニウム1kgあたり約6.8kgのCO₂を排出しており、これに対して世界平均は16.1kgである。」とのこと。
今でさえ、「飛び恥」と揶揄される国際航空セクターからの排出量とほぼ同等の高排出セクターなので、リーケージが起きれば倍以上になる計算となり、「使い恥」となってしまいますね。
アルミ製品が、アパレルや動物擁護の文脈における、毛皮と同じような批判の的になってしまい兼ねません。
5回に亘って、移行期間のCBAMルールについてご案内してきた私にとっても、新しい気づきでしたので、再度、規則及び附属書を見直してみました。
「溶解したものであれば、バージン・スクラップに関係なくゼロ排出」がどの条項を指しているかを探したところ、以下の条項のことを指しているのではないかと、推測します。
「附属書F.2 Monitoring rules for activity levels」では、このように明言しているわけです。
基本的にリサイクル原料は、LCAでは排出量はゼロとみなされます。
リサイクル品がバージン品から製造された段階で算定されており、ダブルカウントを回避するためです。
なお、リサイクルのベネフィットを、排出する側・使用する側のいずれが享受するかという課題は認識されています。それによって、リサイクルを行う/リサイクル品を使用する、インセンティブが異なりますから。ただ、これは、算定ルールのスキームオーナーが「決める」話なので、今回は立ち入りません。
この条項に従うと、「生産工程で一旦溶解してしまえば、規格外品、副産物、廃棄物、スクラップと扱ってもいいよね」とも捉えられるので、「バージン・スクラップに関係なくゼロ排出」と判断できるということなのでしょう。
確かに、溶解されてしまえば、バージンなのかスクラップなのか分かりませんので、検証において「現行犯逮捕」されない限り、摘発は難しいでしょうね。
ただ、ここで抑えておきたい点があります。
CBAMでは「直接排出」「間接排出」いずれも原則では算定対象ですが、CBAM規則の第7条「組込み排出量の計算」では、「附属書Ⅱに記載された物品」については「直接排出量」のみが算定対象とされています。
ちなみに、CBAM対象製品は、現在次の6製品です。
附属書Ⅱを確認すると、対象となっているのは、以下の3製品。
アルミニウムの精錬には大量の電力を使用し、「固体の電気(solid electricity)」と呼称されるほどですが、このルールに従うと、電力の使用による間接排出が算定対象外になります。
ですので、リーケージが起こるとすれば、EU域外の安価な電力と人件費を求めてということになるでしょう。
輸送による排出量は算定対象外ですので、内外価格差と輸送費、諸々を考慮の上、果たしてどれだけの影響が出るか、26年までの移行期間で検証することになるのでしょうね。
ということで、今年10月からの移行期間が始まるまで(始まってからもでしょうが)、目が離せそうにありませんね。
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