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略歴のつくり方を些かマニアックに詳説する試み

プロフィールは単なる職歴の羅列ではありません。コンテンツの価値を裏付ける材料と考えます。よって、私が実際講座を作るときにどういう風に考え、どのように作るかを書いてみようと思います。

読み手はいつどのように略歴を見るか

タイトルやサムネイルを見て反射的に「これは自分にとって価値があるかも」と直感した人は、ページを開いて概要を速読し「これは自分が直感した通りの内容か」を軽く検証するでしょう。

その次に見るのが略歴で、「講師はこの内容を語るに値するか」を確かめます。裏を返せば、ターゲットの問いに答える必要十分な情報を、分かりやすい簡潔な文章にすれば良いことになります。

セミナー企画の全思考過程-公開用 (3)

コンテンツ価値を裏付けるのが略歴

端的に言うと、誰の、どんな課題を、どう解決するかがコンテンツであり、そこに他との違いが加味され、参加者にとっての価値が決まります。

例えば、事業創造の方法論の話をするならば、講師は事業開発の経験があるだけでなく、それを成功させた実績、それもできれば複数回の結果がなければ、たまたま上手く行っただけという可能性を排除できないでしょう。再現可能でなければスキルとは言えないからです。

また、本人ができても、人にできるような方法論になっていなければ、単に有名人の面白エピソードを聞いただけで終わってしまいます。なので、方法論として可視化されたもの、例えば、資料や数々の登壇実績などの証拠や、方法論を適用した人や企業が成果を上げ、その因果関係が明確なら、受講者は「この方法論を聞いて実践すれば、同様の効果を上げられる」と推測するでしょう。

価値の根拠の類型

基本的な根拠を以下のように整理してみます。

1. 自分が「できる」
十分な経験がある
→XX社で事業開発に携わった
十分な実績がある
→XX事業を立ち上げた(実績)
再現可能なスキルとして身についている
→XX事業とYY事業を立ち上げた(能力)

2. 他の人も「できる」
・課題を解決するメカニズムが説明できる
→XXをXXすることでXXできる(説明可能)
・スキルを他の人でも実践可能な方法論にまで落とし込めている
→XXを「〇〇」という方法論にした(方法論)

3. 他の人が「できる」ように「できる」
・方法論を他の人に教えた実績がある
→XX社やXX社でのトレーニングを実施(教育実績)
・他の人に方法論を習得・実践させ、成果を出した実績がある
→受講生がXXという成果を挙げた(成果実績)

下に行くほど、受講者が「自分の課題を解決できる可能性が高い」、すなわち、自分にとっての価値が高いと自ら判断することができます。

副次的な価値根拠

コンテンツとは直接関係ないけれど、信憑性を増す要素もあります。例えば、ビジネス系のものであれば、有名企業にいたとか、有名大学を出たとか、そういう情報に有り難みを感じる層もいます。講師や企画者がそれをどうこう思わなくても、受講者がそこに価値を感じ、受講者数や満足度の増加に寄与するなら、敢えて隠すこともないでしょう。

ただし、あくまでメインは実績や実力であり、あまり本筋と関係ないブランドばかり前面に出しすぎると、中身のない人に思われるリスクもあるので、1つ2つさらりと触れる程度でいいと思います。

名前をぼかすのは逆効果

中途半端に「外資系コンサルティング」「外資系金融機関」とぼかして書くのは、無理して材料にしようとしている感が出てしまうので、具体名を書くか、むしろ全く書かない方がいい気がします。オトナの

例外は、B2B企業で一般の人々が知らない可能性がある場合です。私が新卒で入ったCSKという会社なら、大手SIerとか、大手IT企業など、想定される参加者がビジネスにどれくらい詳しそうかで変えることがあります。また、オトナの事情でぼかしたい場合も書かないかぼかすしかないでしょう。

まずは基本的な要素を揃える

ビジネスの講座であれば、職歴とそこでの実績が基本となります。前に述べたように、実績、能力、方法論などのレベルまで、セミナーの内容の信憑性を裏付ける主張と、その根拠となる材料を揃えます。

最近は本業以外の、複業や業務外の活動の実績もあり得ます。それらも必要なら入れればいいでしょう。

他に、資格、出版や記事、受賞など、実績やスキルの高さを傍証するものがあればこれも材料として活用可能です。

学歴なども、内容と相関があり、ターゲットにとっての信用を増すなら、材料としていいと考えます。

組み合わせを考える

どのような価値をアピールするかによって、材料の組み合わせは異なります。例えば「デザイン」に関連する講座としても、ビジネスデザインの講座なら、事業開発とデザイン両方の経験や実績があることを示した方がいいでしょう。デザイナー向けでデザインそのものの実力のアピールが大事なら、類似の実績を複数並べた方が説得力が増します。

希少性という観点もあります。ビジネスデザインの講座であれば、デザインの専門教育を受けた上で事業創造の実績がある人は極めて限られます。片方だけならそれぞれそれなりにいるのですが、両方の要素を持つ人は限られるので、その組み合わせが価値あるものとして、実績の裏付けをもって略歴に記します。

共感や納得感の要素を見出す

講師がそのコンテンツを語る必然性や、目指す世界への素晴らしさが語れれば尚良いでしょう。よほどのことでない限り、略歴だけで違いは出ないからです。また、人は感情の動物ということもあります。

例えば、グラフィックレコーディングの講座を作るときに、講師はシステム会社のプロジェクトマネージャーとして、利害の異なる人々を共通の利益とゴールに向けて議論をまとめる必要に迫られ、絵や図にすることがその課題の解決になるということにたどり着いたということを、略歴や案内文で触れました。

単にグラフィックレコーディングをする人は山ほどいますが、仕事の必要性から習得、方法論化し、それで成果を挙げているのだとしたら、その方法論は実践的であると、案内文の読み手は推測するでしょう。

また、その方法論を習得して、プロジェクトに成功する人を増やしたいといいうビジョンを掲げたとして、それに共感しない人は少ないでしょう。

場合によっては、コンテンツに関する分野の博士課程に在籍しているなど、未来に向けた現在の努力も、説得材料になるかもしれません。また、趣味や家族の話など、親近感を感じさせる要素を入れる人もいます。

高みを見せるか、近さを見せるか

講師は受講者に対して、学びとなる高みを示すことと同時に、自分でもできると思える要素も示さなければなりません。例えば、ソフトバンクの孫さんの話を聞いて自分も同じことができると思える人はあまりいないでしょう。できる人は更に少ないです。

起業や事業創造の内容なら、一流大学でコンピューターサイエンスを修めてGoogleで新サービスの開発をリードした後に、最初から一流ベンチャーキャピタルの出資を受けて起業した人の話と、地方の普通の学校を出てたたき上げで起業した人では、材料は自ずと異なります。

前者であれば、"高み"にいるからこそ見える"普通の人"が知らない本質、といった打ち出しができるでしょうし、後者であれば、普通の人でも方法論に則れば成果を出せる、という話にできます。

ビジネスにおける課題解決であれば「自分もできる」ということが大事なので、あまりに自分からかけ離れていると、有名人の講演のようなエンターテインメントになってしまいます。以下の3つのどれか、区別しておく方が良いでしょう。

・自分の課題を解決してくれる(課題解決)
・自分の知らないことを教えてくれる(好奇心の充足)
・聞いて面白い話(エンターテインメント)

他者の略歴を書く場合

自分ではないプロフェッショナルの講座を企画する場合、企画者が講師の略歴を書くこともあるでしょう。企画者は、どんなターゲットの、どんな課題に向けて、どんなコンテンツをどのように打ち出すかを考え、それに対して、ターゲットの関心に合わせて、何をどうアピールすべきか、そのために講師のどんな材料をどう組み合わせるかを考えます。

最初に何もない状態でヒアリングするより、原案を自分なりに作成した上で講師に提示すれば、材料を引き出しやすくなります。

著名な人であれば、名前で検索すれば過去の登壇の情報が見つかり、そこに略歴があるでしょう。単にコピーすればいい場合も多いですが、企画者としての付加価値をつけるなら、上記のようなあるべき材料な組み合わせを考え、記事や講師との話から引き出した材料を盛って再構成すると良いかもしれません。

読み手の手間を省く

略歴は所詮「自己アピール」なので、疑い深い人は「本当にそうか」と裏付けの検索をするでしょう。その時に、見せたい記事などがあれば、読み手の手間を省き、また、誘導するために、リンクをタイトルとともに1つ2つ入れておくと良いでしょう。

ターゲット、ツール、デバイスに合わせて調整する

材料を揃え、文章を整えたら、実際に読み手にどう見えるかの観点で調整します。

まず、ターゲットによって読みやすい文章が変わります。ビジネス向けであればある程度文章を読むことに慣れている前提で、文章が少し難しくても、分量が多くても良いかもしれませんが、学生や一般消費者向けなら優しい言い回しにした方が無難です。

イベントであれば、facebookのイベントページやPeatixのようなイベント管理ツールなどによって、表現の幅や見え方が異なります。例えばPeatixは書式設定できますがfacebookではできません。イベント管理ツールでも、PeatixとEventRegistとConnpassでも違うでしょう。

また、ツールが同じでも、PCの画面で見るのと、スマートフォンの画面で見るのは異なります。今はスマートフォンで見て反応する人の方がお多いので、PCで作成し、スマートフォンの小さい画面でチェックすると、分量が多すぎるなどの改善点が見えてきます。

心配なら、第三者からフィードバックをもらう

上記で一通り完成ですが、もし自分の経験が浅く「本当にこれで良いか」心配な場合、ターゲットに近い属性で、信頼できるフィードバックをくれる関係性の人に見せ、率直なコメントをもらうと良いでしょう。そういう人が2、3人いれば尚良いと思います。

ご紹介:オンラインセミナーの方法論

全体的な方法論は拙著に詳しく書いてみたので、ご興味あればご参考下さい。



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