見出し画像

企業アルムナイを考える(1)

会社を辞めた人のつながり「アルムナイ」が最近注目を浴びている模様。昔と比べて安定した大手を辞める人も増えているし、エンジニアやデジタルマーケティングなど、流動性の高い職種の割合も高まっている。

2000年にSIerに入った身からすると、当時はSAPやOracleなどの外資系パッケージベンダーの日本代表は概ねIBMの(特に営業)出身で、横のつながりで仕事をしている感があった。また、リクルートのような会社はB2Cで似たようなことをしていた。

海外はその辺は非常に実利的にやっているようで、以下のような話を聞いたことがある。

・ある人材輩出で有名な企業は、様々な有力企業の経営幹部となったOBだけを集めた会を高い参加費で開催している
・外資系コンサルティングファームはグローバルで同じ日にアルムナイのパーティーを開催
・ハーバードを卒業すると、OBリストから直接連絡できる(大統領やグローバル大企業のCEOなどが普通に並んでいる)

日本にある企業だと、コンサルティング、IT、消費財メーカーなどの外資系企業を除くと、リクルートのような一部企業しか現役世代の実利的なネットワークを意図的に作っているところは聞かない。

財閥系企業の「社友会」のような、基本勤め上げた人の福利厚生は現役世代のビジネス上の実利ではないし、スタートアップでもアルムナイに力を入れているところはあるものの、社員数、歴史、職種の幅の広さで考えると、あまりインパクトはない気がする。

さて、ある程度歴史のある日本企業がこれから「社友会」的なものとは別に新しく、ビジネス現役世代の実利を意図したアルムナイを作るとしたら、何を考えなければならないだろうか。

会社にとってのROI

公式な活動として、人員、予算、信用を使うのなら、それに見合うリターンがなければならない。大きな目的としては、1)人材採用、2)事業創造、の2つがあると考える。

1)人材採用

最も効くのは採用ブランディングと考える。例えば「元リク」のコミュニティに入るにはまずリクルートに入らなければならない。そのコミュニティには営業、マーケティング、ITなどの実力・実績が折り紙つきの人材”のみ”が集まっていて、様々な企業の創業者や幹部にいる。投資家も数多くいる。

起業しようと思うなら、そのネットワークから創業メンバーや投資家を集め、初期顧客を見つけ、最も難しい起業の立ち上がりの成功確率を高めたいと思うだろう。大学の頃から起業を考える人材で、無難な道を選ぶ層は、いきなり起業をするような無謀なことをせず、そういう会社で数年修行した後に起業をするだろう。単に勘違いしているだけの学生は面接で振り落とされるので、実力と意識の伴った人材が選別されるだろう。

起業するほどの気はないが、いいポジションに就きたいと考えている人間なら、OBに様々な分野の名だたる企業のトップや幹部に散らばっているとすると、そんなスカウトとが掛かるかもしれないし、会社の業績や人間関係などの実態も内々で取れるので、失敗リスクが減ると考えるだろう。

他には出戻りや外注の際のレファレンスになるという記事もよく見るが、それは現場の人材紹介コスト削減くらいのインパクトでしかなく、優秀な人材を惹きつけることほどのインパクトはないだろう。そもそも「卒業」した人間の大半は戻る気などないのではないか。

2)事業創造

もう1つのメリットは事業創造だと思う。昔のSI業界で言えば次のような流れだ。まず、海外から新しいソリューションが入るときにI社の営業部長出身の別の海外パッケージベンダーの役員クラスをカントリー・マネージャーにヘッドハントする。パッケージベンダーはほとんど直販しないので、それを拡販してくれるSIerと組んで、先行事例を作る。顧客は実績のないものを入れたがらないし、SIの営業は顧客が買いたいと思わないものを売ろうとは思わない。そんなときに過去の同僚が転職しているSIerの営業や新規ソリューション担当の役員と握り、先行事例を作って、そこから売れるようにする。

当然最初に事例を作った方が実績としての安心感もあるし、実際に起きる問題やパッケージの中身をよく知っているので、Pullで仕事が来るし、仮にコンペになっても勝てる確率が高い。

そんな風に、業界の色々なプレイヤーの主だった立場に人が散らばっていると、そういうビジネスができる。

少し先行投資的な案件をベンダーとSIerで組んで取りに行く時も、アルムナイという信用をベースとしたつながりがある仲でやるなら、裏切るようなことはできない。

ゆるい繋がりを保っていれば、ポテンシャルはあるがやわい案件のカジュアルな相談もあるだろう。知らない会社の知らない人間にそんなことを教えてあげる筋合いはないし、そもそも危険だし、受ける側もその話に乗る必然性もない。

リスク

アルムナイは下手をすると辞めた人間に会社のブランドを背負わせることになる。どんな企業でも悪人はいるし、そこまで明確な善悪というより、個人的な認識の相違によるトラブルというものもある。この辺の「公式」と「私的」な側面のバランスをうまく取り、自律的に運営してもらわないと、会社が面倒を見て、リスクをとることになりかねない。

資格

アルムナイはどの会社でもできるものではない。そこを出たことが信用やブランドとなり、心情的な愛着があることも重要だ。信用やブランドの厳選は当然過去に辞めたOBの実績と評判である。意外とそういう会社は少ないだろう。

最近のスタートアップの中には自ら未来の人材輩出企業を目指す企業もあり、そういう会社も、内実が伴えば資格はあると思う。

機会があるならばチャレンジしてみるのも良いと思う。

ご参考:オンラインコミュニティの実験場


よろしければTwitterもフォローください〜 https://twitter.com/Ryu_8cchobori