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「本はバカ向けに書け」とあるベストセラー作家に言われた話

もう10年以上前ですが、あるところのお仲間で、有名大学卒で難関資格を持ち、錚々たる社歴を経て独立し、自己啓発系のベストセラーを連発していた人に言われた言葉です。

あ、私の発言ではありませんよ(笑)

曰く、マジメに書いた本よりも、言いたいことを大幅に絞り、耳障りの良い単純なメッセージを、小学生でも分かる表現で、文字を大きくして(=少ない文字数で)書いた本の方が、何十倍も売れたということです。

書く側になると、たくさん書いたものの方が価値があると思ってしまうけれど、難易度が上がり分量が増えるほど、本を手に取る人が絞られていくので、大半の読み手が自分ごとと感じる身近なテーマで、さっと読んで直感的に頭に入るように書かなければならないということを、まあちょっと刺激的に表現したのでしょう。

その人の場合、アメリカに往復する飛行機で本1冊書き上げるとも言っていましたが、そのくらいさらっと書いた方が、読み手にはむしろちょうど良いのかもしれません。

当時はそんなものかと聞いていましたが、最近本を出したりメディアで記事を書いたりすると、その意味するところを「なるほどなぁ」と感じさせられることに直面します。

確かに、Yahoo!ニュースを見ても、芸能、グルメ、お金、恋愛、健康などに関する記事ばかりが出てきます。ビジネス系のメディアでも、何だかんだ出世や学歴のような"土くさい"テーマが読まれるようです。動画でも、前にYouTubeチャンネルのプロデューサーによる講座を企画した時、講師が「視聴数の上限はテーマで決まってしまう」と言っていました。

普段SNSで意識高いことを宣っている輩も、芸能人の不倫記事をついクリックしてしまうし、そんなことにしか関心ない人はそんな記事しか見ないので、まあ、言われてみればその通りです。

これはもちろん「庶民を見下せ」と言っているわけではありませんし、下世話なテーマや煽りで人の気を引けということでもありません。

多くの人の関心事との接点を意識し、誰にでも分かるように易しい表現にして、相手に刺さり伝わるようにしろ、ということです。

広告の人なんかはよく「田舎のおかんに電話で話して伝わるように」なんて言います。『超整理法』で有名な野口悠紀雄先生も、文章の書き方について同じようなことを書いていました。起業を教える人が「消費者向けビジネスを考える時は、地方のロードサイドにいるマイルドヤンキーに刺さるものにしろ」と言うのも聞いたことがあります。

似た属性の人ばかりと付き合っていると、自分の関心事が、世間一般の関心と勘違いしてしまうことに自覚的でなければなりません。私の知り合いは「EXILE問題」と表現していました。あんなに売れているはずなのに、自分の周りでファンだという人を見たことがない、と。

そういえば冒頭のベストセラー作家、最初に出した全く売れなかった本を、売れっ子になった後、内容は変えずタイトルと装丁だけ変えて出したら、それなりに売れたそうです。内容より知名度の方が売れ行きに影響するということでしょう。

出版社でも、最近はSNSのフォロワー数で本を出してもらうか決める編集者もいて、如何なものかと思う気持ちはあるものの、それはそれで現実です。

競争が激化するほど、コンテンツは人の直感や欲望を直接刺激して自然に選ばれるものになるという、ある種の高度化が進みます。そうした"考えずに楽しめる"コンテンツに日々大量に晒されていると、考えて解釈して取捨選択する力が弱くなります。そうした受け手の"脊髄反射化"は、好むと好まざるとに関わらず、前提条件として受け入れざるを得ません。コンテンツを多くの人に届けようと思えば必ず直面する問題です。

その流れに乗るか、あえて硬派を貫くかは自分次第。後者で大きな成果を挙げた人もいなくはないですが、確率としては不利になるでしょう。いずれにせよ、耐え抜く信念と勝ち抜く戦略は欠かせません。

私が生業の一つとしているセミナー作りにも似たところがあります。

有名人を呼んだりちょっとした煽りを入れれば集客は押し上げられますが、企画力が弱くなります。登壇者についているお客が来ても、自分の場のファンになるわけではありません。ドーピングみたいなものだなぁと思いながら、今日も知恵を絞ります。

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