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緑色できらきらしているもの。

2学期が始まった。
今日は始業式だから、
ランドセルの中身はそんなに重くない。
でも、手提げに入れて持ってきた
自由研究の工作が大きくて邪魔くさい。

夏休みはおじいちゃんと一緒に、
おじいちゃんの家の近くにある海岸で遊んだ。
そこで、拾ったこの緑色のきらきらしているものを見つけた。

忘れずにポケットに入れて、持ってきた。
あの子にあげるんだ。
みーちゃん、とみんなが呼んでいるあの子。

みーちゃんは宝石や綺麗な色の石が好きだ。
いつもたくさんの綺麗な石が載ってる図鑑を見ている。
この間話したときに、緑色の石が特に好きだと言っていた。

僕はみーちゃんが宝石の図鑑を見ているところを見てから、
みーちゃんが他の女子たちと違って見えてきて、
急に話したりするときに緊張するようになった。
でも、それに気づかれちゃいけない気がした。
なんとなく。
気づかれちゃったら、もう話せなくなる気がした。

みーちゃんが好きな緑色の石。
緑色の石はたくさんある。
濃い緑色や黄緑色、
青っぽい緑色や薄い緑色。
僕も放課後、図書室で宝石図鑑を読んだ。
緑色の石の名前を覚えて、
もっと話したかったから。

エメラルドやヒスイ、
ペリドットにツァボライト、
マラカイトとスフェーン、
他にも緑色の石はいろいろある。
なかなか全部覚えられない。

この緑色のきらきらしたものを、
いつ渡したらいいんだろう。
みんながいない時がいい。
なんとなく、渡すのをみんなに見られたくない。

教室に着いた。
いつもとおなじふりをする。
みんなにおはようっていって、
自分の席について。
いつもの友達とおしゃべりして、
みーちゃんにもおはよう、だけ言った。

どうしよう。
いつ渡そう。
ポケットの中で握りしめる。

どうしよう。
朝の会が終わって、
始業式が終わった。

どうしよう。
先生が明日からのことを、
話し始めた。

どうしよう、
今日は給食がない。
もう帰りの会だ。

どうしよう。
みーちゃんとは帰り道が違う。
帰りの会が終わった。

どうしよう。
いつも一緒に帰っている、
三木くんと橋本くんが、
かえろーって言ってきた。

どうしよう。
渡したい。
でも、渡せてない。

昇降口の下駄箱まで来てしまった。
靴を出しながら、
三木くんと橋本くんに
「ごめん、忘れ物した!先行ってて。」
と言って教室に戻った。

もどったら、
みーちゃんが居た。
図書室からまた、宝石の本を借りてきていた。

「また宝石の本借りたんだね。」

何とか話した。

「新しい本があったんだよ。」

とみーちゃんはうれしそうに言う。
その顔を見ただけで、すごくうれしい。
それと同時に、逃げたくなる。

「あのさ、これ、あげる。」

ポケットから、
緑色のきらきらしたものを出して、
みーちゃんの机の上に置いた。

「うわあ!きれいだね!ありがとう。」

みーちゃんはにっこり笑った。
僕は耐えられなくなった。

「じゃあ、また明日ね!」

逃げるように、みーちゃんに背を向けた。

教室を出て、
走って昇降口まで行って、
急いで下駄箱で靴を履いて、
校門まで走って、
校門を出ても走って、
急いで三木くんと橋本くんに追いついた。

三木くんと橋本くんに
みーちゃんと話していたことには
気が付かれていないみたいで安心した。


僕はおじいちゃんの家があった近くの海岸に来ている。


子どもと一緒に海岸を散歩している。
あの時から25年たった。
少し前を行く子どもが、何かを拾って駆け寄ってくる。

緑色の透き通った石のようなもの。

見ていたらみーちゃんのことを思い出して、
照れくさくなった。

「パパ、これなあに?」
「それはね、シーグラスっていうんだ。
 ガラスのかけらが海の波で削れてそうなるんだよ。」

それを聞いて子供は、そうなんだー。と言ってまた少し前を行く。
緑色のシーグラス。
久しぶりに見た。

みーちゃんもこんな風に子どもを連れて、
海岸を散歩しているかもしれない。


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