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ミュラーの語る「ムシアラ、ペップ、タイトル27個を獲得してもなお飽くなき野心」

—— 以下、翻訳 (イギリス『デイリー・メール』紙の記事全文)

ドイツサッカー史上、最も煌びやかな選手であるトーマス・ミュラーは、カメラに向かって顔をむき出しにし、ゾンビの真似をしながら、ノートパソコンに驚くほど近づく。思わず後ずさりしてしまうほどである。

彼は、目を見開いて狂気の状態で「グルルゥ!」と真似をしているのだ。幸いなことに、そこに良心的な説明があった。ミュラーは、自分が『デア・ラウムドイター(宇宙調査員)』というニックネームを得た理由を説明しようとしているという。

「サッカーには、多くの転機となる状況があるんだ」と彼は言う。「例えば、ボールは左サイドにあり、その左ウイングの選手がドリブルしたものの、クロスの選択肢はない。そうなると、おそらくボールを守備的ミッドフィルダーか左サイドバックに戻してしまうだろう...。その様子を相手DFたちは見ている...まるでゾンビのようにね」。そして、この不穏な印象を言い表したのが、先ほどの『グルルゥ』という言葉だ。

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彼はゾンビの真似をしてみたことに微笑み、元の話題に戻る。

「それで、言いたかったのは、裏のスペースというか、逆サイドへのクロス、つまり右側のボックスが空いてフリーになっているはずだ。だから、右サイドから走り込むことができる。オフサイドライン上に向かってね。そこで、内側にカットインだ。これは明らかな状況だね。通常なら、ボランチや左サイドバックは、このボールというのが、ゴールするにはベストな選択肢だということを知っておく必要があるんだ。」

「チームメイトには、こうした状況になると、自分が走ることを知っておいてもらう必要がある。そして、チームメイトがこのパスを一つの選択肢だと知っていることを、自分自身は理解しておかなければならないね。見た目よりも簡単なこともあるが、もちろん、クロスを出すには正しいタイミング、技術的なタイミングが必要なのは言うまでもないよ。」

「良いクロスを出すのに最も重要なポイントのひとつは、誰かの頭の上を狙うのではなく、スペースに出すことだ。ストライカーにとっては出し手が思うよりも時間が生まれ、はっきりとターゲット(ヘディング)にめがけて出すと、ディフェンダーにとって対処が簡単なため、得点のチャンスは潰えてしまうんだ」と述べる。

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リオネル・メッシのような神技も、クリスティアーノ・ロナウドのようなスピードも、ズラタン・イブラヒモビッチのような体格があるわけでないにもかかわらず、ワールドカップ優勝、2度のチャンピオンズリーグ優勝、クラブワールドカップ、9度のブンデスリーガ優勝など、27個のトロフィーを積み重ねることができるのは、こうしたコツを熟知しているからだ。

ミュラーはある意味、職人版のメッシである。メッシがやっていることに、合理的な説明はつかない。一方、ミュラーは11年前からトップレベルで活躍しているが、自分の才能を数値化して合理的に説明することができ、一見、プロなら誰でも手が届くように見える。

「それは説明がつく。間違いなくね」と彼は言い、神秘ではないと否定する。「特別なフィジカルやスキル、ドリブルの技術を持たない選手が、これほどまでに効率的であることを説明するにあたり、人はそれを大袈裟に言うものだ。きっと、僕の若い頃、人々は僕の試合を見て、最終的に僕が2ゴールを決めると、人々は『なんであんなことが可能なんだ?』と尋ねただろう。そこで人々は、何か神話的なものを作ろうとする。本来なら論理的なものであっても、特別なものに仕立ててしまうのさ。」

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「僕の強みのひとつが、何度もひたすら繰り返すこと。それが特別なのかもしれないね。優秀なストライカーや優秀な攻撃的ミッドフィルダーは、こうしたハイプレスの走りが、相手のディフェンスにとって非常に脅威であることを分かっていても、実際にそれを50回もできない選手はいるだろう。おそらく、そのうち49回はボールを奪えなかったり、失敗に終わるかもしれない。サッカーは何度もミスを繰り返すゲームだ。もう一度やって、また同じことを繰り返して、もしかしたら51回目にディフェンダーがミスを犯せば、それから得点できるかもしれない。だから、これは生まれつきの才能よりも論理的なんだ。」

「もちろん、そんな簡単なことであれば、僕たちは皆、ワールドカップの優勝者になり、ゲームの偉大なプレーヤーの一人として世界中で称賛されているだろう」。しかし、ミュラーはある意味で正しい。彼は非常に思慮深く、自分が持っているものを最大限に活用することでキャリアを築いてきたのだ。その点、フランク・ランパードにも通じるものがある。彼もまた、ワールドクラスのプレーヤーであったとはいえ、決して飛び抜けた特別なテクニックを有していたわけではないのだ。

水曜日の午後、ミュラーは最高に頭の冴えた状態で、ミュンヘンの自宅からZoomの画面越しに、質問一つ一つに対してよく考えて答えていた。特に、ドイツ生まれでイングランド国籍の資格を持つ17歳のバイエルンの天才、ジャマル・ムシアラの話題になると、嬉しげに顔を歪めるが、怒ったような表情も見せた。

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彼は、ドイツがイングランド側からムシアラを奪ったと言われると、怒りをあらわにする。ムシアラは幼少期にサウサンプトンへ移住し、代表国籍を得て10月にはU-21イングランド代表として活躍していた。

「僕たちが彼を盗んだかどうかはわからない!彼の血統を見たが、イングランドの血は入っていなかった!」とミュラーは反論する。この時、彼は心では笑っている。このドイツの利益はイングランドの損失を意味する。ムシアラは木曜日の夜、『ディー・マンシャフト』(ドイツ代表の愛称) のA代表デビューを果たす。「でも、ジャマルがドイツを選択してくれたことを、僕らはドイツでとても喜んでいるんだ。バイエルンでの長期契約と、ドイツ代表の選択は、とてもよく合っていると思うよ」

「確かに、(こうした10代の若者たちが)僕の気持ちを引き締めてくれるし、僕を好調にしてくれる。でも、僕は逆も然りだと思う。僕が彼らの気持ちを引き締めているんだ!そして彼らは、バイエルンでプレーするからには、何歳だろうと勝たなければならないと知っておく必要がある。だから、彼らには時間がない。.... だから、数年後を見越して、年上の選手を見て学ばなければならないんだ」。これは、成長のプロセスの一部である。とはいえ、彼らは「自分がプレーする間は、勝つために全力を尽くさなければならない」と考える必要があるという。

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ミュラーはまさにそれを実践し、自身10度目のブンデスリーガのタイトル獲得に近づいている。バイエルンは来週末、RBライプツィヒとタイトルの行方を左右する大一番を迎える。そして、その後、パリ・サンジェルマンと昨シーズンのチャンピオンズリーグ決勝の再現に臨む。そして、そこで勝利を収めれば、次ラウンドでは、マンチェスター・シティという、現在、世界最強と言われるチーム同士が激突する可能性がある。ミュラーにとっては、かつて3年間をバイエルンで過ごした恩師、ペップ・グアルディオラとの対戦は魅力的なものになるだろう。

「ペップ・グアルディオラがいるチームは、いつも勝利に向けた準備ができている。だが問題は、チャンピオンズリーグのノックアウトステージでは2試合しかないため、いろいろな番狂わせも起こる可能性があるということだ。去年の大会では、リヨンとは1試合だけだったね。もしかしたら、2試合あれば次ラウンド進出はリヨンだった可能性もある。もしかしたらだよ。これが問題なんだ。チャンスが1試合、あるいは2試合しかない場合、プレミアリーグのように38試合ある場合に比べて、より多くのランダム(な出来事)が起こるものさ。」

「この2年間、リバプールは素晴らしかった。しかし、今季はおそらく、ペップ・グアルディオラ率いるこの優れたチームが、リーグを制するのは間違いない。彼のチームの準備、下位チームとの戦い方、そして彼自身が最高だ。でも、トップチーム同士が対戦すれば、その差はそれほど大きくないんだ。偶然の要素を取り除けるほどではないね。」

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グアルディオラの下でプレーした多くの選手と同様に、シティのボスは忘れがたい印象を残している。バイエルンでの職務要件であったチャンピオンズリーグ制覇は果たせず、そして彼の加入直前の2013年には、ブンデスリーガ、ポカール、チャンピオンズリーグの3冠を達成したばかりだった。それでも、ミュラーいわく、彼は現在のチーム黄金期の構築に貢献したのだという。

「僕らにとって良かったのは、2013年の大成功の後にペップが来たことだ。(3冠達成の監督)ユップ・ハインケスが退任し、ペップは更なる成功に向けてあらゆることを試みた。僕らが成功の余韻に浸る時間はなかったね。ペップは、あらゆるトレーニングで僕たちに檄を飛ばしていたのだから。このシーズンにリーグ優勝するためには、それこそが重要だったんだ。ペップが去った後、去シーズンを含めて2、3年は他のチームにもチャンスがあったのかもしれない。うまく行かない瞬間や週はあったが、他のチームはそれを活かせなかった。ちょっとした運に恵まれたのかもしれないけど...。どう説明すればいいかわからないね...。あるいは、僕たちのほうが優れていたのかもしれない。」

ミュラーは、グアルディオラのやり方がどのように機能するかを説明したが、それは非常に理論的だ。「ペップ・グアルディオラは常に僕らにプランを用意しており、10分後にはさらに5つか4つの異なるプランを用意し、時にすべてを変えることだってあった。彼は、相手の出方を見て判断するんだ。『ああ、最初のプランでは不十分だった』とか、『最初のプランは機能しなかった』とね。」

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「ゲームはピッチの外でも改善される。監督はさらなる体系化を図り、おそらく細部についても、より入念な準備をしていたと思う。これまでの監督は、チームに良い雰囲気を与えようとしていたと思う。彼らは、選手に自信を持たせ、心理的にも良い状態に持ってくる術を心得ていただろう。だが、僕は、戦術面やビジネス全体が、より体系化されていっているように感じるよ。」

しかし、その結果は、選手たちの直感に任せ、見ていて美しいサッカーであったと言える。「今のシティの状況はわからないが、僕らの時代、ペップ・グアルディオラのスタイルは『私が君たちをボックスに連れていく。その後は、君たちの持つ才能と気持ちを見せてくれ』というものだった。だから、ゴール前20メートルのところまではすべてを計画し、準備する。当時のチームには、.... フランク・リベリー、アリエン・ロッベン、マリオ・ゴメス、マリオ・マンジュキッチ、マリオ・ゲッツェ、僕、それにダグラス・コスタ......がいた。そして、彼はこう言っていたんだ。『私が君たちをこのラインに連れていく。あとは君たちの仕事だ』ってね。」

ミュラーは、バイエルンのライアン・ギグスやシャビのように、伝説的なワン・クラブ・マン (注: 一つのクラブで選手生活を終えた選手) になるだろう。しかし、2015年にはルイ・ファン・ハール率いるマンチェスター・ユナイテッドへの移籍に近づいた経緯もあってか、イングランドのサッカーに興味を持っているようだ。彼は最近、シュツットガルトでのアウェイ戦の勝利を、ストークでの風の強い夜の勝利に例え、イングランドサッカーの重要な格言に精通していることを示した。

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「僕は、プレミアリーグの持つインテンシティのファンだが、それは偉大なチームが多いからだ。でも、クラブやチームのクオリティが本当により優れているかまでははわからない。プレミアリーグのチームが、飛び抜けた強さを持つとは感じていない。でも、もちろん、競争は激しいね。そして、毎週のように権威ある試合がある。」

「確かに世界で一番大きなリーグだと思うよ。でも、だからといって、プレミアリーグのトップ5が、国際大会を席巻しているわけではない。プレミアリーグの4位クラブとブンデスリーガの4位クラブを比較すると、ノックアウトの試合で対戦すれば、どのチームだって勝つ可能性はあるだろうね...。」

つまりは、バイエルンでドイツのトップを走り続けた11年間は、大抵は十分なインテンシティがあったということの表れだろう。今のところ、ミュラーはドイツ代表メンバーには入っていない。2018年のワールドカップでの敗退後、ヨアヒム・レーヴ監督がチームの若返りを図ることを公言し、ミュラーとともにレジェンドのマッツ・フンメルスやジェローム・ボアテングを除外したためだ。しかし、このバイエルンのストライカーは非常に優れたパフォーマンスを披露しており、この夏、代表チーム復帰が叶わないとは考えられないだろう。「EUROの試合で僕を見られるチャンスがあると願っているが、今後数週間、何が起こるかはわからないね」。そう彼は語る。

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31歳の彼は、これから先の数週間に関して、プレッシャーを感じていないようだ。「それが僕の才能なのさ!」と彼は言う。「普通なら、バイエルンでプレーすると、1年で3歳年をとると言われているよ。もちろん、メディアからの注目度は非常に高い。どんな親善試合でさえもドイツのテレビで放映されるので、リラックスする時間はないね。パスやシュートで失敗すれば、みんなが『おいおい、トーマス・ミュラーは調子悪いぞ!』と言う。ストレスはあるけど、僕はこの仕事が大好きなんだ。」

「長くこの仕事をしていると、ややこのプレッシャーの中毒になってしまう。引退後に最も困難なことのひとつは、このアドレナリンや高まる気持ちを与えてくれるものを見つけることかもしれないね。とはいえ、僕たちが通らなければならない道なのさ。山に行ってヘリでジャンプするとか、さあどうだろう?普通の生活では、ありえないようなことだ。これまで、多くの選手たちが同じような問題を抱えてきたし、今後、(引退後には) 僕自身も同じ状況で、問題を抱えるだろうね」。

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しかし、今のところ、ミュラーにはチャンピオンズリーグとブンデスリーガのタイトル防衛戦が控えている。その後、おそらく欧州選手権での代表召集に向けて、準備を始めることになるだろう。ヘリから飛び降りるのは、まだ先になりそうだ。

▼元記事
https://www.dailymail.co.uk/sport/football/article-9409579/Bayern-Munich-icon-Thomas-Muller-Musiala-Guardiola-hes-hungry-27-trophies.html


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