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2022年8月の記事一覧

寄生虫

曼珠沙華の球根が透けて
しとしと滴る堰に寄生虫
人人人
選ばれぬ虫は落胆し
歪な貯水池に溜まる
日々に皹、けれど決壊しない
闇夜に漣が立つ
約束は響かない
寄生虫が次の宿主を探し始める
人人人

冷蔵庫

冷蔵庫の扉を開く
食べてもらえなかった料理たちが
乾涸びている
時々こうなる
でもこれがしばしの平穏
点滴で体調が戻れば元通り
不条理な怒りの矛先がこちらに向けられる
弱り気味だととても助かる
悪い事も良い塩梅に忘れてくれる
酷いよね、こんな気持ち
冷蔵庫の扉を閉じる
冷たさが床にこぼれる

希望

私はあなたのために祈っています
あなたにはどう見えているのでしょうか
どんな失望の果てにも
悲しむ心は生き残ります
それこそが希望だと気付かずに足が怯む
希望は大概悲しい顔をしています
泣き顔のまま歩けばいいのです

友愛

声の高さを下げたらルの音が濁った
速度を二百八十四分の一だけ落とす
友愛の感情があなたに伝わって
それでじゅうぶんだとわかった
笑顔は過大評価されているかもしれない

焦げ臭い

なんでもかんでも押し込めた
箱が破裂し元の木阿弥
こんがらがった矢印が
いつまでたってもほどけない
ぼかんと花火はひろがって
掃き溜めの全てを照らし出す
火の粉が辺りに舞い降りて
てっぺんあたりが焦げ臭い

思いわずらい手足は出さない
しずくが落ちる、鼻の頭に
そして乾燥、蚊がとまる
綺麗なことを願っても
からっぽな私
他にはなんにもしていない
してない頭が蒼天に吹かれ
してない心がわずかに揺れた
私をおおらか包むもの
私に投げかけ開くもの
空は
夢の中より現実の方が綺麗
たぶんあってる

立っている

今日は父の機嫌が良いと蝉の翅に書き綴る
どうでもいいよね、そんなこと
終の現実を受け止めたきみが泣いている
抜け殻だけに支えられて立っている

それはごめんね、さようなら

見捨てられちゃう事をほんわかと受け止める
何を怖がっていたのだろう
失望したの?それはごめんね、さようなら
人生を差し出すことはもうやめる

忘れ物ならたくさんしてきた

小銭入れに鍵だけ入れて散歩する
足りないことはわかってる
圧縮太陽からの光線が
虹彩をさらにしょぼくれさせた
いろんな匂いがする
足の裏のべとべとを引き剥がしながら歩く
持ってるこれ、何の鍵だっけ
忘れ物ならたくさんしてきた