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劇的な優勝の裏側にあった、ベテラン選手のことばとキャプテンの決断。

去年の天皇杯決勝は、歴史に残る名勝負だった。

大分トリニータ vs 浦和レッズ。

J2への降格が決まっている大分は準決勝で、圧倒的な強さで今季のリーグ優勝を決めた、川崎フロンターレをPK戦の末に破り、勢いじゅうぶん。
対する浦和は、今季はじめにリカルド・ロドリゲス新監督を迎えたほか、シーズン途中にも多くの選手が加わり、まさに「血の入れ替え」の1年だった。その集大成として、このタイトルは是が非でもほしい。

そんな両チームの対戦である。

ゲームは、早くも前半6分に動く。右サイドで、浦和の『小泉 佳穂』選手と大分の『三竿 雄斗』選手が競り合い、そのこぼれ球を浦和のMF『関根 貴大』選手が拾う。大分の選手を2人かわして、中央でフリーになっていた『江坂 任』選手へクロス。今季新加入の新たなエースが、これを冷静にゴールへ流し込んだ。


そのままスコアは動かず、ゲームは終盤へ。パワープレーから好機を狙いたい大分は、79分、前線に長身の『長沢 駿』選手を送り出す。これに応じるようにして、浦和は日本代表経験もあるDF『槙野 智章』選手をピッチへ送る。その選手交代が、指揮官からの「逃げ切れ!」というメッセージであることは、誰の目にも明らかだ。

それでも、勝負の女神はかんたんには微笑まない。

迎えた90分。
大分『下田 北斗』選手からのクロスに、『ペレイラ』選手がヘディングであわせ、同点に追いついた。下田選手は、準決勝の川崎F戦に続き2試合連続でのアシストを記録する。

このとき、ピッチ上ではどんな会話が行われていたのか。そのことについて、槙野選手が元浦和レッズで主将を務めた『鈴木 啓太』さんのYouTubeで話している。

槙野 西川選手からキャプテンマークを渡されたので、キャプテンの仕事をやらなきゃいけない、って考えたときに、ぼくはセンターラインの選手を呼んだんですね。

江坂選手、柴戸選手をまず呼んで、「どうする?」って。そしたら、「とりあえずこのままでいきましょう」と。

(「このままでいく」とは、後半を1-1で終わらせて、延長戦にもっていこうということ。)

鈴木 うん、うん。

槙野 次にCBの相方・岩波選手に「どうする?」って聞いたら、もう点を決められたショックで、何を本人も言っているかわかんない状態で。でも、「このままで」みたいな感じだったんですよ。

最後に、1番経験のあるGKの西川選手に「周ちゃん、どうする?」って聞いたら、「まだ時間あるでしょ?」って。めちゃくちゃ笑顔で「まだ時間あんじゃん。マキ、行ってきたら。(ゴール)決めてきたらいいじゃん。」って言われたときに、ゾワゾワってして。

鈴木 おお、おお。

槙野 それで、すぐみんなに「点獲りに行くぞ」って言ったんですよ。

(「槙野智章が語るヴィッセル神戸移籍&浦和レッズラストゴールの真相」|鈴木啓太 / Keita Suzuki より)

一部、筆者により編集

そして、アディショナルタイム3分。浦和はコーナーキックからのこぼれ球を、『柴戸 海』選手がボレーシュート。そのシュートコースにいた槙野選手が、ヘディングで軌道を変え、ゴール。再び、浦和がリードを奪い、試合は終了。浦和の劇的な勝ち越し劇で、幕を閉じた。


漫画のような展開。選手、それから会場に押し掛けたファンの興奮はすさまじかっただろうな。

それから、ベテランの選手2人の意思決定が、この結末をもたらしたのだとすると、なかなかしびれる。やはり経験というものは尊いなぁと、あらためて感じた。

直接、ゴールを奪いに行けなかったとしても、それをする誰かの背中を押すことはできる。当初の役割を果たすことができなかったとしても、別のかたちで、それを取り返すこともできる。

ベタだけど、最後まで諦めないって、大事だね。

【参考】


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