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ことのはいけばな

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花を活けるように、言葉を三十一文字の器にのせて活ける。地軸の傾いた地球に乗って、太陽の周りを一巡り。花を立て言葉を立てて、遊行します。
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2021年10月の記事一覧

ことのはいけはな 寒露 第50候『菊華開』

ことのはいけはな 寒露 第50候『菊華開』

菊の香やあそびし土手の少年は花虻のよに優しい羽音

天晴れて泡黄金菊秋の陽に花虻を呼び花粉は溢れ

わかれても再び見ゆ菊と虻もとはひとつのいのちなりけり

わかれても再び見ゆはなとひともとはひとつの別れ身ならん

ことのはいけはな 寒露 第49候『鴻雁来』

ことのはいけはな 寒露 第49候『鴻雁来』

巣抱く日の母なる鳥の翼待ち聖なる命掃き清めるしか

夜は母青黒き母すべからく眠りの翼歌を歌いつ

在りし日の大きな翼安まりて廃墟の奥に密やかな森

光塵に白き翼をもつ人の羽毛の混じるまだ温かい

雁金の恋の渡りを鳴く鹿の静かになればもっと静かに

雁金の恋の渡りを心臓へ落ちるもみじも潜もる虫も

雁金の恋の渡りを死ぬほどに飛び散るもみぢ雨駆けくだる

雁金の恋の渡りもおしえてよ鹿子まだらのあざやか

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ことのはいけはな 寒露 第51候『蟋蟀在戸』

ことのはいけはな 寒露 第51候『蟋蟀在戸』

冬の来て夜よりわかれ空は空立木は未だ夜から出でず

冬きたり夜よりわかれ空は空昼の時間をかぞえはじめる

十三夜月見て右目洗いたり体の底のいづみなみだつ

十三夜銀色の月雨上がりコクンと喉に滑りて落ちる

秋月夜右目に月を戻したり頭蓋の中に光初めてき

寒空の月を右目に戻しては瞼が少し腫れぼったくて
寒月を水に映して目を洗う月吠え猫の喉を鳴らして

明け染めて虫の声の輪せばまりて鳥たちの声風の木揺

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ことのはいけはな 秋分 第48候『水始涸』

ことのはいけはな 秋分 第48候『水始涸』

“MINAMATA”や母なる海を汚すとは生類全て殺すことなり

依存症食い尽くされし心かな聖地荒らしてトラウマ招き

トラウマに抗するマコトを水に立て深き泉に砂子清らか

晩夏より一足遅く蜩の笑うようなる声一度きり

さる人の誕生日の頃香り来る金木犀の二回咲く秋

ことのはいけはな 白露 第45候『玄鳥去』

ことのはいけはな 白露 第45候『玄鳥去』



向かい風南を見つめ燕飛ぶ首都高の空立体交差

台風のやってくるらし雲早く燕は南へ車は西へ

雨雲に傾いて飛ぶつばくらめ嵐突き抜け母なる土地へ

ことのはいけはな 白露 第44候『鶺鴒鳴』

ことのはいけはな 白露 第44候『鶺鴒鳴』



鶺鴒の尾を振り誘うも一つの辿りえぬ道真昼の星座
空にみつ山の懐虚空蔵鶺鴒の声印むすぶ日よ
あっちへこ…こっちへこ…と黄鶺鴒羽音のみして
空みつの山より千切れ黄鶺鴒虚空の貴石和毛残して
愛らしき思わせぶりの鶺鴒の石橋叩き芝の浮島
鶺鴒の振る舞いの指す別の道有ると思えば辿れるものを

ことのはいけはな 白露 第43候『草露白』

ことのはいけはな 白露 第43候『草露白』

*生類の終わりに向かう白露かなあさがほが花ぷっとふくらむ

*秋の夜の露に宿りし月あかり苔燈籠の玉座に坐す

*白昼におおき雫の光とて乾いた立木に注がれしを
*おおいなる空よりみつる雫かな枯れ木は白く白へと返る
*白髪の翁の瞳につゆ宿るひかりのたうち虹の漆黒
*みどりなる光と闇の瞬きの永遠に思ほゆひぐらしの杜
*眠り杉夜泣きの子らの子守唄その枝下げて寝息するなり

ことのはいけはな 処暑 第42候『禾乃登』

ことのはいけはな 処暑 第42候『禾乃登』

奇稲田姫はたなびく田のように涼やかで美しく、黄金の実りをもたらす豊穣の女神だ。
その夫(つま)は素戔嗚尊。その名の通り凄まじい勢い、エネルギー、稜威の神だ。稲の妻は稲妻。素戔嗚尊は雷神だ。素戔嗚尊は海と冥界を司るから月神でもある。

*少年は神とはなりぬ青墓の秘められた場所夏の日暮るる
*青墓の尾根歩きては蹲るおおきけものの脊椎かぞふ
*残照に青墓守る月の木の森まっさきに黒くなりぬる
*日が落ちて

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ことのはいけはな 処暑 第41候『天地始粛』

ことのはいけはな 処暑 第41候『天地始粛』



自分の内側に真っ直ぐ筆を下ろし、その地に淡々と文様を描く。あるいは文様をなぞる。「粛」という文字はそんな意味を持つ。「すずしい」とも読む。そう、鈴が玲瓏となる音がするようなベタっとした空気の夏が終わり涼しい風が抜けるのだ。耳をすまさないと聞こえない。「自粛」は「自縮」ではなく、そうやって自らに耳を傾け、喧騒に耳を貸さず、粛々と己の命の奥へ旅をすることだ。樹々はずっと昔からそうしている。そうして

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ことのはいけはな 処暑 第40候『綿柎開(わたのはなしべひらく』

ことのはいけはな 処暑 第40候『綿柎開(わたのはなしべひらく』

綿を包むガクが開き始める頃。綿の実がはじけ白いふわふわが顔をのぞかせた様子。

処暑。暑さが「とまる」。その初候が『綿柎開(わたのはなしべひらく』。

*萼を破(わ)り コーマの綿の 雲はらい 核の硬さの むすばれほどけ
 gaku wo wari coma no wata no kumo harahi kaku no katasa no musubare hodoke
*御仏は 古き海底 海百合

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ことのはいけはな 立秋 第39候『蒙霧升降』

ことのはいけはな 立秋 第39候『蒙霧升降』

*会いたくて大口真神白き世に遠吠え遥か青き目かぎろい
*苔を踏み岩に雫の伝い落ち睫毛を袖を濡らす狭霧の
*狼の今にも緑の木の間から揺らぎ出るか足音もなく
*真っ白の細かき粒に閉ざされて杉の潜みに光る胸板

ことのはいけはな 立秋 第37候『涼風至』

ことのはいけはな 立秋 第37候『涼風至』

広島 長崎 敗戦  お盆  

 八月…お盆の季節。地方では月遅れの七夕やお盆をするところも多く、故郷に帰る人も多い。エイサーのこと。盆踊り。死者たちと生きる。

 広島、長崎へ原爆投下の日、そして敗戦の日が刻印されている。

立秋 風 盆踊り

 「風立ちぬ 野の風姿 風に吹かれる花の姿と、自らを重ねる。
 花と人の間に活け花は立ち上がる」。

八月の花の教室のテキストにはこんなことを書いた。。

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ことのはいけはな 立秋 第38候『寒蟬鳴』

ことのはいけはな 立秋 第38候『寒蟬鳴』

この候のはじまる三週間も前に蜩が盛んに鳴いていたのは諏訪だった。
夕方近くに宿に着いたところ、大社の杜から響き渡ってくる音量にちょっと驚いて、こんなにも早いことを訝った。さらに部屋の扉を開けて入るとここも蜩の声で満たされている。
生命の弾む土地に来たことは嬉しい。夏の夕暮れ雲を見ながらこの歌を聞くのは好きだ。とはいえ、夏の終わりにはだいぶ早い。

一夜明け、明け方にも蜩が鳴くことを始めて知った。

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ことのはいけはな 大暑 第36候『大雨時行』

ことのはいけはな 大暑 第36候『大雨時行』

 「立秋初空」 はなのみち4季最終回
 パンデミックとされた2020年4月からの花のクラスは9月スタートで人数も絞って始まった。この8月が最終回。「初空」というのはお正月の季語だったのを、秋の立つ空の気配のこととしてタイトルに使ってしまった。でも、「終わりははじまり」の最終回にはふさわしかったかもと思っている。9名の生徒さん全員完走してくれた。修了証の絵は誰がどれということはないけれど、それぞれの

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