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27で感じた青春の一ページ


「ながちゃん、ごめん、、、」


過呼吸になりながら、涙を流しながら、しぼり出したその声は震えていた。


「、、、いえ、、」


その一言をなんとか出せたが、頭のなかはまっしろだった。


「・・・」


*  *  *


ここはブラジル、リオデジャネイロ。

日本の地球の真裏にあたるこの場所は、12月にして気温36℃。まさに真夏状態。


ここに僕らは日本代表選手として、とあるスポーツの大会に出場していた。

思いやりのスポーツ、「フレスコボール」だ。

2人1組でペアを組み、ボールを打ち合い、そのパフォーマンスを採点されるこの競技は、相手の打ちやすいところへ打つことを強いられ、競技中の5分間はまさに”2人の世界”になる。


プレー中の心境

本番を迎えるまでに費やした練習の日々

日本代表として背負うもの

2人にしか理解できない世界がそこにはある。


僕らは、ブラジル選手権で優勝するために、多くの時間を練習に費やしてきた。毎週末のように集まり、何時間もボールを打ち続け、どうすれば勝てるのか?その戦略を話し合ってきた。

プライベートや仕事のことでブラジルへ行くために、様々な努力もしたし、時には苦しい思いもした。


それらを乗り越えて臨んだ、大会だったのである。


*  *  *


僕らは予選をほぼトップの数字を叩き出し、通過した。


「まだまだできることがある」という手応えの中での結果だったこともあり、「優勝」が手に届く範囲にある実感があった。


「これはいける」


そのフレーズがはっきりと頭をよぎった。

とはいえ、楽観していてはいけないことぐらい、まだまだ未熟な僕でも知っている。残りの時間は、慎重にコンディションを調整していった。

ラリーの呼吸を合わせ

入念にストレッチし

予選の動画を2人で見てミスの要因を全て洗い出し

少し柔らかめなベッドに倒れこんだ。


翌朝、本番の日。

少し早めに会場に到着し、アップをはじめ試合のイメージを固めていった。

「大丈夫大丈夫、いけるいける」

そう自分自身に言い聞かせ、徐々に体を暖めていく。あまりの暑さに、軽く動いただけであっという間に全身の毛穴から汗が流れていた。

そんな中、1球1球、フォームと打球の軌道とスピードと、意識して打っていく。

ライバルである他のプレイヤーの動きも意識しつつ、1球1球丁寧に打っていた。


そして迎えた本番の時間。

周りには応援の声を送ってくれる日本代表チーム

コート横にはサポートしてくれるブラジル人選手

その逆側にはパフォーマンスを採点してくれる審判員

目の前にはペアの芝さん。


「大丈夫、いつも通りやるだけ、、」

すでに汗でびちゃびちゃなユニフォームで、滴り落ちる汗を拭う。


パァン


ラリーがはじまった。

すぐに落球し、次のラリーも即落球。

緊張感が全身を襲っていた。


・・・


正直、この先のことはあまり覚えていない。

とにかく暑くて

息を切らしながらも、必死にボールを打ち続けた記憶しかない。


気づけば試合が終わっていて

泣き崩れた芝さんが目の前にいた。

ペアの俺が声をかけにいくシーンだとわかっていても、体が動かなかった。


「終わった、、?」

終わった事実をやっと確認しているほど、頭はぼーっとしていた。

タオルを片手に突っ立ていて、焦点が合わないまま、ペアの姿を見ていた。


「ああ、ここに来るまで色々あったんだよなぁ。」

これまでにあったことを思い返して、目の前で流れ落ちる涙の意味に気づく。

それでも、謝るペアを目の前に、「、、、いえ、」しか返せなかった。


もっとできた、

もっとできた、、

もっとできた、、、!!!

悔しさがすごい勢いで押し上げてくる。

手にしていたタオルをギュッと強く握りしめ、唇を噛み締めていた。


もう帰ってこない5分間。

この瞬間しか打てない1球。

わかっていたつもりでも、まだ甘かったんだ、、、


そんな後に撮ったこの写真。

必死に笑顔をつくってる感じがあって、忘れられない1枚になった。


*  *  *


結局、結果は3位に終わった。

表彰台に上ったのは、日本人初の快挙だったかもしれないが、優勝を目指していた僕らとしては悔しさが残る。

もちろん嬉しかったけど、納得はできていない。


また来年、このブラジルの地に僕は帰って来る。

その時は、一番センターでトロフィーを掲げたい。


芝さん、ありがとう。


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