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はじめての手術見学🔰

医療系学生は、初めて医療現場に足を踏み入れるとき、ショックを受けたり感動したり様々な思いを持つでしょう。今日はそんな経験のひとつをお話したいと思います。

私は手術室が苦手で、決して外科系には進むまいと思っていました。手洗いした後にうっかりどこかに触ってしまうと「この人不潔にしました」と叱られるし、患者さんと会話できないし、みんなテキパキと無言で動いているし、自分には向いてないなぁと感じていました。加えてかぶりものが苦手で、帽子をずっと被っているのも嫌でした。

そんな一連の手術室実習で、心臓外科の手術を初めて見学した日がありました。今はどうしているのかわかりませんが、当時は手術台の後ろの方に小高いエリアが作られていて、7人くらいの学生がズラっと並んで覗き込むように見学する、というスタイルになっていました。後には実際に補助に入る実習もありましたが、最初はただの見学でした。

たしか弁膜症か何かだったと思います。教室の講義でしか見たことのなかった先生たちが術衣で現れ、手術を始めました。テレビで見るような厳粛な雰囲気ではなく、和やかに冗談とかいいながら、順調に手術は進められていました。

ところが、急に術場の雰囲気が変わりました。不整脈が出て、ちょっと危ない状況になってしまったのです。冗談を言っていた先生たちもにわかに厳しい表情になり、看護師さんたちの動きも速くなりました。

初めての見学だというのに、ひょっとして死んじゃうの⁈と、私はドキドキが止まらず、息を呑んで見守っていました。

なんとか危機は脱出したようでしたが、結局手術は中止になってしまいました。後日落ち着いてから再手術、と学生たちには伝えられました。でも学生の実習期間は限られているため、再手術を見ることはできませんでした。次に回ったグループの話によると、2回目はうまくいったとのことでした。

その後私は無事医師国家試験に合格し、出身校のとある医局に入局しました。雪国の大学なので、当然のように冬になると医局のスキー旅行というのがありました。唯一できるスポーツがスキーなので,私も参加しました。

夜になり、知り合いが経営する居酒屋がスキー場のそばにあるんだと1人がいうのでみんなで飲みに行きました。するとその居酒屋のご主人が、「昔大学病院さんにはお世話になってね。心臓の手術を受けたんだけど、手術中に不整脈が出て中止になったんだ。でも2回目には上手くいって、おかげさまで仕事に戻れたよ」というのです。

あれ?どこかで聞いたような?と思い名前を聞いたところ、忘れもしない学生時代に見学した、あの患者さんだったのです!

今でも、社会復帰して別人のように元気になっている「もと」患者さんに会うと、本当に嬉しい気持ちになります。医療の仕事は大変ですが、こういう喜びもあるからやめられないのでしょう。

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