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【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #27】 キュウリのサンドウィッチとポークパイ(1/4)

「ザ」・サンドウィッチ

夏はピクニックの季節だ。梅雨の日本のように雨と湿気にさいなまれることもなく、好天に恵まれ爽やかな風が吹き、盛夏にまでは少し間がある6月から7月にかけてのイギリスは、ピクニックに最適である。緑豊かな芝や牧草の続く緩やかな丘がいい。できるだけ高いところまで登って、籐編のバスケットからでなくともいいが、食べ物や飲み物を取り出して、敷いたテーブルクロスに並べる。上流でも中流でも労働者階級でも、ピクニックはするものだ。上流階級は社交やちょっとした気晴らしとして。労働者階級は平日の窮屈な生活からの一瞬の解放を目指して、時には年に数度しかない一大イヴェントとして。いずれにせよ、サンドウィッチとポークパイは代表的なピクニック・フードである。

ハム、ベーコン、レバーペースト、サーモンペースト、チーズとピクルス、何をパンに挟むかはそれこそ階級によって異なるものだが、もし「ザ」・サンドウィッチと呼べるものがあるとしたら、それはキュウリのサンドウィッチである。例の、カード遊びの間に軽くつまめて腹の足しになるものを第4代サンドウィッチ伯爵(1718-1792)が命じて作らせたからだという神話もあるが、その中身がキュウリだったということは意外と重要だ。

それは、18世紀当時キュウリは、イギリスの冷涼な気候では育たない植物だったから。広大な邸宅に温室でも設えられる財力がないととても口にできるものではなかったのである。富の象徴としてのキュウリ。日本のキュウリのように細く身がしまって硬いものではない。イギリスで食べられるキュウリは加賀太胡瓜のように太く、色も薄グリーンでとにかく水っぽい。それを薄くスライスし、薄いパン2枚ともにバターを塗る。厚めに塗る。そうするとキュウリの水分がバターの脂分に遮断されて、パンがぐしゃっとしないから。バターを塗ったパンにキュウリを置いて塩と胡椒、レモン汁を少し垂らし、挟んでできあがりだ。マスタードを塗ってもいいし、場合によってはマヨネーズという人もいるだろう。また、キュウリを軽く塩もみしたほうがいいという人もいるだろう。でも、かっぱ巻の相方なのだから、シンプルな方がいいし、実際そんなに手をかけないのがキュウリのサンドウィッチのいいところなのだ。

加賀太胡瓜

騙されたと思ってバター、塩、胡椒、レモン汁だけのキュウリのサンドウィッチを作ってみてほしい。美味いのだ。そして濃く淹れたミルクティーにこれほど合う、つまりお茶の香りの邪魔をせず、フレッシュな食感と水気で間をつなげるスナックもなかなかないことに気づくだろう。

余談をひとつ。夏の代表的なアルコール飲料にピムスがある。レシピ秘伝の薬用酒だが、その飲み方はレモネードや炭酸で割ってオレンジやレモンなどの柑橘類とミントの葉を浮かべ、そして必ず薄切りのキュウリを入れる。ピクニックのドリンクとしても人気がある。最近ではスコットランド産のジンであるヘンドリクスで作るジントニックにも薄切りキュウリを入れるレシピが一般的なようだが、キュウリの軽い青臭さに清涼感を求めるのは、19世紀にインド支配を完了した大英帝国の軍人や官僚たちの志向とあまり変わらないのかもしれない。暑いインドの気候をやり過ごすために、このヒマラヤ原産の瓜がちょうどよかったのだろう。 

(続く)


キュウリのサンドウィッチのレシピ

4人分

材料

食パン        8枚
キュウリ       4本
無塩バター      40g
レモン果汁      適量
塩          適量
白胡椒        適量

作り方

①キュウリの両端を切り落とし、食パンの幅にあわせて長さを切りそろえてから縦長にうすくスライスする。

②スライスしたキュウリをボールに入れ、塩、レモン果汁とともにあわせてキュウリがしんなりするまで15分ほどおいておく。

③食パンを厚さ1㎝ほどにスライスして、そのパンの片面に室温でやわらかくしておいたバターを塗る。

④ペーパータオルなどで水分を拭き取ったキュウリをバターを塗った食パンに少しづつずらしながら並べていき、その上から白胡椒をかるくふって、もう一枚のパンではさむ。

⑤パンの耳を切り落とし、縦に並べたキュウリにたいして横向きにナイフを入れサンドウィッチ全体を三等分する。これでキュウリの断面が上向きにきれいに見える。そしてさらにそのひとつづつを横半分にカットして6個のサンドウィッチができるようにする。


次回の配信は7月14日を予定しています。

The Commoners's Kitchen(コモナーズ・キッチン)

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