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越境ECで重要になる関税とは?各国の関税制度や注意すべき点を徹底解説

インターネットを介せば、国や地域をまたぎあらゆるECサイトで買い物ができます。
日本の商品や文化は広く海外にも認知されているため、ターゲットとなる客層は今や日本人だけではありません。
しかし、国境を越えて海外の人と取引する越境ECの市場規模は拡大していますが、国を広げる際に注意しなければいけないのが関税です。
ECサイトで販売する対象国の関税や法律について把握しておかなければ、多額の税金を徴収される可能性があります。

この記事では、越境ECで重要な関税の目的や仕組み、各国の関税制度、日本の消費税、注意点などを詳しく紹介します。

この記事でわかること

  • 越境ECと関税の関係

  • 各国の関税制度

  • 越境ECを行う際の注意点

こんな方におすすめ

  • 越境ECの展開を考えている

  • 越境ECを展開したいが関税制度を詳しく把握していない

  • 越境ECを展開するために各国の関税制度を知りたい



1.越境ECで重要になる関税とは?

越境ECとは、インターネットを活用して海外の顧客へ商品を販売したり、海外の商品を日本へ取り寄せるなどのEC取引のことです。
自社で越境ECを運営する、または海外のECサイトに出店するなど、さまざまな方法で海外の顧客を巻き込むことができます。
ECサイトを介して日本の商品を海外の顧客へ販売すると聞くと、日本人へ販売するのと何ら変わらないように感じますが、思わぬ落とし穴に関税があります。
関税は越境ECで売価を決定するのに必要不可欠な要素であり、対象国ごとに異なるため、見落とすと収支計画が大幅に乱れてしまう可能性が高いです
関税は国内販売では発生しない要素になるため、越境ECを行う際は必ず事前に把握しておく必要があります。


2.そもそも関税とは?

関税とは、物品の輸出入に課せられる税金です。
大きく分けて、輸入国が課す輸入関税と輸出国が課す輸出関税の2種類がありますが、日本には輸出関税制度は用いられていません。
簡単に説明すると、海外の人が越境ECを通じて日本の商品を購入した場合、輸入関税が課せられるということです。
関税率は、地域間における状況や情勢で変動があり各国で異なります。2018年には、アメリカが中国に対して追加関税を発動したことが話題になりました。
ここでは、関税の目的と仕組みについて詳しく解説します。

2-1.関税の目的

各国が関税を課す主な目的は、国内産業の保護と市場経済の混乱防止です。
例えば、安い商品を海外から大量に輸入できた場合、国産品の売れ行きが悪くなり国内産業が衰退する可能性があります。
関税を課すことで輸入品の値段を上げれば輸入に頼り切ることはなくなるため、国内産業を守りつつ、市場経済の混乱を防止できます
また、輸入品に課せられた関税は国へ支払う必要があるため、国の財源を支える重要な収入源になるという側面もあります。

2-2.関税の仕組み

関税の仕組みは大きく2つに分けられます。

  • 国定税率:数量に対して国が定めた一定の税率

  • 協定税率:WTO加盟国により交わした貿易協定で定められた税率

自由貿易を促進する目的で用いられる協定税率は、一般的に国定税率よりも低く設定されていますが、WTO加盟国以外は適用されません
また、関税の計算方法は価格、重量、数量、容積など、さまざまな計算方法があります。

  • 従価税:価格にかかる関税

  • 従量税:重量、容積、数量にかかる関税

  • 混合税:どちらにもかかる関税

  • 特殊関税:時と場合でかかる関税

一般的なのは価格に対して掛けられる従価税で、ガソリンやタバコなどは、重量や数量に対して掛けられる従量税が用いられています。
どちらにも掛かる混合税は一部の乳製品が対象であり、卵黄や魚油などは従価税と従量税の双方を計算したうえで、高い方が採用されます。
他にも、相殺関税、報復関税、緊急関税、不当廉売関税と呼ばれる特殊関税があります。
これらの特殊関税は、主に国内産業が脅かされると判断された場合の緊急的な対策方法として用いられることが多いです。


3.各国の関税制度

越境ECを行う際は、各国の関税の把握が必要不可欠です。関税を把握していなければ、予想以上の関税で収益が見込めない可能性が出てしまいます。
ここでは、東南アジア、東アジア、北米の関税制度を詳しく紹介します。

3-1.東南アジアの関税制度

東南アジアのASEAN域内の貿易では、特恵関税が適用されます。特恵関税とは、途上国が先進国からの輸入品に対して低く設定された税率を適用する制度です。
ここでは、東南アジア各国の関税制度を解説します。

①シンガポールの関税制度
シンガポールの関税は一般関税と特恵関税の2種類ですが、ビールなど4品目のみが課税対象になるだけであるため、原則利率はほぼゼロです。
しかし、特恵関税で免税されても物品税は課せられます。物品税はシンガポールの国内税であり、輸入品以外にも課せられている税金です。
物品税の多くは従価税で計算しますが、アルコール飲料、タバコ、石油製品などは従量税となります。

②マレーシアの関税制度
マレーシアの関税は、一般税率とFTA・EPA適用税率の2種類です。
多くの商品が課税対象で、基本的には従価税で最大税率は60%となります。品目分類は、国際統一商品分類に基づいています。
しかし日本とマレーシアは、JMEPAおよびAJCEPを締結しているため、両方の協定を利用することで減免または免税になります。

③タイの関税制度
タイの関税制度は、全部で5種類の税率で成り立っています。

  • 一般税率

  • ASEAN共通効果特恵関税(CEPT)税率

  • 自由貿易協定(FTA)の適用税率

  • 一般特恵関税制度(GSP)税率

  • 世界的貿易特恵関税制度(GSTP)税率

関税品目表はWCO(世界関税機構)協定に基づいており、大部分は従価税ですが一部の品目は従量税が課せられます。課税基準はCIF価格です。
従来まではタイの関税は非常に高額でしたが、現在はEPAの廃止やFTAの締結により、連携の強化および協力の促進が行いやすくなっています。

④インドネシアの関税制度
インドネシアの関税制度は、全部で5種類の税率で成り立っています。

  • 一般税率(輸入関税、輸出関税)

  • ASEAN共通効果特恵関税(CEPT)税率

  • 自由貿易協定(FTA)の適用税率

  • 一般特恵関税制度(GSP)税率

  • 世界的貿易特恵関税制度(GSTP)税率

品目はASEAN統一関税品目分類コードに合わせられており、基本的には従価税です。課税基準はCIF価格で、市場価格に応じて財務大臣が定めています

基本輸入税率は以下の通りです。

  • 最必需品:0~10%

  • 必需品:10~40%

  • 一般品:50~70%

  • 贅沢品:上限200%

3-2.東アジアの関税制度

続いては、世界最大の購買力を誇る中国や、隣国である韓国や台湾が含まれている東アジアの関税制度を詳しく解説します。

①中国の関税制度
中国の関税制度は、全部で6種類の税率で成り立っています。

  • 一般税率と最恵国待遇税率などが併存する複税制

  • アンチダンピング税

  • 反補助税

  • 特別関税

  • 低税率品目

  • 高税率品目

日本から中国への輸入では最恵国税率が適用され、主にかかる関税は郵便税と越境EC総合税の2種類です
また、中国から商品を輸入する場合は、個人輸入と商用輸入で関税が変わります。

  • 個人輸入:商品代金の60%課税対象であり、20万円以下で簡易税率、超える場合は実行関税率が適用

  • 商用輸入:20万円以下で簡易税率、超える場合は実行関税率が適用

個人輸入とは違い、商用輸入の場合は商品代金だけではなく、卸売価格や送料、保険や経費を合わせた金額すべてが課税対象です。
個人で使用することを目的に購入したものが個人輸入で、第三者への転売を目的とした輸入が商用輸入というように線引きされています。

②台湾の関税制度
台湾の関税制度はカラム1、カラム2、カラム3の3種類に分けられています。

  • カラム1:WTO加盟国・地域または台湾と互恵待遇を有する国もしくは地域からの輸入物品に適用

  • カラム2:特定開発途上国・地域、または台湾と自由貿易協定を締結している国家・地域からの特定輸入物品に適用

  • カラム3:カラム1、カラム2を適用できない輸入物品に適用

品目分類は国際商品統一分類を適用しており、関税の種類は税関輸入税則に従い、税関により従価または従量にて徴収します
日本と台湾は相互に同程度の優遇措置を行う互恵待遇であるため、カラム1の適用で税関率は17.5%となります。

③韓国の関税制度
韓国の関税制度は、国定関税率と国際協力関税の2種類です。
品目分類は世界税関機構(WCO)が定めた統計品目番号に基づいたもので、課税基準は輸入物品の価格(CIF)または数量とされています
対日輸入適用税率は一般税率の適用です。

3-3.北米の関税制度

最後に、北米へ向けて越境ECを行う場合の関税制度を詳しく紹介します。

①アメリカの関税制度
アメリカの関税制度は、全部で3種類の税率で成り立っています。

  • 一般税率(NTR税率)

  • 特別税率(FTA、GSPなど特恵税率)

  • 法定税率(特定2カ国に対する税率)

日本はNTR諸国向けの税率である一般税率に分類され、品目分類はHSコードと呼ばれる国際コードにより明確に分けられています


4.越境ECにおける日本の消費税は?

越境ECの場合、商品を提供する相手は海外の消費者であるため、日本の消費税を負担する必要はありません。ここでは、輸出税の免除と還付について詳しく解説します。

4-1.輸出税の免除について

輸出取引の場合、内国消費税である消費税は外国で消費されるものには課税しないという考えに基づき、消費税が免除されます。
簡単にいうと、越境ECにより海外へ輸出する際に発生する税金はないということです。具体的には、以下の輸出取引の消費税は免除となります。

  • 国内からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付け

  • 国内と国外との間の通信または郵便もしくは信書便

  • 非居住者に対する役務の提供

  • 非居住者に対する鉱業権、工業所有権、著作権、営業権等の無体財産権の譲渡または貸付け

輸出免除の適用を受けるためには、その取引が輸出取引であるという証明が必要です。詳しくは、国税庁の『輸出取引の免除』をご確認ください。

4-2.消費税課税事業の場合は還付

越境ECでは、輸出時の消費税が免除されるだけではなく、国外取引の諸費用に掛かった消費税の還付が受けられます
しかし、単純に販売先が海外であるというだけでは不十分であり、還付を受けるためには前提条件や手続きが必要となります。

①消費税課税事業
消費税の還付を受けるためには、消費税課税事業者でなければいけません
課税事業者になるには、前々年の課税売上高が1,000万円を越えている、または前年の1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円を越えている必要があります。
売上高が1,000万円以下の場合は免税事業者に該当するため、越境ECによる消費税の還付は受けられません。
また、新しく設立された法人は売上がないため原則として免税事業者になりますが、資本金が1,000万円を越えている場合は課税事業者になります。

②消費税還付明細書
消費税の還付を受けるためには、還付証明書を提出しなければいけません
還付証明書は所轄の税務署長に提出し、法人は課税期間の末日の翌日から2ヵ月以内、個人事業者は課税期間の翌年3月末までに申請する必要があります。

還付申請に必要な書類は以下の通りです。

  • 確定申告書

  • 仕入控除税額明細書

  • 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算書

  • 輸出許可紹介

  • 仕入れ商品の納品書や領収書

③消費税の計算方法は「原則課税方式」
還付される消費税は、原則課税方式で計算されます。

  • 原則課税方式:受け取った消費税から実際に支払った消費税を控除して算定

  • 簡易課税方式:受け取った消費税に一定の割合を乗じて算定

原則課税方式を選択していないと消費税の還付が受けられないため、注意してください


5.越境ECを行う際に注意すべき4つのこと

最後に、越境ECの関税に関する注意点を4つ紹介します。

5-1.取り扱う商品の関税に注意

越境ECで取り扱う商品の関税に注意し、購入者に対して適切に明記することが重要です。
関税の負担がどちらかを明記したうえで、購入者が関税を負担する場合は実際にかかる金額を計算しましょう。その際は、自動計算ツールを使うと快適です。
取り扱う商品の関税は、国際運送会社FedEx社の関税率情報データベース「WorldTariffR」などで簡易調査が可能です。

5-2.ウェブサイトに関税を明確に記載する

越境ECでは、必ず関税に関する情報を明確に記載してください。
商品の関税率を越境EC内で購入者に明示することで、商品購入後のトラブルを低減することが可能です。販売価格に関税が含まれているかも必ず明示しましょう。

5-3.法改正などの情報はいち早く入手する

地域間の状況や情勢、法改正により各国の関税率は変化するため、販売対象国の情報はいち早く入手することが重要です。
関税法の規制により越境ECに向かない商品や国、一定額以下の商品が免税になるなど、関税制度は各国で異なります。
重要なのは、自社の越境ECで取り扱う商品と相性がよい国を見つけることです

5-4.付加価値税(VAT)に注意する

越境ECを運営する際は、関税だけではなく付加価値税にも注意する必要があります。
付加価値税(VAT)とは、消費税と似た性質を持つ商品を提供した際に追加で支払う費用のことです。特にEC諸国では、最低15%の税率が義務化されています。
どれだけ自社商品との相性がよく関税が低くても、この付加価値税が高ければ何の意味もありません。各国で税率は異なるため、注視しておきましょう。

6.まとめ

越境ECで重要になる関税の目的や仕組み、各国の関税制度、日本の消費税について詳しく解説していきました。

海外の顧客を巻き込むことができる越境ECですが、対象国ごとに異なる関税を見落としてしまうと、大幅に収支計画が乱れる可能性があります。

Webサイトに関税を記載する、取り扱う商品に注意する、法改正に関する情報は早くチェックするなど、さまざまな点に注意が必要です。

越境ECを行う際は、各国の関税制度と日本の消費税について理解するようにしましょう。


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