国内外EC市場の成長動向:日本とグローバルの比較と今後の可能性
近年、ユーザーの購買行動のデジタル化や、新型コロナウイルス感染症の拡大などにより、EC市場は急速に成長しています。
EC市場の最新の動向や市場規模に関心を持っている人も多く、また、現状やトレンドを知りたいという事業者もいることでしょう。
そこで、本記事ではまずEC市場の意義を再確認し、経済産業省の最新データを通じて日本と世界のEC市場の規模や現状について詳しくご紹介します。
さらに、EC事業者が直面している課題への対策方法についてもお伝えしますので、もし自社のEC運用に課題を感じている方がいらっしゃれば、ぜひ参考にしてください。
自社の成長と競争力向上に向けた具体的な手がかりとなるでしょう。
この記事でわかること
国内外のEC市場規模と成長率
日本のEC市場の現状と課題
EC市場で成功するためのヒント
こんな方におすすめ
EC運営の問題点を洗い出したい
自社でのデータ管理に限界を感じている
複数のECチャネルへの参入を検討している
1.そもそも「EC市場」とは?
ここでいうECとは「Electronic Commerce(電子商取引)」の略であり、ECとEコマースはほとんどの場合、同義で用いられています。
インターネットやネットワークを利用して行われる、商品の展示、注文、支払い、配送などのオンライン上の商取引を包括的に示しているのが、「EC」です。
そして、「EC市場(電子商取引市場)」とは、商品やサービスの販売・購入が電子的な手段を通じて行われる市場のことを指しています。
EC市場の拡大は、インターネットの普及やスマートフォンの利用の増加と密接に関連しており、世界中で急速に成長しているのです。
これにより、消費者は便利さと多様な選択肢を享受し、企業は新たな販売チャネルとビジネス機会を開拓することができるようになりました。
さらに、ECは以下の3つの種類に分類されます。
①BtoC-EC(Business to Consumer):企業と個人との取引です。
一般的なECの多くはこのBtoC-ECに属し、例えばAmazonや楽天市場、ネットショップなどのECサイト上で行われる商取引はBtoC-ECに該当します。
②BtoB-EC(Business to Business):企業と企業の取引です。
企業間取引は全てBtoBとなりますが、その中でもオンライン上で行われた商取引がBtoB-ECにカウントされます。
③CtoC-EC(Consumer to Consumer):消費者同士の取引です。
これにはフリマアプリやネットオークションのような個人間の取引が含まれます。
1-1.EC化率とは
EC化率は、すべての商取引の中でEC市場が占める割合を表す指標です。
「EC化率 = EC市場の取引総額 ÷ 全商取引額」という式で算出することができます。
2.日本のEC市場規模と成長率
経済産業省が2022年8月に公表したデータを参考に、日本のEC市場の規模と成長率を解析していきます。
2-1.最新のEC市場規模【日本】
日本のEC市場は現在3つの領域に分けられており、
物販系分野
サービス系分野
デジタル系分野
これら各分野を合わせた日本のEC市場の規模は、おおむね拡大を続けています。
上の表からわかるように、2020年には一時的に市場規模がやや落ち込みました。
この時期は外出自粛の呼びかけにより、特に旅行系のサービス業が大きく縮小したためです。
一方で、外出自粛によるいわゆる「巣ごもり消費」で物販系分野のEC利用が促進され、その結果、2020年のEC市場全体では横ばいの状況を示しました。
しかし、2021年に入るとサービス系分野も回復の兆しを見せ、BtoC-EC市場全体では、前年の19兆2,779億円から7.35%増の20兆6,950億円に拡大します。
消費者の間でECの利用が定着した分野も多くあるため、2021年以降もBtoC-EC市場は拡大を続けているのです。
EC化率も上昇しており、国内のBtoC-EC市場は今後もさらなる成長が見込まれます。
①スマートフォン経由の物販
2020年の世帯あたりのスマートフォンの普及率は86.8%なのに対し、パソコンの保有率は低下傾向にあります。
ECにおいてもその傾向は反映され、物販、サービス、デジタルの各分野においてスマートフォン経由での取引額が増加基調で推移しています。
経済産業省の推計においては、物販系分野におけるスマートフォン経由のBtoC-EC市場規模は6兆9,421億円とされ、これは物販のBtoC-EC市場規模の52.2%に相当する金額となっています。
また、2021年のスマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は7,152億円増加しており、前年からの増加率は11.5%です。
スマートフォンを介した物販EC市場は、アプリの利便性やSNSの活用などの要素により、ますます広がっていく見込みです。
2-3最新の成長率と今後の予測【日本】
日本国内のBtoC-EC市場を「物販系分野」「サービス系分野」「デジタル系分野」の3つに分け、各分野ごとに伸長率を分析します。
この3年間のデータを読み解く際に忘れてはならないのが、2019年末から世界的大流行を起こした新型コロナウイルス感染症です。
つまり、2020年以降のデータには、巣ごもり消費の影響が大きく出ているということになります。
①物販系分野
物販系分野のBtoC-EC市場規模を見てみると、前年の12兆2,333億円から8.61%伸び、13兆2,865億円に増加しています。
とはいえ2019年から2020年の伸長率が21.71%だったことを考えると、2021年の伸び率は鈍化しているといえるようです。
しかし、物販系分野ではEC利用の定着が順調に進んでいるため、今後も市場規模の成長は続いていくとみられます。
内訳を見ると、「①食品、飲料、酒類」「②生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」「⑥衣類・服装雑貨等」「⑤生活雑貨、家具、インテリア」の割合が大きく、これら上位4つで物販系分野の73%を占めており、また、EC化率については、「③書籍、映像・音楽ソフト」「②生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」「⑤生活雑貨、家具、インテリア」の順で割合が高くなっていました。
②サービス系分野
サービス系分野のBtoC-EC市場規模を見てみると、前年の4兆5,832億円から1.29%伸び、4兆6,424億円となっています。
2019年から2020年の伸長率はマイナス36.05%と大変な打撃を受けている状況でしたので、2021年はわずかながら回復しているといえます。
サービス系分野では「①旅行サービス」が全体の約30%と、依然として大きな割合を占めており、その市場規模は1兆4,003億円です。
2021年は「③チケット販売」の市場規模が復調したものの、サービス系分野全体としてはいまだに低調が続いているといえます。
一方、2020年から計上されている「⑥フードデリバリーサービス」は、前年比37.48%増と大幅に拡大しました。
今後「②飲食サービス」の復活がどの程度進むかによって、「⑥フードデリバリーサービス」の成長も変わってくるでしょう。
③デジタル系分野
デジタル系分野のBtoC-EC市場規模を見てみると、前年の2兆4,614億円から12.38%伸び、2兆7,661億円に増加しています。
2019年から2020年の伸長率は14.90%でしたので、2021年の伸び率はやや鈍化していることがわかりました。
デジタル系分野では「④オンラインゲーム」が、1兆6,127億円と非常に大きな市場規模であり、全体の約58%を占めています。
これはプロゲーマーの増加や、eスポーツ文化の浸透が要因として考えられるでしょう。
次いで市場規模が5,676億円の「①電子出版(電子書籍・電子雑誌)」ですが、これは新型コロナウイルス感染拡大にともなう巣ごもり消費でEC利用を始めたユーザーが定着し、安定した売上を維持しているようです。
デジタル系分野は「おうち時間」と親和性が高く、市場規模は拡大しているものの全体の伸び率は鈍化しており、今後は緩やかな増加が予想されます。
以上のように、2019年以降はコロナ禍による生活様式の変化が、EC市場の各分野に大きな影響を与えているのです。
3.世界のEC市場規模と成長率
世界のEC市場へと目を向けると、日本市場よりもさらに急速に成長していることがわかります。
以下では、世界全体のEC市場規模について紹介していますので、日本市場との違いを比較しながら、事業展開の参考にしてください。
3-1.最新のEC市場規模【世界】
まずは、世界のBtoC-EC市場規模の経年推移を見てみましょう。
このように、世界全体のBtoC-EC市場規模は、2019年の3兆3,500億USドルから、2021年には4兆9,400億USドルと、急速な拡大が見られます。
EC市場が拡大する背景は、やはりインターネットとスマートフォンの普及です。
これにより、人々は手軽にオンラインで商品やサービスを購入できるようになりました。
さらに、ECプラットフォームやアプリの利便性が向上し、ショッピング体験がよりスムーズになったことも一因でしょう。
また、世界中の企業がECを活用してグローバル市場に参入し、商品の提供範囲が拡大したこともEC市場の成長を後押ししました。
3-2.最新の成長率と今後の予測【世界】
以下の表は、世界のBtoC-EC市場規模とEC化率に関する推移を表したものです。
このように、2021年までの世界のBtoC-EC市場は持続的な拡大を遂げており、特に新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてデジタルシフトが急速に進んでいるようです。
将来においても市場はさらなる成長が見込まれ、2025年には市場規模が7兆3,900億USドルに達し、EC化率は24.5%まで上昇すると予測されています。
この予測からも、小売分野におけるECの拡大が世界的なトレンドとして進展することが予想されるのです。
①国別BtoC-EC市場規模
上のグラフは2021年の国別のBtoC-EC市場規模トップ10を表したものです。
中国が全世界の52.1%、続いて米国の19.0%、イギリスの4.8%、日本の3.0%、韓国の2.5%とランキングが続いています。
ご覧のように中国の市場規模の大きさは際立っており、1国で市場の半分以上を占め、米国を加えると上位2か国で世界の71.1%のシェアとなっていることがわかります。
②日本・米国・中国の3か国間における越境電子商取引の市場規模
近年、日本・米国・中国の間での越境ECの市場は成長を続けています。
なお、2021年の中国消費者による日本事業者からの越境EC購入額は2兆1,382億円(前年比9.7%増)、米国事業者からの越境EC購入額は2兆5,783億円(前年比11.5%増)となっており、両国ともに増加傾向にあります。
米国・中国に比べると日本の越境ECはまだ市場規模が小さいものの、今後は拡大していく見込みです。
4.EC市場で急成長している地域と市場規模の推移:東南アジア地域のポテンシャル
世界的にEC市場規模が拡大していることは先程述べた通りですが、東南アジア諸国における越境EC市場も、年ごとに大幅に拡大しています。
特に2019年から2020年にかけての、東南アジアの主要6か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア)におけるEC市場は、国ごとにばらつきはあるものの、およそ50%程度の成長が見られるのです。
この驚異的な成長率は注目すべきものであり、東南アジア地域のEC市場の活況を物語っているといえます。
将来に向けても、東南アジアの越境EC市場は高成長を続ける見込みで、統計によれば、東南アジア主要6か国における17歳以下の人口は全体の約25%。
つまり、この先若年層が成長するにつれ、購買層が飛躍的に増加するということです。
予測によれば、今後も20〜30%の高い成長率が維持され、2025年には市場規模が約1,720億USドルにまで達するといわれています。
この成長は、東南アジア地域の経済発展やデジタル化の進展、さらには消費者のECへの関心の高まりに支えられているようです。
5.日本のEC市場の現状と3つの課題
国内のEC市場には、現在直面している3つの課題があります。
5-1. 国内市場の成熟
2021年の国内EC市場規模は20兆6,950億円でEC化率は8.78%でした。
しかし、年平均成長率を5年単位で見ると、成長率は明確に低下しているのです。
2016年から2021年までの成長率は年10.67%でしたが、コロナ禍による巣ごもり消費の影響を除くと、理論値はもう少し低くなると思われます。
2022年の国内EC市場規模についてはまだ発表されていませんが、将来的には成長率はさらに低下していく見通しで、現状のまま推移すれば、2030年ごろには国内EC市場がピークアウトするとの専門家の予想もあるようです。
このような成長率の低下は、市場の飽和や成熟化の兆候ともいえ、すでに多くの企業がEC市場に参入しており、競争は激化しています。
また、消費者のEC利用の定着度も高まっているため、新規の成長を見出すのが難しくなっているのです。
5-2. 増え続けるデータの有効活用
EC市場の発展とともに、顧客の行動や購買パターンが多様化しているのは間違いありません。
顧客がWEBサイトやモバイルアプリを通じて行う検索、閲覧、購買、レビューなどの活動は、膨大なデータとして蓄積されます。
このデータを分析し、顧客の嗜好やニーズを把握することで、より効果的なマーケティングやパーソナライズされたサービスを提供することが可能となるのです。
また、EC事業者は膨大な数の商品を扱っており、正確な在庫管理と需要予測が求められます。
サプライヤーとの連携や物流管理を効率化することで、生産計画や在庫管理、物流ルートの最適化などを実現し、コスト削減や効率向上を図ることもしなければなりません。
これら増え続けるデータを最大限に活用していくことは、様々な面での業績向上にとって必要不可欠といえるでしょう。
5-3. EC市場の競争の激化
インターネットとスマートフォンの普及により、消費者のオンラインでの商品購入が急増しました。
さらに、コロナ禍の影響もあり、多くの企業がオンライン販売に参入し、顧客獲得と売上拡大のために激しい競争を繰り広げています。
この競争激化は、低コストでの参入が可能となったこと、ECプラットフォームの数の増加、さらには大手メーカーがECに参入したことなど、さまざまな要素が組み合わさって引き起こされていると考えられます。
6.EC市場で成功するための3つの戦略
EC市場で成功を収めるためには、明確なビジョンと的確な戦略が不可欠です。
6-1. 海外EC市場への進出
国内市場が飽和状態になっている分野や、特定の商品やサービスに需要がある海外市場を見つけることで、新たな市場と顧客層を開拓することができます。
また、海外EC市場への進出は、企業のグローバルなブランドイメージを構築するチャンスとなるでしょう。
国境を越えた販売チャネルを拡大することにより、知名度や信頼度を高め、国内外での競争力を強化することもできるはずです。
また、海外EC市場には、国内市場では得られない経済的メリットが存在する場合があります。
例えば、生産コストが低い地域での製造や物流の活用、外国為替の有利な変動などを活かすことで、収益を最大化することが可能です。
しかしながら、海外EC市場への進出には、当然課題やリスクも存在します。
言語や文化の違い、法律や規制の適合、競合他社との競争などが考えられますので、進出前に十分な市場調査と戦略の検討が重要です。
また、進出先の市場に合わせ適切なマーケティング戦略を見極め、それにマッチしたローカライズが成功の鍵となります。
6-2. 膨大なデータの一元管理
日々たまり続ける膨大なデータを効果的に管理するためには、包括的な一元管理と最適化が現代のEC運用においての重要な課題です。
一元管理システムを導入することで、データを統合し、一貫性のあるビジョンを形成することができるようになるでしょう。
また、データの分析や洞察を促進し、迅速な行動につなげることも可能になります。
さらに、効率的なデータ管理は、組織全体の情報共有と協力を促進し、リソースの最適化や生産性の向上にも寄与します。
膨大なデータの一元管理は、競争力のあるEC運営において重要な要素となるのです。
6-3.複数のECチャネルへの参入
現在もEC市場は成長を続けており、同時に消費者の好みや嗜好もますます多様化しています。
ユーザーは自分自身の好みや利便性に応じて、大手ECモールやアプリ、自社ウェブサイトなど、多種多様なプラットフォームを利用して商品の購入にいたります。
このため、企業は自社の商品やサービスを幅広いチャネルで提供することで、多様な顧客層に対してアプローチしていかなくてはなりません。
顧客の好みや購買習慣は日々変化しているため、企業は市場のトレンドや顧客の反応を常に把握し、適切な販売チャネルを選択することが重要です。
将来的な成長のためには、顧客の多様なニーズに柔軟かつ効果的に対応するために、複数の販売チャネルを組み合わせることが欠かせないといえるでしょう。