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弱さを他者に「ひらく」こと

好きな人のタイプはなんですか、と聞かれたら、「ひとりでも生きていけそうな人」だと答えている。

好きな人-恋人にしたい人という意味での-が「ひとりで生きていけそうな人」というのは、矛盾している。一緒にいる相手がひとりで生きていけるのなら、そもそも一緒にいる必要がないからだ。だが、僕はそういう人に惹かれてしまう。その理由はなんだろうと、考えていた。

思い当たるふしは、いろいろあった。そのなかでもっとも核心に近いこととして、僕はたぶん、他者に簡単に弱さを見せられる人を好きにはなれないということがあった。弱さを「ひらく」とはそういうことだ。つらいときに、人前で泣けてしまう人、愚痴をこぼせてしまう人、そういう人の心が、僕にはわからなかったのだ。

反対に言えば、僕は人に弱さを見せるのがあまり得意ではないということでもある。それは自分でもよく理解しているつもりだ。そうなってしまった理由も、探せばいろいろある。長男としての生き方を自覚的に選んできたことが、その最たる理由だろうか。それはそれとしても、なぜ、ひとりでいられる人が好きなのかというところに戻れば、その理由は否定的に導き出されたものだということになる。つまり、僕は「ひとりでいられない人」の気持ちがわからないがゆえに、「ひとりでいられる人」が好きなのだ。そして、自分がそういう性格の持ち主だとも考えている。

さらに言えば、ひとりでいられる人に、僕は精神的な自立性を認めているところがある。そして、自分がその強さに甘えたいとも。しかし、ここにはふたつの矛盾がある。

まず、僕は自分がわりかし「ひとりでいられる人」であると自覚し、そういう人なりの弱さ(人に弱みを見せられないという弱さ)を知っている以上、「ひとりでいられる人」が必ずしも精神的に自立しているわけではないということも知っている。それなのに、「ひとりでいられる人」に一種の強さを求めてしまっているということ。次に、他者に甘えることが弱さを見せるということなら、そこでも僕は自分=ひとりでいられる人の弱さを自覚しており、さらには、「ひとりでいられる人」の最大の強さである「弱みを見せない」ことすら否定しているということだ。

したがって、僕が「ひとりでいられる人」が好きだということの論拠は、はじめから破綻している。しかし、ここまできて、少し見えたものがある。それは、ひとりで生きていける人の弱さ-すなわち自分の弱さ-とは、「弱さを人に見せられないこと」ではないか、ということだ。

弱さを人に見せるといっても、なかなか説明が難しい。だから、ここではそれを、ネガティブな感情を人に見せること、としてみよう。人に甘えることも、人前で泣くことも、結局は他人にネガティブな感情を見せるということだ。

さて、弱さを見せられないと、どうなるか。苦しい気持ちは、どんどんため込む。ため込んだ気持ちを空気だとしよう。気持ちは、心の風船に注入されていく。問題なのは、風船が大きくなると、その存在を無視するようになることだ。つまり、苦しいという感情を無視するようになるのだ。しかし、感情というのは一種の複合体で、苦しいという感情も、実際には楽しいとか嬉しいとか悲しいとか、いろいろな思いが混ざり合ってできている。だからこれは、感情そのものを無視してしまうことである。そして、無視し続けた結果、感情がどこにあるのかわからなくなり、いずれ風船は破裂する。この、自分の気持ちを無視し続けてしまうことこそ、僕の弱さなのだ。

逆にいえば、弱さを適度に見せられる人は、感情の「空気抜き」が上手だと言えるかもしれない。だから、思い悩むことはあっても、自分の感情を無視したりはしない。適度に風船に穴を空けては、感情を入れ替えることができる。これが、弱さを他人に「ひらく」ことのできる人の強みではないか。

ここまでが、他人に弱さを「ひらく」ことについて、最近考えていたことのまとめである。これは、人に弱みを見せられる人になればいい、とか、そういうことを言おうとしているのではないということは言っておきたい。僕はわりと今の自分が好きだし、自分の好きな人のタイプも、たぶんこれからも大きくは変わらないと思うからだ。だから、ひとりでも生きていけそうな人が好きだということの本当の理由は、もっと別のところにあるのかもしれない。

追記

この文章は、自分の性向とか好みがどこからきているのかと自問したときに、なぜか自分の精神的な問題とぶつかってしまい、仕方ないので考えた結果行きついたひとつの答えを記したものです。この答えは今後も変わり続けるだろうと思います。もう少し厳密に書いてみたくもありましたが、哲学的テクストを書こうというわけでもなく、頭に浮かんだことをそっくりそのまま書いただけなので、いろいろとわかりづらいところがあるかもしれませんが、そのへんの解釈はみなさまに任せます。


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