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コミュニティ持続化の鍵は、「地域に価値を返し続ける」こと 【コミュニティづくりの現場から#5】

こんにちは、NEWPEACEのプロダクト開発チームです。

前回に引き続き5回目となる「コミュニティづくりの現場から」シリーズ。今回は、青森県弘前市でコラーニングスペース『HLS弘前』を運営する株式会社BOLBOPの辻さんにお話を伺いました。

前回のnoteをまだ読んでいない方は、ぜひ前回の記事からご覧いただければと思います!


【コミュニティづくりの現場から】とは?

NEWPEACEのプロダクト開発チームでは、プロダクト開発の一環で

・店舗のコミュニティ化に取り組む店舗オーナーの方
・商店街活性や地方創生の文脈で、地域コミュニティの構築の最前線で活躍する方
・先進的なコミュニティ運営に携わるコミュニティマネージャーの方

など、様々な形で「コミュニティづくり」の現場で活躍する方々にインタビューを重ねてきました。

【コミュニティづくりの現場から】は、そうしたコミュニティづくりの現場で活躍する方の工夫や知見を、noteの記事にまとめてお伝えしていくシリーズです。

コミュニティづくりやコミュニティ運営に携わる方の参考になれば幸いです!


今回お話を聞いた人

辻正太さん

辻さん

1982年、奈良県吉野町生まれ。東京大学教育学部卒業。専攻は身体教育学。体育教師、担任、サッカー部監督として11年間勤務。新たな教育のカタチを模索して、2016年4月に㈱BOLBOP に参画。新規事業立ち上げのため青森県弘前市に移住し、翌年4月「コラーニングスペースHLS弘前」を設立。「世代や地域を超えて、多様な人々が学びあい、ともに未来を切り拓く」をコンセプトに、まちの学校づくりに取り組む。2020年1月㈱まちなかキャンパスを設立。同年10月に子連れで働けるワークスペースcottoを開設。

HLS弘前とは

「次世代を担う若者たちを中心に、世代や地域を超えて学び合い、ともに新たな価値を生み出していく」ことを目的に、2017年に作られたコラーニングスペース。
普段はイベントやセミナーの会場としての貸し出し、学生向けのラーニングスペース、フリーランスや出張で弘前を訪れた方向けのワークスペース等、多様な目的で利用され、学生を中心に多くの人が集まる地域の「場」となっている。



「まちの学校」を作りたくて、青森へ

青森県弘前市へ移住する前は、11年間学校教員をされていたという辻さん。
異色のキャリアチェンジの裏には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

辻さん:「教師として子どもたちと接する傍ら、世の中の激しい変化を感じていました。でも、そんな世の中の変化に反して、子どもたちを育てる学校の中って全然変化がないんですよ。教師は自分にとって天職だと思っていますが、今のままの学校教育では、この変化の激しい時代を生き抜く人材を育てるのは難しいだろうと感じました。

世の中の変化に合わせて、学校教育だけでなく教師自身もアップデートしていかないといけない。そんな思いを胸に、「地域に根ざし、世代を超えて学び合う『まちの学校』づくり」を目指して、2016年に株式会社BOLBOPに転職したそうです。
奥さんが青森出身だったのもあり、まもなくして辻さんは場作りを目指し青森へ移住。2017年に、若者を中心に世代や地域を超えて学び合うコラーニングスペース『HLS弘前』を立ち上げました。

今では地域の学生はもちろん、多くの地元住人の方に利用され、コロナ禍でも、感染対策を万全にオンラインイベントを多数開催。HLS弘前は盛り上がっています。

青森の外からやってきた辻さんが、「地域に根ざしたまちの学校」づくりを成功させることができた秘訣はどこにあるのでしょうか?


地域の人との信頼関係をつくる

青森に移住してからHLS弘前を立ち上げるまでの間、辻さんは、青森で町づくりに関わっている方にとにかく話を聞きに行き、関係構築を行っていたそうです。

関係構築は簡単なものではありません。「地元に閉じたな人間関係」を感じる場面もあったといいます。

辻さん「あるイベントで、たまたま地元の経営者の方とお話しする機会があったんです。何をやってるのか聞かれた時に、『コンサル会社で働いていて』といった瞬間に、シャッターをガーンと降ろされた感じがしました。『コンサル = 弱いもんから金を巻き上げている奴ら』みたいなイメージをお持ちだったらしく、こちらの真意が伝わらなかったんです。」

地域の方との関係づくりにおける難しさが伝わってくるエピソードです。
辻さんはこのような難しさを、どうやって乗り越えていったのでしょうか。

その地域でまだ誰もやっていない、新しいことに取り組む

町おこし・町育ての文脈で、弘前ですでに活躍されているプレイヤーの方々と関係づくりを行う上で、辻さんが意識したのは、「地域の人の縄張りを荒らさず、全く新しいことをやる」ことだったそうです。

辻さん「いきなり外からやってきて、既に地域の人がやっているのと同じことをはじめたら快く思われなかったでしょう。土足で踏み込むようなものですしね。しかし、当時僕が考えていた『まちの学校づくり』は誰もやっていない新しいことでした。だからこそ、地域の人も『面白そうだね』と可愛がってくれたのだと思います。

すでに活動している方へのリスペクトを持ちつつ、「それでもまだ解決できていない課題は何か」「自分にできることは何か」というふうに、「誰も取り組めていないけど、地域にも必要なこと」を目指す姿勢が、外からやってきた人が、新しいことをはじめるために重要なのだと感じました。

さらにお話を聞く中で、驚いた辻さん独自の工夫をもう一つ、ご紹介します。


焦らずに、人とつながる

辻さん「青森に移住してたくさんの人に話を聞きましたが、地域の人たちの人間関係を見極めながら、あせらずに関係構築を行うことを意識していました。いきなり色々な人にアポを取って挨拶に行っても、混乱させてしまうかもと思い、あえて時間を置いたりしましたね。」

辻さんは、地域で活動する方などにいきなり積極的にアポを取るのではなく、その周辺の方との関係構築をしっかりと行ってから会いに行くことを大事しにしていたのだとか。

普通だったら「とにかくアポを取って、自分の活動を知ってもおう!」となってしまいそうな中、地域の人のことを考えながら、ステップを踏んで関係を築く作戦にはとても驚きました。
熱意を持ってどんどん関係を作っていくことも大事ですが、人間関係を見極めながら、戦略的に人とつながる辻さんの冷静さがあったからこそ、今のHLS弘前の成功があるのでしょう。


地域に価値を返すことで、コミュニティを持続化する

「場づくり」「地域コミュニティの運営」において、必ずと言っていいほど障壁になるのが、お金の問題だと思います。地域のために立ち上げたコミュニティでも、ビジネスとしてやる以上はどこかでお金を得ていかなければなりません。

辻さんとのお話の中で、地域で新しいコミュニティをつくり、持続化させるためのヒントもお聞きすることができました。

まずは人を集め、盛り上げる

辻さん「HLS弘前では、初期からイベントをたくさん開催し、多くの人に集まっていただいていました。その様子を見て声をかけてくださったのが、行政の方だったんです。HLS弘前の場や集客力を生かして、行政のイベントや講演会を盛り上げるお手伝いをさせていただくようになりました。」

そのような経緯で行政との繋がりが生まれ、多くの業務委託案件をいただけるようになったそうです。一緒に働くことで、市役所や県庁からの信頼も強まり、継続的な関係構築を行えているのだとか。

立ち上げ初期の頃から、地域の人が訪れたくなるイベントを企画・開催し、「多くの人が集まる場」というユニークネスを獲得したことが、行政との協働につながったのですね。
「その地域でまだ誰もやっていないけど、必要とされる新しいことに取り組む」ことの大切さを感じます。

ただ案件をこなすのではなく、地域に価値を返す

行政との協働によって「コミュニティの収益化」に成功したかのように見えたHLS弘前でしたが、別の課題もあったそうです。それが、「ポートフォリオの安定化」。
委託案件の獲得を繰り返せば継続して収益を上げることはできますが、依存性が高く「安定した状態」とは呼べないと考えたそうです。

このような状況を脱するために大切なのが、「地域への価値提供にこだわる」ことだと、辻さんは語ります。

辻さん「地域に対して価値を提供することができていると、予算が切れた後でも、地域の人や企業が『これが無くなったら勿体ない』といって、お金を出してくださることがあるんです。ただ案件をこなすのではなく、地域に価値を届けられていたからこそ、こういった形を作れたのだと思います。

一例として、HLS弘前が主催する「まちなかキャンパスプロジェクト」というものを紹介していただきました。
地域の学生が、商店街の店舗や地元の企業でインターンを行い、地元企業の課題解決と地域人材の育成を行うというもの。弘前大学とも提携しており、「まちなかキャンパスプロジェクト」に参加した学生は大学の単位も得ることができるのだそうです。

今年の2月に実施された「まちなかキャンパスプロジェクト」の一つ。このような地元企業とのプロジェクトがいくつか公開され、学生が応募します。


地元企業の課題解決と、地域人材の育成の価値提供によって、2018年の開催以降、多くの地元企業や学生からの支持を受け、今年まで続いているプロジェクトです。

このように、地域としっかり向き合い、地域に価値を届けることを第一に活動しているからこそ、金銭的にも持続的に愛されるコミュニティをつくることができるのです。


辻さんからお知らせ

HLS弘前でイベント開催中!
HLS弘前では、毎月様々なテーマでたくさんの「学び」のイベントを開催しています!
3月も興味深いテーマでのオンラインイベントが企画されていますので、詳細は是非、HLS弘前公式HPのイベントページからご確認ください!

おやこコラーニングスペース「cotto」
HLS弘前の2階では、親子連れで利用できるコラーニングスペース「cotto」も運営されています。
「キッズスペース」と「ワークスペース」に分かれており、キッズスペースにはお子さんのお世話をしてくれるプレイコーディネーターが常駐。お子さんのそばで、安心して仕事に集中できる空間が用意されています!


おわりに

今回は、HLS弘前の辻さんのお話をまとめました!
地域で関係づくりをする上での辻さんならではの工夫はとても勉強になり、聞いていて脱帽することばかりでした。

今後もヒアリングや日々のリサーチから得られた学びなどまとめてお伝えしていきます。
※「ヒアリング協力できます」という方がいらっしゃいましたら、下記までお気軽にご連絡ください!
info@comcom.app

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NEWPEACEのプロダクト開発チームでは、全てのコミュニティコーディネーターを支援するアプリケーション「comcom」を開発しています。
現在β版利用ユーザーを募集中ですので、ご興味おありの方は、以下のwebページからお気軽にお申し込みください!

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NEWPEACEのプロダクト開発チームでは、インターンとして一緒に働く仲間も募集しています。プロダクト開発の初期フェーズに関わってみたい!という方は、お気軽にTwitter等からご連絡ください🌴


ここまでお読みいただきありがとうございました!


書き手 : Kazumi Higashino
編集 : Naoya Higuchi (Twitter : @n_hgc36)

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