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営農型太陽光発電設備の規制についての疑義

1 はじめに

⑴ ガイドライン案及び農地法施行規則一部改正案

 令和5年12月4日付で、営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン案及び農地法施行規則の一部改正案のそれぞれについてパブリックコメントの公示がされました。
 先に結論から申せば、当該ガイドライン案及び農地法施行規則の一部改正案は、農地法の解釈を逸脱しており、違法の疑いがあると考えています。以下、詳述します(本記事は、ある程度、法的知識がある方向けです。)。


⑵ 営農型太陽光発電とは

 営農型太陽光発電とは、農地に支柱を立てて、下部の農地で営農を継続しながら上部空間に太陽光発電設備を設置することにより、農業と発電を両立する仕組みをいいます(ソーラーシェアリングともいわれます。)。

⑶ 営農型太陽光発電設備に関する従来の規制

 営農型太陽光発電設備の技術は、平成25年ころに実用段階となったところ、当時、営農型太陽光発電設備を設置するに当たって、農地法(以下、「法」といいます。)上の農地転用許可(法第4条、第5条)の対象となるか、すなわち、営農型太陽光発電設備の設置が「農地を農地以外のものにする」に該当するか否かが問題となりました。この点については、農林水産省においては、具体的な文書化がされていなかったものの、営農型太陽光発電設備の支柱部分及び下部の農地(支柱以外の部分)のいずれについても農地転用許可が必要と解されていたようです。ただし、その一方で、許可権者(都道府県知事等)によっては、農地転用許可を不要とする扱いも存在したようです。
 そこで、農林水産省は、平成25年4月1日付で、「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」と題する通知(以下、「営農型通知」といいます。)を公表しました。営農型通知においては、営農型太陽光発電設備の設置については、その支柱部分が「農地を農地以外のものにする」に該当するとして、その支柱部分について、農地転用許可が必要であるとの解釈が採用されました。
 なお、営農型通知の法的性質は、地方自治法に基づく技術的助言であり、行政法学上の行政規則に当たります。各地方公共団体においては、営農型通知をそのまま「審査基準」(行政手続法第2条第8号ロ)として用いる扱いも多いようです。営農型通知は逐次改正され、現行版は令和4年3月31日3農振第2887号となっています。

2 その支柱部分について農地転用許可が必要であるとの解釈の主な問題点

 しかしながら、営農型通知の採用する、営農型太陽光発電設備の支柱部分について農地転用許可が必要であるとの解釈には、主に、以下のとおりの問題点があります。

⑴ 農業用施設(温室等)の取扱いとの平仄

 温室等の農業用施設を農地上に設置する場合には、その敷地を直接耕作の目的に利用し、農作物を栽培している場合には、引き続き「農地」(法第2条第1項)に該当するものとされ(「施設園芸用地等の取扱いについて(回答)」と題する通知(平成14年4月1日13経営第6953号)の別紙1の1ア)、この場合は農地転用に該当しないと解されます。他方で、農業用施設の敷地をコンクリート等で地固めする場合等は、農地に該当しないものとされ(上記通知別紙1の2ア)、この場合は農地転用に該当すると解されます。換言すれば、農業用施設の設置の場合、農地転用に該当するか否かの基準として、その敷地を地固めする等、農地に形質変更を加えるかどうかをメルクマールとしているものと窺えます。
 なお、このようなメルクマールを農地法自体も採用していることが窺われる根拠として、法第43条(農作物栽培高度化施設に関する特例)があります。法第43条第1項は次のとおり規定しています。

農林水産省令で定めるところにより農業委員会に届け出て農作物栽培高度化施設の底面とするために農地をコンクリートその他これに類するもので覆う場合における農作物栽培高度化施設の用に供される当該農地については、当該農作物栽培高度化施設において行われる農作物の栽培を耕作に該当するものとみなして、この法律の規定を適用する。この場合において、必要な読替えその他当該農地に対するこの法律の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

農地法第43条第1項

 同項は、一定の場合に農地とみなす効果を付与して農地転用には該当しないものとする規定ですが、同項が、このようなみなし効果を生じる場合を「農地をコンクリートその他これに類するもので覆う場合」と規定しているのは、逆に「農地をコンクリートその他これに類するもので覆わない場合」にはそもそも農地転用に該当しないことを前提としているからであると解されます。
 以上のとおり、農業用施設については、その敷地をコンクリート等で地固めする場合は農地転用に該当するとされ、その敷地をコンクリートで地固めすることなく、直接耕作の目的に供し、農作物を栽培している場合には、農業用施設の支柱部分も含めて農地転用に該当しないと解されます。営農型太陽光発電設備は、その下部の農地において営農を継続するものです。したがって、農業用施設と同様に考えるならば、その支柱部分も含めて(下部の農地をコンクリートで地固めする等、耕作の目的に供されない状態にするのでない限り)「農地を農地以外のものにする」に該当しないと解さざるを得ないと考えられます。

⑵ 農業用施設と営農型太陽光発電設備との区別は可能か

 以上の見解に対しては、農業用施設と営農型太陽光発電設備とでは、施設全体の目的が異なる(農業用施設は全体が農業目的であるが、営農型太陽光発電設備は売電目的である)との見解は考えられます。しかしながら、以下に述べることからすれば、やはり農業用施設の支柱と営農型太陽光発電設備の支柱とで取扱いを異にすることは合理性がないと考えます。

ア 農業用施設と同等の構造、目的を持った営農型太陽光発電設備も存在し得ること
  農業用施設の屋根部分に太陽光パネルを設置する例もあるように、農業用施設と同等の構造を持った太陽光発電設備も存在しており、農業用施設と営農型太陽光発電設備の区別の基準はあいまいです。農業用施設と営農型太陽光発電設備をどのように区別するのかが問題です。

イ 施設全体の目的を分水嶺とするのは、恣意的な基準となるおそれがあること
 「農地を農地以外のものにする」に該当するか否かは、刑罰法規の構成要件となっています(法第64条第1号)。したがって、罪刑法定主義(憲法第31条)により、明確性の要請が働きます。
 しかしながら、施設全体が農業目的か、売電目的かを分水嶺とすることは、上述アも踏まえると、恣意的かつあいまいな基準となるおそれがあります。

⑶ 民主主義的に見てどうか

 以上をまとめると、営農型通知の主な問題点は、農業用施設の支柱と営農型太陽光発電設備の支柱とで農地転用該当性を区別するのは矛盾すること、仮に目的で区別するとしても、そのような基準はあいまいで恣意的な基準となってしまうことです。
 以上に述べたことからすると、営農型太陽光発電設備の規制を農地転用許可制度の仕組みの枠内で行うことは、解釈論として無理筋である感が否めません。農地転用許可制度の趣旨は、本来、食料供給の基盤である優良農地の確保という要請と住宅地や工場用地等非農業的土地利用という要請との調整を図り、かつ計画的な土地利用を確保するという観点から、農地を立地条件等により区分し、開発要請を農業上の利用に支障の少ない農地に誘導するとともに、具体的な土地利用計画を伴わない資産保有目的又は投機目的での農地取得は認めないこととする点にあります。営農型太陽光発電は、農業と発電を両立する仕組みであり、農業的土地利用といえます。また、営農型太陽光発電の規制をどのように行うかについては、農業政策だけでなく、エネルギー政策にも関わる問題であり、これは、法第4条、第5条が農地転用許可制度の枠組みで考慮済みのものとは異なる利害調整が必要なように思われます。
 したがって、営農型太陽光発電設備の規制は、関係各省庁及び利害関係団体等の議論を通じ、立法手続によって解決すべき事柄であるといえます。

3 今回の農地法施行規則改正の背景

 このような問題意識を知ってか知らずか、令和5年2月20日開催の農地法制の在り方に関する研究会において、自治体からの要望として、営農型太陽光発電設備の規制について、「通知に基づく運用では限界がある」との認識が示され、営農型太陽光発電に関する取扱いの法制化が議論されたところです。
 今回の農地法施行規則の改正は、このような法制化の検討に基づくものと推察されます。

4 上記問題点が、今回の農地法施行規則改正により解消されているか

⑴ 支柱部分の一時転用許可というスキームに変更なし

 ガイドライン案を見ると、支柱部分の一時転用許可というスキーム自体は変更がありません。したがって、上記2に記載した問題点は、今回の新ガイドライン策定、農地法施行規則の改正によって解消されるものではありません。

⑵ 農地法施行規則の問題(農地法の委任の趣旨を逸脱していること)

 農地法施行規則改正案は、従来、営農型通知という行政規則で営農型太陽光発電設備の一時転用許可基準を定めていたものを、農地法施行規則という法規命令(委任命令)で許可基準を定め直したものといえます(農地法施行規則改正案の第47条第6号以下、第57条第6号以下)。そして、農地法施行規則改正案は、当該許可基準の委任元を法第4条第6項第3号、第5条第2項第3号に求めるようです。しかし、農地法施行規則改正案の第47条第6号以下、第57条第6号以下の規定する内容は、委任元である法第4条第6項第3号及び第5条第2項第3号が農林水産省令に委任した趣旨を逸脱しているように思います。以下、詳論します。
 法第4条第6項第3号は、以下のとおり規定しています。

申請者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと、申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないことその他農林水産省令で定める事由により、申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合

農地法第4条第6項第3号

 同号を分解すると、以下のとおりです。

①ⅰ申請者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと
or
①ⅱ申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないこと
or
①ⅲその他農林水産省令で定める事由

により

②申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合

 すなわち、最終的な不許可事由は、②「申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合」であり、その原因として、①ⅰ、①ⅱ、①ⅲは並列の関係にあります。農地法第4条第6項第3号が農林水産省令に委任しているのは、①ⅲの内容についてのみです。換言すれば、転用に係る農地を転用の用途に供することが確実と認められないと判断する原因となる事由についてのみ、農林水産省の裁量で定められると規定されているに過ぎません。
 ところが、農地法施行規則改正案の第47条第6号以下は、営農型太陽光発電設備の下部の農地の単収要件(イ)、営農の見込み(ロ)、栽培実績書及び収支報告書が適切に提出されないおそれがあるかどうか(ニ)、申請者が法第51条第1項の規定による原状回復等の措置を現に命じられているかどうか(チ)等、およそ転用の用途に供することの確実性とは関係のない事情が掲げられています。農林水産省のロジックでは、転用の対象は営農型太陽光発電設備の支柱部分であるため、申請者が営農型太陽光発電設備を設置する以上、「申請に係る農地の全て」(=支柱部分の土地)を「申請に係る用途」(=営農型太陽光発電設備の設置)に供することが確実といえるはずです。したがって、農地法施行規則改正案の上記部分が、委任元である法の委任の趣旨に適っているかどうかには、大きな疑問を感じざるを得ません。

5 まとめ

 以上のとおり、営農型太陽光発電設備の規制については、行政規則での規制には問題があること、さらに今回の農地法施行規則の改正にも問題があることを示しました。
 営農型太陽光発電設備の規制については、立法で解決することが法律による行政の原理(憲法第41条)に適うものといえます。

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