見出し画像

【003】さみしくて、大好きだった雪国の冬

学生時代のこの季節を思い出すと、心がきゅっと締め付けられる。

上京してくるまでの18年間、私は北国で生まれ育った。なにも冬にさみしいことがあったとかそんな記憶はない。

でも、放課後ともなれば暗くって、街灯のない通学路をゆっくりゆっくり先輩や友人と話しながら帰ったことを覚えている。6時間目が終われば、もう真っ暗だから、何時間話してようと時間が経った感覚はない。日が暮れるなんて感覚がないのだから。

雪が積もりすぎて歩道が無くなってしまった道路をいつもの倍以上の時間をかけて歩いたのを覚えている。友達がいれば大丈夫なのに、帰り道、1人また1人と減っていき、最後自分1人で歩く時にはさみしくて、そして怖くてたまらなくて、一生懸命「早く帰らなきゃ」と思っていたのを覚えている。あの当時、私はなににあんなに恐れていたのだろう。

お正月、クリスマス、あたたかい紅茶を飲みながら、窓の外を見ると上も下も真っ白だったのを覚えている。そして、その白に部屋の明かりが反射するとキラキラしていてきれいだったことも。文字通りしんしんと静かに降り積もっていく様子をたまに眺めながら、あたたかい暖房の聞いたおばあちゃんの家にある、今はたまにしか使われていない部屋で本を読むのが好きだった。

今、私は雪なんてふっていない東京で、急激にさみしくなり、なにもない、さみしい昔の冬の記憶をたどっている。たくさんのものがありふれたこの町が私は大好きだ。でも、それでも、たまになにもない、あの光景を思い出しては、あれもあれで悪くなかったのかもと思えるようになったものだ。

いただいたご支援で働き方を楽しくできるようなヒントとなる書籍などを購入します。ご支援よろしくお願いいたします☆