ひらがなとか誤字とか、

私は昔から本が好きだった。
本は信じても裏切らないし(たまにいい意味で裏切りはするけど)、私を色々な世界へ連れて行ってくれる。

***

1ページ開けば、私は沈んでいく。
文字の海、あるいは思考の海に。
そこで私はイルカか、クラゲか、もしくはただ眠ったように目を閉じたままのニンゲンの姿をしている。
ゆらゆらと私の周りを揺れ動く文字の魚が体の前を通り過ぎる。
彼らを掴もうとするとするする指の狭間から逃げていく。
そして、束になって光へ向かって泳いでいく銀色や黒がスクリーンになって、想像した主人公や風景を映し出している。
まさに今、現実の私が読んでいる活字や電子媒体の中にいる彼らだ。
そのスクリーンや海の中に私は存在するようで、しない。第三者目線みたいな、夢の中みたいな。
大概読むのが仄暗いものや後味悪いミステリーだからか、すぐにズブズブと海に沈み、漂い出す。
主人公の感情や出てくる人物の思考が流れ込んでくる。
誰かに共感したり、誰かに反発したり。または、同情したり、擁護したくなったり。
私の頭の中はぐるぐると感情が廻り出して、忙しなく動いていく。
それは脳みそを休める、その時まで。

***

本を閉じたり、電子媒体を閉じた後も私は思考の海に潜り続けたまま。
元の思考にしゃんと戻るにはだいぶ時間がかかる。
共感しやすかったり、誰かの感情に引っ張られやすいから仕方ないのかもしれない。
きちんと頭の中を整理して、頭に残る感情を上手く供養出来れば、感想としてアウトプット出来るようになる。
我ながら大変めんどくさい性分だ。
本の他にも映画やドラマ、アニメにも度々引き摺られる。

そんな私は言葉を上手く表現したいがために、よく文字や音声言語を訂正したり考えあぐねたりする。
LINEなんて顕著で、ひらがなや誤字、句読点に至るまで無性に気になり、推敲したくなる。
ここもそう。私の頭の中を表現するには大変時間がかかる。
パッパッと指を動かしていく彼とやり取りをしているとスピードについて行くのに必死だ。

悪気はないが、他人に正しい言葉を求めてしまう時もある。(私が間違っている時だってもちろんある。)
無意識で、無自覚で。癖みたいなもの。
誰かが話している時に間違った言葉は訂正したくなる。
突っ込んでいけない相手ならぐっと飲み込んで、親しい間柄なら声に乗せてしまって。
ある時、同僚に言われた。
『緋色ちゃんってよく揚げ足とるよね』って。
揚げ足取りをしたいわけじゃない。条件反射なのだ。
でも、その日からぐぐっと押し込むようになった。
言えない、間違いを正せないのは割と苦しい。
脳内がその訂正箇所で騒ぎ出すから、気を取られて会話が先に進めなくなる。
それを自由に言わせてくれて、上手く言葉を表現するまで待っていてくれるのが彼だ。
有難いと思っている。忙しい時や気持ちが急いている人は私の言葉を待ってくれない。
正しく頭の中を表現して、正しく伝えたいのに上手く言葉を出せないことがもどかしい。

そんなこんなで私はいつも思考の海を漂い、適切な言葉を掴むまで探し続けている。
そう考えると日本語は様々なことを表せて、私に合った言語だと思うのだ。
日本語が母語で良かったなぁ。

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