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七段のおひなさまの前で祖父に会いたい

ひなさまをやっと飾った。節分の頃から出そう、出そうと思っていて、いまになってしまった。

このあと、左右に娘たちの名前旗を並べます。
コンパクトですが、大好きなお雛さまです。

このお雛さまは、双子の娘たち(6歳)のために購入した。コンパクトなものを選んだのに、家を建てたら毎年、飾る場所に困ってしまう。余白を大きく取れる壁があればいいのだけれど、残念ながら、ない。ということで、テレビボードの隣にお座りいただいている。

どの人形も柔和なお顔をしているのが気に入っている。幼い頃に見た、祖母のお雛さまを思い出させる上品で優しい表情だ。

父方の祖父母の家には、とても立派なお雛さまがあった。たしか七段のもの。随身ずいしん(右大臣・左大臣)がたずさえた刀はさやからほんとうに抜ける仕様になっていて、幼かった私はそれで遊んでよく叱られた。

父には年の離れた姉が二人いたけれど、置き場所がないと言って、七段のお雛さまは受け継がなかったそうだ。

私が生まれた頃、祖父と母とのあいだで一悶着ひともんちゃくあったと聞いている。七段のお雛さまを受け継がせたい祖父、そんなに場所を取るものはいらないという母。二人の対立に、父はすっかり参ってしまったそう。いまだにときどき、当時の話になる。

「おじいちゃんはなあ、昔かたぎな人やったから、初めての内孫やというてそれはそれはテンション上がってたんやなあ」

末っ子であり、祖父母にとって一人だけの息子である父は、そう懐かしむ。

たしかに、私は祖父にかわいがられた。目の中に入れても痛くないってあんな感じの状態を言うのだ、と自分でも思うくらいに。祖父は、アパレルメーカー「レナウン」のCMを見た幼い私が泣いたとき、テレビ局にクレームの電話を入れようとした。なんてむちゃくちゃな、と私自身があきれてしまう。それほどに祖父は私を溺愛していた。

いまとなっては母の気持ちもわかる。狭い家のどこに七段のお雛さまなんて置くのよ! そうキリキリしてしまう心境に共感する。

でも、あの盲目的な愛情にもう一度触れてみたいなあ、とも思ってしまう。酸いも甘いも、とまではいかないまでも、いろいろなことを経験した身としては。あんなむちゃくちゃな愛され方、なかなかされるもんじゃないと、いまならわかる。

おじいちゃんは知らんやろうけど、私にもけっこう大変なこと、あったんやから。七段のお雛さまの前で、祖父に言ってみたい気もする。

「なんやて?! おじいちゃんが怒ったる!」

レナウンのCMのときみたいに、祖父はわけのわからない怒り方をするかもしれない。まあまあ、と祖父をなだめるひとときも、それなりに幸せだろうなあ、と思う。私は祖父の愛情にまた会いたくて、娘たちのお雛さまを選んだのかもしれない。

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