好きなものを、好きなときに
年末、ジュエリーボックスを整理していたら、ティファニーのオープンハートネックレスが出てきた。
言わずと知れたティファニーの定番ジュエリーだ。イエローゴールドのぷっくりしたハートがかわいい。
東京に住んでいた10年くらい前、玉川高島屋のティファニーブティックで夫に買ってもらった。その日は記念日でも誕生日でもクリスマスでもなかったので、逆によく憶えているのだ。いまも「なんでかなあ」と不思議に思っている。
さて、せっかく見つけてきたのだから首につけてみようと思ったところで、ほんの少し躊躇してしまった。当時、交流のあった女性が発した言葉を思い出したからだ。私より10歳近く若かった彼女は言った。
「それ、ティファニーですか? いいなあ。でも、40代とか50代になるとティファニーのオープンハートつけてる人はイタいですよねえ」
そ、そう? と返してその話は終わった。たぶん、かわいらしい印象のハートモチーフが、落ち着きを増していく年代にはふさわしくないということなのだろう。40代や50代になったら、もう少し重厚感のあるモチーフや素材のほうが似合うはずだという思いから生まれた発言だったのだと思う。
なんだかよろしくない意味で日本的だなあ、と感じたのを思い出す。この年代はこうあるべき、という外圧が常にあって、さらにその圧力から逃げ出そうとする人を監視する目があって、息苦しくないかなあ。そのときの私はそうぼんやりと考えたまま、いいかげんな返事をした。
もちろん、礼儀を欠いた装いをするのは考えものだ。明らかに目のやり場に困る装い、なども。けれど、そうでないならば別になにをつけていようが誰も傷つけないんじゃないだろうか。
あれからずいぶん経って、アラフォーになった私は今日、ティファニーのオープンハートをつけている。好きなものを、好きなときに、人に迷惑のかからない範囲で楽しめばいいんじゃないかなと、のほほんと考える。イタいかイタくないか、を判定するのに躍起になるよりも、ずいぶん気楽な道へと入ってきた。
図太くなったと言われればそうに違いないのだけれど、それってけっこういいことなんじゃないかと思っている。
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