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物件との出会い

古本屋をやれる場所があったらいいなと思いはじめて2、3ヶ月ほど経った2020年8月。岐阜県美濃加茂市の空き家バンク「みのかも時間」を見ていたら、中山道太田宿沿いの物件が掲載されていた。

物件は木造2階建て。以前は床屋さん(たぶん・・・。)で道路面に店舗スペースがあり、奧に台所や浴室などの水まわり、2階はリフォームされて綺麗になった個室がいくつかあった。水まわりの改修が必要なものの、元店舗であれば古本屋として活用できるスペースが確保されていて都合がよく、グーグルマップで確認すると立地も建物の状態も悪くない。

美濃加茂市役所まちづくり課に問い合わせたところ、商談中ということで一歩遅かった。(後日分かったことは、この場所は写真を仕事とされている方が借りられ、面白い場所になりそうな予感。)自分としては急いでいる訳でもなく、タイミングも大切なので、そのまま何事もなく日々が過ぎていくはずだった。

偶然と偶然

9月の始め頃だったと思う。いくつかの仕事を終え、休憩も兼ねて平日の夕方に美濃加茂市中山道太田宿にあるコクウ珈琲に足を運ぶとマスターに「物件探してる?」と話しかけられた。まちづくり課の方からコクウ珈琲のマスターに情報が伝わっていたようだ。

ただ、自分はまちづくり課の方に面識はなくメールだけのやり取りで、コクウ珈琲に足を運んだことがあるとは書いていない。マスターにも物件を探していることを伝えていない。(と言うより、今まで「ごちそうさまです」などのやり取りしかしたことはなかった・・・と思う。)

役所の職員の方がマスターに話した偶然とマスターが自分に話した偶然。たぶん、これがなければ今も物件を探していたと思う。

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当日と翌週。マスター夫妻にお世話になりながら街の人に紹介いただき、物件が見つかるのは半年先か1年先か気長に・・・と話していたところ、思わぬスピードで現在の物件に巡り会うことができた。

乾いた空気が流れる場所

濃加茂市中山道太田宿は中山道51番目の宿場にあたる。古い歴史的な建物を活かしてまちづくりをしている場所は、岐阜県郡上市の郡上八幡の古い町並みがあり、郡上踊りとともに観光名所となっていて、同じく岐阜県美濃市にはうだつの上がる町並みがあり、建物も道路も整備され観光地化されている。城下町と宿場町の違いはあるけれど、誰の目から見ても太田宿は一歩も二歩も劣っていると感じるだろう。

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「郡上八幡の古い町並み」と「うだつの上がる町並み」よりも太田宿を選んで足を運ぶ人がいたら、相当の物好きだとも思う。

太田宿を観光目的で歩く人を見ることは希であり、古い家は壊され更地になり、街道とはほど遠いデザインの建物がポツポツと建っている現状。「宿」という形を保つことさえままならず、普通の道路になってしまいそうなほど。


ただ・・・だからこそ魅力を感じる部分もある。

何となく感じていることは、人の声や動きから発せられる湿度のない乾いた空気が風に乗って流れている感じが自分には心地いいということ。暑すぎず、冷たすぎず、常温の水のような温度の風で、すごく緩い商いの音が耳に伝わってくる。そんな感覚。

賑やかさがないという言葉や寂しいと捉えてしまうと元も子もないのだけれど、騒がしくない感じがいい。自動車が往来する中に、たまに近くに住む人の声があり、小学生が下校する声が聞こえる。一つひとつの動きに耳を傾けられる落ち着き。

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10月の終わり頃に大家さんに会い、無事に契約を終えて借りる手続きを済ませた。

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