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古い建物をどこまで直して店の空間とするか

古い建物を今の時代に建てられる建物と同じ耐震性や快適性とすることは難しい。絶対にできないかと言われればできるかもしれないけれど、古い建物を新築同様にするためには新築以上にお金がかかる。

まず耐震性能はないに等しい。耐震という考えが建物に活かされはじめたのは半世紀ほど前で、建物も揺れに弱く、場所によっては地盤も弱い。工事中に建物が倒壊しないように補強を入れて維持しつつ、地盤を補強することになる。

石の上に土台が乗っているところも多く、新しくコンクリートで基礎を作り直したり、土台は湿気の影響で腐り、柱や梁はシロアリに食べられていれば取り替えた上で筋交や合板などで耐震性を確保していく。

小さな地震、近隣の開発などにより地盤は傾斜し建物は傾き、風雨や太陽により劣化した瓦や外壁の隙間からは雨水が進入してしまっていることもあり、劣化した部分は取り替え補修することになる。そして、そこから断熱性などを求め始めると、湯水のようにお金は吸い取られる。

お金をかければ快適な空間にはなるけれど、古い建物にそこまでのお金を掛けて直すのか・・・という気持ち上のせめぎ合いも生まれてくる。

古本屋と建築設計事務所とする建物は借家で、どこまでお金を掛けて直しても自分の所有物にはならない。となれば、地震の時に倒壊は免れないかもしれないけれど、お客さんと自分が逃げられるだけの時間を稼ぐための構造補強と、自分にとって必要な快適性(エアコンの効率を上げる断熱や過ごしやすい水まわりなど)を改修予算として組むこととした。

柱を追加して建物の補強

構造材の傷みが予想以上に酷く、土台が朽ちて土と化しているところや柱に辛うじて引っかかっている梁など。解体をしている職人さんが「倒壊が怖くて壊せない」と話してしまうほどだった。建物の室内に柱を新しく入れて建物を補強しつつ、建物の傾きもそれに準じて多少水平に近づいたと思う。(事実、建具の動きが良くなった。)

建物の外壁廻りの土台や柱の下の方の構造材もおそらく腐っているだろう。そのきらいは随所に見られる。建物全体を見れば補強した方が良いけれど、予算と相談し、建物としては維持できているという判断の下、今回は壁も撤去せず見なかったことにした。

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断熱と防音

古本屋と建築設計事務所とする部分の外壁と隣家に面するところ、新しくつくるトイレ廻りに断熱材を入れていく。

外壁廻りは今までの内壁を壊さず断熱材を入れて、壁の内側に新しい壁を増す形とする。内壁と言っても部分的に土壁が見えたり、外壁のトタンが見えてしまっている部分もあるけれど・・・。内壁を壊さないことで解体量を減らし、気持ちでも既存の壁で断熱や水の浸入を防ぎたい思いもある。

昔ながらの長屋で土壁も薄く、お隣さんの話し声が現状ではお互い聞こえてしまっている。お隣さんの話の内容まで聞こえてしまうとまずいので、防音対策はしておきたい。トイレ廻りも同じで、水の流す音はできるだけ店内に広まらないようにするために防音を兼ねて断熱材を壁の中に入れる。(それでも音は聞こえてしまうけれど)

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それでも床は既存の板張り部分は壊さず活かすため、真冬の底冷えは避けられないと思う。昔の家は壁よりも床の断熱の方が効果的でもあるけれど、床を撤去して新しく組み直す予算を考えての判断となった。

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店舗部分の床をコンクリートで水平に

過去に2度、3度打たれた様子のある現在のコンクリート床部分は、以前、鮮魚を取り扱っていた名残で水勾配が取られていて水平が取れていない。立っていても「斜めだ」と感じるほど。それに小さな側溝は屋外まで繋がっていて、お隣さんの話では「大雨の時は水が逆流していたよ」ということだった。

本にとって水は大敵であり、古本屋の本棚を並べた際にも本棚が斜めに傾いてしまうため、コンクリートを流して水平を確保する。

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やはり水洗トイレがいい

現在のトイレは汲み取り式。排泄物を土の下に埋められた槽に貯めて、定期的にバキュームカーでくみ取ってもらうスタイルになる。多くの水を流さないこともあり?どうしても臭いがキツい。トイレの周辺には臭いも漂う。自分が育ってきた環境では既に水洗トイレだったので、汲み取り式はどうしても・・・。

大家さんとお話をさせていただいた上で、前面道路に下水道管が通っていることもあり、建物内に新しく配管をして水洗便所に変更させてもらうことにした。

お金はかかってしまうけれど、自分自身毎日行く場所であり、お客さんも行く場所となれば、ここは譲れないポイントとも言える。

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電気配線を1からやり直す

建物の電気配線は建てられた当初から使われていた碍子(がいし)引き配線、新たに引かれた塩ビの電気配線など、どこの配線がどこに繋がっているのか、そもそもこの線は生きているのかも分からない状態。1本ずつチェックしてもよいのだけれど、電気屋さんの時間と労力に加えて予算も膨らむ。天井裏にはネズミが暮らした形跡もたくさんあり、配線の信頼性も微妙。(パソコンを使っていて途中でシャットダウンというのも仕事上辛い・・・)

既存の配線は全て使わない方向で、使う部分だけの電気だけ新しく1から引き直す方向とした。碍子(がいし)引き配線は見た目もレトロで、空間の雰囲気と合っているので実際は役に立っていないけれど、インテリアとして残す形としている。

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壁は塗るが将来おそらく割れてくる

壁の仕上げはクレイペイントという塗材を使用している。つや消しのざらっとした質感で漆喰に近い手触りも味わえて、古い建物には相性の良い壁素材。施工もコテではなくローラーで塗れるため、施工性も工期も短縮できる。

ただ、太田宿は車通りが多くトラックが通れば振動は建物に伝わり、強風が吹けば建物は揺れる。塗装後1ヶ月ほどで塗装にひび割れをいくつも発見していて、台風など1年を通してどのくらいのひび割れができるのか建築設計者として興味もある。

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塗材の中には、塗装の下地に厚手の紙を貼りひび割れを防ぐものもあるけれど、予算的に高価になることもあり、今回は採用していない。

本棚は家具屋さんに作ってもらう

全部で8つ設置している本棚は家具屋さんに作ってもらっている。素材はラワン合板で、つや消しの自然塗料で塗ることで色を落ち着かせている。(写真は塗装前)

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市販品の本棚で安価なものは本棚の強度が足りず、重たい建築書やアート本などを置くと、棚板が湾曲してしまうものも多い。ある程度強度を求めると価格が高くなってしまう。建物の雰囲気に合うデザインに加えて、本棚の幅や高さ、棚板のピッチなどを自由に決められる点も含めて、作ってもらった方がよいという判断をしている。

バックヤードはそのままを活かす形で

借りた建物の1/4ぐらいを古本屋と建築設計事務所にする計画で、他の空間は工事することなくそのまま。建物の空間に余裕があるので、古本の在庫や見える所には置いておきたくないゴチャゴチャしたものは、他の部屋に適当に棚を置いてストックしていく形とする。

現状と予算を天秤に掛けながら・・・

古い建物は工事にかかるお金が見積もりにくい。壊してみたら構造的な補強が必要だと予算がそちらに取られてしまう。事前に高めな改修費を見込んでおきたいところ。

現状を見ながら限られた予算でどこまで直すのか、現場をみると「あれもしたい」、「これもしたい」と思いがちだけれど、譲れないポイントがぶれない様にしながら決めていく。常に自分の気持ちと闘う日々は結構大変。

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