7人の女侍 2話 ”長身で短髪なメンヘラによる逆セクハラ~Pt.2”
前回の下の投稿の続きです。
毎晩のようにメッセージ攻撃を投下するメメ子に根負けし、うっかり「唇がセクシーだ」などと褒めてしまった自分。
そのメッセージを交わした翌朝、いきなりニッコニコで挨拶してきて、
「んもぅ~、〇〇さんっ!」
とかよくわからない前のめり感。
もはや漫画でしか聞いたことない口調です。
ともあれ、メメ子が機嫌をよくしてくれるのであれば良いのです。
職場の人が上機嫌になるなら、総務の私は道化も演じます。
しかし、メメ子の場合、その増長された自尊心が良くない方向にも出始めました。
私が指導した仕事に対して、
「私は忙しいから、コレやってください。
○○さんのほうが早く終わるでしょ」
などと職務放棄した上で丸投げしようとする始末。
なんでしょう。私はもうメメ子の魅力の軍門にくだったかのような態度。
それは、関係をもった後に男が女に対して「俺の女」のような高慢な態度を取るのに似ています。
だったらせめて本当に関係を持ってからにしてくれませんか。
損だけはゴメンだ。
・・・というのは冗談ですが、あんなメッセンジャーくらいで私の心を掴んだと思われては心外です。
大きな組織で働いたことがある社会人であれば、仕事は上司経由で依頼されるものであり、上司が部下の進捗管理をしっかり行う責務を負うのが当然です。
それが管理職としての評価にもなります。
ですからもし私がメメ子の上司ならば、この状況も、それを怠った自分のせいです。
しかし中小企業たるうちの会社の場合は、形の上では部門や上司・部下の関係性があるものの、総務部長が組織表を作らないほどの杜撰な組織統制・業務管理体制なのです。もちろん管理職の評価基準に、部下の育成とか管理といった項目など皆無のため、自分に関係のある最低限のことしか指導しません。
だから個人個人が勝手に、他部門の社員に手伝わせたり、教えられたり、そしてそれを自分の上司が知らない、なんてことも日常茶飯事です。
それを「部門の垣根がなく風通しが良い」などと、単に上の人間たちが職務放棄していることを棚に上げて言うのだから埒が明きません。
メメ子の場合、組織・上司・部下といった意識が希薄な組織でしか働いたことがないのでしょう。それが、上のような、社会人として首をひねらざるを得ない依頼に繋がるのです。
後でこうして組織の問題を吟味すれば、メメ子に同情の余地はあるのです。
しかし彼女は私の部下でも同じ部門でもなければ、その件に関しては「手伝ってあげた」に過ぎない案件だったわけであり、この会社に入ったばかりの私にとって、違和感ありありのこの状態を受け入れるほどの余裕はありませんでした。
私はできるだけ冷静を装い、メメ子に言いました。
「その仕事は以前からあなたがやることが決まっていましたよね。理由や経緯の説明もなく、締切日に丸投げっておかしいでしょ」
「”お前がやったほうが早い”って理論なら、一人のスーパーマンが雑用から何から全部やったほうが良いんですか?それじゃなんのために仕事が分担されてるの」
メメ子は、
「ぐ・・ぬぅ・・・」
といった声にもならない声を押し殺し、なんとかその仕事は突き返すことに成功。
しかしその件で、メメ子は急に手のひらを返しはじめます。
他の女性たちに
「私、○○さんのこと苦手」
などと言ってはばからず、イメージ操作で私を孤立させようとしてきます。
かと思えば、夜のメッセージが止むわけでもなく、そのときはまた女女した態度を取ってきます。
これは、ツンデレってやつか・・・?
いや、ツンデレならばどれほど良かったでしょう。
未だにあなたのことを夢に見たくはありません。
労働者のダイバーシティ尊重、職場におけるメンタルヘルスのケア、そういったことに慎重な現代の空気を理解しながらも、あえて言わせてもらいます。
結論から言えば、メメ子はド直球の「メンヘラ女性」だったわけです。
なぜそれにすぐ気づかなかったのでしょう。
メメ子の高身長+ベリーショートの外観に、「サバサバした女」という印象を勝手に持ってしまい、本質に気づくのが遅れてしまったのです。
「メンヘラ」というのは、言わずもがな「メンタルヘルス」を語源にしますが、おおざっぱには、鬱病などの精神疾患になりがちな人を指します。
つまりとても丁寧に接しないといけないカテゴリのひとです。
ついにメメ子のそのトリガーを、私がひいてしまうのです。
細かいことは省略しますが、ある仕事をメメ子が嫌がるものだから、私がそれをサポートしたところ、ミスが生じてしまったのです。
メメ子はそれに対し、日課となった夜のメッセンジャーで私に詰問してきました。
「納得いきません」
後で考えれば、私が謝ったら良かったのかもしれません。
しかし、聖者から程遠い私は、普段の彼女の仕事の放棄ぶりに嫌気がさしていて、
「今回のミスも、もとを辿ればあなたが原因である」
ということを、理路整然と説明したのです。
あくまで「ロジハラ」などと言われない程度に、だったのですが。
結果、メメ子は急に感情をくるっと裏返し、
「ごめんなさい。私が悪かったです。」
などと返してきます。
さて、嫌な予感がしてきました。
予感の通り、それだけでは終わりませんでした。
「ショックでさっきから涙が止まりません」
「これ以上言わないでください。夕ご飯が作れなくなります」
「子どもの前でも涙が止まらず、子どもに心配されています」
「明日会社に行けません」
それはもう、怒涛のように押し寄せる「がんばっている弱い私をなぜいじめるの?」感。
その一方で
「でもあなたに人格否定される筋合いはありません」
なとど攻撃も忘れません。
人格否定はモラハラの典型例ですから、このときもそうならないよう注意したつもりです。しかしもう論理の問題ではなく、言って良い相手かどうかという点で完全に初動を誤っているので、もはや何を言おうが後の祭りです。
そしてついには、こんなメッセージが。
「はじめまして。メメ子の夫の、ヌケサクと申します」
「今、妻は、精神的に追い込まれています。」
「妻は以前、子育てで気を病み、何も手につかなくなりました。
今はそれと近い状態です」
「このメッセージを会社に提出し、あなたと仕事しないように上申したほうがよいとアドバイスしましたが、メメ子はあなたに迷惑をかけたくないと言っています。こんなにつらい思いをしているのに」
・・・・
・・・はぁ!??
~完結編に続く
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