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7人の女侍 4話 ”持つ女性と持たない女性 闘争の記録”

私の職場には7人の女性事務員がいます。

「七人の侍」をもじって「七人の女侍」とも書きましたが、映画七人の侍で男たちが見せる友情とは様相が異なり、女侍のほうはなかなか複雑怪奇なコミュニティを形成しています。

前回は、そのうちの一人にまつわる悲喜こもごもを投稿しました。

残りのメンバーも、負けず劣らずなかなかのツワモノ揃いなのですが、
今回からのシリーズではそのうちの二人を登場させます。


まず一人目は、歳は30代後半、色白で華奢で、いつも「ほんわか」した女性。

彼女の武器は、その「声質」と「ゆったりした口調」です。
声だけ聞いたら誰もが、20代だと思うことでしょう。

その声質を例えるなら、完全にアニメ版鬼滅の刃の「胡蝶しのぶ」

彼女ことを仮に「シノブ」と呼びましょう。

シノブのほんわかした受け答えは、クレームの電話対応で本領発揮されます。

クレームしてくる顧客というのは、とにかく誰かに怒りの矛先を向けたいわけです。

一般的に言われるマニュアル的な対策では、いったん相手の感情を受け止めて同調してあげるといったことが推奨されます。

しかし、例えばハキハキしたタイプで、何でも答えを出してくれそうな頼りがいのある声質の女性だと、クレーマーの感情をへたに受け止めてしまえばどんどん相手の話は止まらなくなり、ときには揚げ足を取られヒートアップすることもあるのです。

感情を吐き出させて受け止めたのは良いものの、それを割り切って受け流せないと、少なからず自分にダメージが蓄積されてしまいます。

つまり、感情を吐き出さなくとも心中の怒りが収まる、そんな対応がもしできればそれに越したことはないのです。

対応相手がシノブの場合、そのほんわかやんわりした応答で、

「そうですかぁ。でしたら、担当者からご連絡差し上げますぅ。」

などと言われたら、あら不思議、クレーマーも「こいつに怒っても仕方あるまい」となり、攻撃の意欲をなくしてしまうのです。
電話回線を通じてまさに胡蝶しのぶばりに相手を麻痺させる毒でも送り込んでいるのか、攻撃を受ける前に相手は戦意を喪失するのです。


前の記事で紹介したメメ子は、性格がその見た目と相反していました。
シノブも同様で、その性格は実はその声質や外見と違って芯が強く、些細なことには動じない肝っ玉の持ち主なのです。


彼女は2年前、なんと、20歳近く上の男性と結婚しました。

相手はもう、定年間際のオッサンです。

ならばきっと、社会的な地位が高く、経済的にも包容力の高い男性なのだろうと思うでしょう。

ところが、その夫は彼女の扶養に入っているくらい、低収入のようです。
(なお、シノブ自体の収入も、地方中小企業の事務ですから、お察しのとおりです)

打算など無視したそのピュアな決断には拍手せざるを得ません。


その事実が社内で周知された日は、

「なんで!?」

「え!?どうして!?」

「うそー!?マジ?」

という「Why?」の輪唱が会社のパントリーにこだましました。


そして、結婚してまもなく、妊娠発表

いや、男にとっては、とても夢のある話です。

あの、おしとやかで純情そうで、子作りの行為などとは結びつけようのない印象の、シノブが、です。

しかも、20歳も上の、きっと白髪まじりで皺も刻んでいるであろう低所得のおじさんに、夜な夜なそいういうことをされているかと思うと、とても興奮します。じゃなかった、とても不思議な感覚です。


職場の他の女侍たちは、彼女の幸せを貶めようと次々とマウントを取ろうとしてきます。

「子どもが二十歳のときに、父親が80手前って、子どもかわいそうじゃない?」

「子どもが一番お金かかるとき、旦那はとっくに定年だよね。厚生年金も少なそうだし、シノブの給料でどうやって育てるんだろうね」

「というか、旦那は絶倫ってことでファイナルアンサー?」

いやはや余計なお世話ですが、そんなことも言いたくなるほど、彼女のイメージとのギャップがあったのです。


しかし、シノブはそんな同僚たちの裏口を知ってかしらずか、まったく意に介さない様子で仕事をしています。うろたえることがまるでありません。

とはいえども、妊娠による生理現象は容赦なく襲ってくるわけで、つわりだったり、体調不良で休むことも多くなってきます。


通常、こういうケースでは、休むほうが入念にまわりに根回しすることになります。

というより、本来ならば、子が生まれることは社会全体が歓迎すべきことだし、そんなことに神経をすり減らさずともスッキリと有休が取れる環境が望ましいのですが、残念ながら男が作った現代社会がそれを許してくれません。田舎の中小企業ならなおさらです。

そんな社会問題は意に介さず、シノブは割とあっさりと、急に休みを取ることが多くなってきました。

「権利は行使する」

「私は何も悪くない」

とシノブが思ったかどうかはわかりませんが、けっこう忙しいタイミングでも、急に当日に休んだりするのです。


シノブは事前の根回しが足りなかったのか、下手だったのかもしれません。

そのような勤務状況が、ついに女侍の最古参である、大ボスの逆鱗に触れてしまうのでした。


ここからは、背筋も凍りつく女の闘いが始まるのです。


「あー、男でよかった。」

・・・もしこんな言い古されたセリフを、いい歳した現代の男が臆面もなく言ったとすれば、考えがあまりに浅過ぎるので、一度底なし沼にハマって反省すべきです。

社会の大多数が男性と女性で構成される限り、女性どうしの問題に男性が関与していないなんてことはありえません。

つまり、会社で起きる女性どうしのイザコザのほどんどは、男が作った社会の仕組みに起因しているのです。

今回の闘いは、まさにそれを象徴するかのような出来事だったのです。


〜パート2へ続く


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