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蒸したてのえび焼売

 あれは多分シリウスやなぁ。

 星を眺めながら帰る。
 ここんとこ残業続きで、わや、だけれど、星を眺めていると、なんだか星が疲れを吸い取ってくれる、そんな気がするのだ。

 大きな横断歩道を渡ったところ、駅の入り口に、551の蓬莱があった。持ち帰り用にと、何人かの客が列を作っている。

 豚まん、おいしいやろうなぁ

 厚めの皮で、ホクホクの豚まんをぼんやりと心に浮かべながらその横を通り過ぎようとしたときだった。

 「ただいまえび焼売、蒸したてですよー」

 と呼び込む声が耳に入ってきた。

 「できたてのえび焼売ですー」

 すると、疲れて早く帰りたいとばかり考えていたぼくの足は、無意識にくるりと踵を返し、気がつけば551のお客の列に並んでいたのだ。

 するとぼくのあとにも何人かが立て続けに並んできた。

 蒸したてのえび焼売!

 その威力はすごいもんやなぁ

 ぼくは並びながら感心した。

 そして心の中はおいしそうなえび焼売の想像で満たされた。

 おいしそうな、とてもよい匂いが漂ってくる。

 と、唐突に腹が減ってきたのだ。いや、もともと腹ぺこだったはずなのだが、忙しさに空腹を忘れてしまっていたのだな、きっと。


 ぼくはいつも、腹が減っていることを感じると、

 生きてるなぁ

 と思う。

 腹の減り具合が強ければ強いほど、その感覚も強くなるのだ。

 えび焼売を前に、ぼくは猛烈に空腹を覚えていた。

 生きてる証拠や。

 辛いときも、いつかは山を越える。その苦労を乗り越えれば、きっと違う景色が見られるはずだ。

 えび焼売と、それから豚まんを買ってぼくは家路についた。
 家についたらすぐに、ホクホクのえび焼売を食べてやろう、しかも辛子をいっぱいつけて食べるのだ、とそんな想像を膨らませながら。




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