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じっくりと読む

 新しい本を、どんどんと読みたくなる時期と、ペースを落として読もうと思う時期とがある。

 どのようなリズムでその時期が訪れるのかはわからないが、

 とにかく本をどんどん買いこんで、まるで未踏の山を制覇していくような感覚で読む時期が一定期間続き、その後に少し落ち着いて読む時期が来て、そしてその次にはそんなに焦らなくてもいいではないか、ゆっくり丁寧に読んで行こう、といように。そのような波が、季節の移り変わりのように繰り返されている気がする。

 どんどん読む時期は、読み終えるたびに達成感と、その達成感を味わう暇もなく気持ちは次の本へと移っていく。

 ま、それはそれでいいのだけれど、今はゆっくりと読むことを愉しむ季節に入っている。

 それは、グレイス・ペイリーを再読し始めたことから始まった、と思う。

 グレイス・ペイリーの作品は(今読んでいるのは「人生のちょっとした煩い」村上春樹訳 という短編集)とても読みづらいけれど、とてもインスピレーションをもたらしてくれる。

 読みにくいから理解しようとするし、理解しようとするからじっくりと丁寧に読むことになる。

 そうすると、まるで瑞々しい果実の果汁を低圧でじっくりと絞り出して味わうような、あるいは行間にこっそりと置かれた極上の何かを見出していくような、そんな感覚になっていくのだ。

 もちろんこれは、グレイス・ペイリーの作品だからそうさせる、というのも大きいだろう。

 新しい本を発見して、次々と戦利品を得るがごとく読み進めていくのもいい。

 でも、本当にいい本であるならば、ゆっくりと時間をかけて、自分の体に浸透させるように読み進めていくのも、乙なものだ。
 そして、その感覚を愉しめるようになったことを、ちょっとだけうれしく思っている。



読んでいただいて、とてもうれしいです!