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「詩」海の中の小さな駅 ~第三章~

伸びきった プラットホームを
再び歩き 駅長は車両基地に着く
あの日と同じように 汽車はない

甘い夏の匂いを 感じながら
駅長は車両基地の 奥へと進み
錆びついた 鉄の扉の前に立つ

駅長は鍵穴に ゆっくり鍵を差し込む
カチッという 乾いた音が車両基地中に響き渡る
そして重厚な音を立てて 扉が開かれ
長方形のけたたましい光が 駅長の目を射す



…。




気が付けば駅長は 夏の草原にいる
親密な空が 澄んだグリーンの草を包み込み
柵のない牧場で 牛たちが
のんびりと入道雲を 眺めている

少し遠くの キンポウゲの咲く丘に
白いワンピースを着た 後ろ姿の女が見える
駅長はひと時 草原の風の中に佇み
夏の日差しを浴びながら 女の待つ丘へと歩く

丘を上がり 駅長は女の前に立つ
すると女は 真っ白な蒸気へと変わる
遠くから 汽笛の音が聞こえてくる


※続く
第二章

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