「詩」粉雪の朝/斑鳩の昼

一月の朝 ガラス越しのベランダで
君は恥ずかしそうに 笑っている
少しずつ 白く染まっていく街並み
枯れた街路樹に 咲き始める雪花


(四月八日 金堂に蓮の花弁が舞い
 彼の人は僧のごとく 経を詠んだ
 菩薩の足音を 尊い人は聞き
 光り輝く彼の人を 尊い人は褒め称えた)


刻々と 形を変えるはずの世界で
定刻通りの バスの発車音
凍えた君を抱きしめた その鼓動は
いつかの 優しい雨音に似ている


(彼の人は 六角堂にいた
 虚仮な世を疎い 彼の人は孤独であった
 空から金色の人が 堂に降りた
 彼の人は涙を流し 無垢な光に触れた)


君の心は 果てしなく遠い
象徴を失くした世界で 人々が
貪欲に自我に 固執するように
僕は激しく 君の内面を探す

 

(彼の人は 空へと消えていった
 金色の人は 彼の人の一族を空へと招いた
 六角堂は焔に焼け 夥しい
 血の雨が 斑鳩の地を朱色に染めた)


互いに求め合う 二人だけの永遠 
幾つかの影を飲み込み 切り捨て
少しずつ 輪郭と色を失くしていく風景
モラトリアムの メメントモリ


(約五百年の 月日が流れた
 彼の人は 悩める人の夢に降りた
 やがて悩める人は 聖人となり悟った
 人は皆 光の中で生きているのだと)








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