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「詩」小詩集 ~秋から冬へ~

「キッチン」

熟れ過ぎた果実
藤カゴの中 身を潜め
薄暗き 秋雨匂う 午後の窓辺



「死に往く者」

もうここに 何も芽生えぬなら
私は荒涼の大地で 過去に咲いた花を摘もう
さようなら 去りゆく者よ 愛しい人よ
私は故郷に在り 故郷あらざるもの
死は喜ばしく この地で我が名を呼ぶだろう



「平城京跡」

朱雀門を抜けるとそこには
万葉の風に 語り部の息吹

あなたにとって 時間とは何ですか?

今を超えた空に 浮かぶ太古の月
誰も知らない あなただけの古都へ



「晩秋を詠んだ歌 一首」

白露の
置き去りし鉢 日は翳り
芽生えぬ土に 埋もれゆく秋



「野辺」

木の葉は 千種の色は
風を染めて 地に落ちて
私は雪に 立ち尽くして



「蜜柑」

嘆かわしく めくれていく球体
芳しい変容 無碍と妙の律動に
明らめる始原の灯 開かれていく原子
傾斜する夕日 乱流の偶然の遺伝子
動詞と静止の虚構を 切り裂く採光の香り



「短歌 一首」

立つ煙
くぐもる空と うちとけて
白く染まりぬ 山人の小屋

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