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「詩」小詩集 ~白の世界~

「寺院」

巨大な寺院の門を 私は潜る
中には何もない 白い砂の地面を除いては
この広大な空間に 果てはあるのか
なぜ金堂や舞台や 塔はないのか
疲弊した私の心身は 無の中に立ち尽くす


「芝居小屋」

芝居小屋は廃れて 白い舞台だけが残っている
平穏を装って私は その舞台上に立つ
いつしか雨音のない 雨が降り始め
白い舞台が消えていく 私は土に落とされる
現れた巨大な霧に 私は濡れながら包まれる


「居酒屋」

霧に包まれた 森の中の小さな村
私は古い木造の 居酒屋に入る
普通の料理 普通の喧騒 普通の客層
ただ奥の方の席 白い服を着た六人の集団が
一本の蠟燭を 無表情で眺めている


「病院」

病院と書かれた看板 村の外れの小さな平屋 
白い服の集団が 祭壇に祈りを捧げている
焚かれた線香の煙が 室内に充満している
私は布団に寝かされ 祈りの声を聞く
部屋の奥で誰かが 甘い香りの茶を淹れている


「喫茶店」

石油ストーブの 上の薬缶の湯気が
うっすらと店内に漂い 陽射しと混じり合う
窓の外の木々たちは 大半の葉を地に落としている
私はまだ捨てられない 私自身の心身を抱えたまま
温かいレモンティーを啜り 白い溜息を吐く

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