学生時代の友だちって、いいな
『日帰りで温泉に行かない?温泉、大丈夫?』っていうLINEが、高校時代の親友のミサ(仮名)から来た。
大丈夫だけど、温泉かぁって、ちょっとびっくりする。
溫泉も、健康ランド系のやつも、私はほとんど行ったことがないし、たぶん苦手な方だと思う。
風呂って水着を着ないし、わぁお~って気持ちだ。
ま、50歳過ぎたら、ある意味なんでも平気なんだけど。
ミサとは高校時代、めちゃくちゃ仲良しだった。
お互いに子どもが生まれてからは、年賀状のやりとりをするくらいで、なかなか会うチャンスもなかったのだが、約半年前、たまたま連絡を取り合うことがあり、一度会って話そうよ、っていう流れで一緒にランチをした。
30年ぶりの再会だった。
お互い「ちっとも変わってないねー!」と言いながら、目尻のシワに大爆笑。
その日は、30年分のそれぞれの人生をいっぱい話した。
不思議なくらいすらすらと、しんどいなぁも、実はね、も全部込み込みで。
普段なら話さない本音も泣き言も、ペラペラとお互いに話せて、聞けて。
そして不思議なくらいに、おっきな口を開けてたくさん笑った。
昨日もこうやって、制服姿でおしゃべりしながら、電車で登校していたような気分だ。
再会から半年後に、まさか二人で日帰り温泉に行くことになるとは想像すらしていなくて、さすがにちょっとドキドキした。
なにしろ、一緒にお風呂に入るのは、おそらく高校の修学旅行ぶりだから。
*****
当日、ミサの車で向かった山の温泉地は、ホテルに併設された施設で、木々の中にぽつりぽつりと小さな風呂やお食事処が点在している。
作務衣を着て、草履でふらふら施設内を移動するのが、その温泉の楽しみ方のルールだった。
老若男女みんなが同じ格好で、施設内を歩いている。
作務衣の下には、上半身は下着を着けず、下半身はぶかぶかの紙パンツというファンキーな常識があるらしく、まるで、がん検診の時にちょっとスースーして病院の中を歩いているような、そんなヒヤヒヤする感覚だった。
私は作務衣だけなのが信用できず、バスタオルを肩から被って、キョドキョドしながら館内を歩いた。
メインはラドン温泉だった。
熱気浴なので、サウナのような雰囲気で、熱気を吸い込んで汗を出す。
サウナよりもう少し温度が低くて湿気があるような、そんな肌感覚だ。
室内は私語禁止。
もちろんスマホの持ち込み禁止で、40分くらい焼き芋みたいに燻されるのが標準タイムらしい。
この温泉の常連で、よく来ているミサは、気持ち良さそうに長椅子に寝転がって、「汗がめちゃくちゃ出るから、いっぱい水素水を飲んでね!」とか言ってるけど、私は熱くて息が苦しくなってくる。
しかも、暇だ。
40分も薄暗い室内で、何にもしないでじーっとするなんて、分刻みに動きたい私にはつらい。
時間を持て余してしまって、落ち着かない。
暑くて眠れる場所でもないし。
目をつぶって瞑想しても、5分と持たない。
腕から球のように出てくる汗を見るのは楽しいけど、ずっと観察するものでもない。
がさごそガサゴソ動いて、水を飲んだり、タオルで仰いだり。
結局、20分くらいで退屈の限界が来て、私は先に外で待つことにした。
「焼き芋なら、私はまだ中心が生だろうな。」
とか思いながら。
我ながら、誠に残念な性分だ。
しばらくするとミサも外に出てきて、「めっちゃ気持ち良かったね!」と水をガブガブ飲んでいた。
整う、ではなさそうだけど、ある意味彼女は整ったようで、よかった。
焼き芋ならば、食べ頃だ。
ベタベタの汗だくのまま、ミサがオススメしてくれたお食事処でうどんをすすり、大浴場でさっぱりと汗を流した。
眼下に広がる広大な景色を見下ろしながら広い湯船に浸かり、2人で頭にタオルを置いてみた。
「ザ、おっさんだね!」と笑いながら。
やっぱり、ラドンより、私はこういう温泉の方が好みのようだ。
まさに「極楽、極楽〜!」の境地。
着替えを済ませ、帰ろうとすると、受付カウンターのお姉さんに引き止められた。
秋の特別なキャンペーンをやっているみたいで、くじ引きを勧められる。
入浴剤やタオルが当たるのかなと思って、一番上にあった三角形の赤い紙を超無欲で取ってみたら、なんと二等が当たってしまった。
「ラドン温泉無料券」
そっちかぁ、いらーん。
ここは、入浴剤くらいをゲットするのがちょうどいいんだけど。
するとミサも二等で、同じ無料券が当たった。
これって、全員が二等じゃないの?と少し疑ったが、受付のお姉さんたちが「すっご~い!なかなか出ないんですよ!」っていうから、私たち、引きが良かったっぽい。
「また、一緒にラドンに来ようよ!」
と、はしゃぐミサに、とりあえず「うん」と、私も笑顔で答えた。
帰り道で、ミサが「のんびりできた?」と私に訊いてきた。
「うん、もちろん!」と答えると、
「よかったぁ!琲音さぁ、娘ちゃんのお世話で、肩とか腰とか痛いやろうなって思ってさ。それに、ゆっくり溫泉なんて、なかなか来れやんかなって思ったから、たまにはゆっくりして欲しかったんだよね。」
運転席で、にっこり笑って彼女はそう言ってくれた。
私は嬉しくて、ぎゅーんってなった。
昔からの親友って、いくつになっても当時のままで、気を遣いすぎずにちゃんと相手を思うようなところが、やっぱりいいな、と思う。
また、ミサと一緒に、前回行ったラドンのある温泉に行こうかな。
次は私から誘ってみよう。
「あの無料券をそろそろ使う?」って。
できれば私も、次はラドンで整ってみたい。
美味しい焼き芋になるくらいに。
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