父の日の日記

6月18日は父の誕生日だ。
昔から、よく父の日と重なっていた。
今年も、父の誕生日が父の日だった。

昔はビールやネクタイを、ここ数年は食事会をプレゼントしてきたけど、今年は贈ることができない。
いつも喜んでくれた父は、もういない。

朝早く、母から電話があった。

「今日はお父さんの誕生日だし、ちょうどお父さんの百箇日ひゃっかにちだから、ちょっと来れる？おばあちゃん（母の母親）の命日だし、いろいろ重なってるから、仏さんを拝みに来たら？」

行くつもりだったのに、言われたら少し気持ちが下がる。
いつも母って、そうなんだよなぁ。
「今やろうと思っていたのに、言うんだもんなぁ」っていうあれ。

やれやれ、と思いつつ、朝から楽しみにしていたこともあったので、私は息子と一緒に家を出た。

息子が最近買ったばかりの、コロコロカクカクした中古車に初めて乗せてもらう。
初めての助手席は、私だ。
ごめんね、未来の息子の彼女さん。

ガソリンスタンドに寄る。
彼にとっては初めての給油なので、やり方を軽く教える。彼はそのため（だけ）に私を助手席に乗せてくれたんだけど、まぁいい。

新しい車のにおいと、ブレーキや加速のたびにカクンとなる感覚に酔いそうになったけど、息子の横顔に酔いしれたから、まぁいい。

ついでにイオンに寄り、父の好物だった果物やお菓子を買って、息子と実家に行った。



母が「南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょう」を10回、「南無阿弥陀なむあみだぶつ」を３回、という謎のお経ミックスバージョンを唱える間、仏壇のロウソクがオレンジ色に優しく揺れるのを見つめていた。
父の遺影がクスッと笑っているように思える。

そのあと、すごい勢いでしゃべり始める母の話し相手をして、息子が実家の犬とひとしきり遊ぶのを眺めて、自宅に帰った。

リビングのベッドでは、寝ていたはずの二女が目を覚ましてキョロキョロしていた。

夫は娘に背を向けて、寝転びながらテレビを観ていた。
なぜか昔に録画していた「思い出のマーニー」を。

「なぁ、マーニーってさぁ、おばけ？」

そんなことを聞く夫にちょっとムッと来たけど、「忘れた」とだけ答えて、私は黙々と二女の着替えやお世話をした。

昼から息子がバイトなので、急いで昨日の残り物を温めて、サラダをササッと作り、彼の昼ごはんを用意した。

バイトの服装に着替えた息子は、昼ごはんをかきこんで慌ててバイトに出かけた。
彼は深夜まで帰ってこない。

マーニーに感動して泣いている夫を呼び、一緒に2人で昼ごはんを食べた。

「マーニーは何だったの？」と聞いたら「おばあちゃんだよ。」と夫が言うので、ずいぶん前に観た記憶が繋がったような、繋がってないような気がした。

食器洗いのあと、洗濯物を取り込み、ちょっとくたびれたので、二女の横に寝転んで、私は15分ほど昼寝をした。

二女にくっついていたら、寝ていても彼女の異変に気づいてやれるから、私はいつも彼女の右側の下の方に小さくまるまって、彼女のお尻を触りながら昼寝する。



起きたらまだ3時。
少しだけお散歩しようと、また夫に二女を任せて外へ出た。

湿気を帯びてまとわりつく空気を切るように、川沿いをサクサク歩く。

すれ違った老夫婦と、「こんにちは」の挨拶を交わした。
おじいさんは杖をついて歩いていた。
私の両親くらいの年齢かな、と思って、振り返って少しの間、おふたりの背中を眺めていた。

ご夫婦の靴がお揃いだと気付いた。
黄色い蛍光色のランニングシューズだ。
仲良しのホタルのよう。
おふたりが、ずっと一緒にお散歩できたらいいな、と思った。

夕方には長女がやってきて、父の日に、と夫にビールを渡していた。
夫はめちゃくちゃ嬉しそうに照れ笑いしていた。

これを期待して、めずらしく彼が朝からずっと家にいたことを、私は知っている。

長女が来ると予想して、私もイオンで水まんじゅうを買っておいた。
珈琲を入れて、3人でお茶をする。

おしゃべりしていたら、もう5時過ぎ。
慌てて夕飯の支度を始めた。
お好み焼きをいっぱい焼いて、長女に持って帰らせる。

長女にバイバイしたら、母が気になって、母にもお好み焼きを届けることにした。
明日の昼ごはん用に。
ひとりだと、お好み焼きは作らないだろうから。

夕飯の後は、義母に電話をした。
入院中の義父へ、父の日のプレゼントが何もできなかったことが、ちょっと心残りだったからだ。

また義父にも会いたいな、と思う。

今年の6月の第三日曜日は、長くて短くて、なんでもないようで盛りだくさんな父の日だった。

寝る前に、「蛍光」って漢字はホタルの光って書くなぁと、今更だけど、大発見みたいにしみじみ納得した。

いつか、夫とお揃いの蛍光シューズを買ってもいいな。

おしまい。