秋だから、また走り出そうかな
秋も深まり、お散歩が心地よくなってきた。
週末になると、実家までの道をわざと遠回りして、ちょっと早足で川沿いを歩く。まわりは田んぼしかない道なので、桜の季節以外はほとんど誰も歩いていない。
大きく腕を振ったり、大股で歩いてみたりしても、わりと大丈夫だ。
元陸上部の血が騒ぎ、たまに軽く走る。
ジャージではなく、パーカーに綿パン、ウエストポーチみたいな格好だけど、軽くジョギングするには全然問題ない。
だが向こうから誰かが来ると、さっとお散歩おばさんに戻る。
気持ちのいい直線の道を目の前にすると、全力で走り出したくなる。
歳を忘れて、誰もいないのを確認してからダッシュもしてみる。
しかしそんな時に限って、自転車の学生さんが急に死角から現れるのでびっくり。
さりげなく道端の草の茂みを見たりして、「あれ?」とか言って探し物をしているふりをすれば、たぶんダッシュしたとは思われない。
ヒヤヒヤするが、風を切って走るのはとっても気持ちいい。
趣味で走っている姪から「来月、フルマラソンに出るんだよ。」っていう話を聞いたら、なんだかまた、自分も走りたくなった。
何度目だろう、私が走ろうと試みたのは。
毎回続かない。
誰かが走っている話を聞くたびに、ムズムズする。たくさん走るのは無理だとしても、継続的に毎日少し走ってみたくなるのだ。
だから、ランニングシューズは買ってある。
前回の試みは、今年の春。
走り出す前に腰を痛めてしまい、ランニングを断念した。
前々回は、昨年の初冬。
ハプニングがあり、心が折れた。
だからシューズはピカピカのままだ。
良い季節だし、また走ってみるか!と、頭の中で妄想を繰り広げてみた。
いざ走るとなると、毎回気になるのは「かたち」、つまり服装だ。
ほんとうは、格好いいランニングウェアを着たい。テンションも上がるだろう。
でも、そんな格好で走っている人をこの地域で見たことがない。ときどきおじさまたちが走っているのを見かけることもあるが、Tシャツに短パンかジャージ、寒くなればウインドブレーカー、という格好ばかり。
この季節、服装はジャージが無難だなと思う。
娘が高校時代に着ていたPUMAのジャージなら2階の引き出しに眠っている。背中に高校名&「送球部」と書いてあるし、私にはちょっと裾が長めだけど、走るならあのジャージだな。
だが、ジャージを着てご近所を走るとなれば、必ず知り合いに見られるだろう。
「はいねさん、やってるね~」みたいなのがやっぱり恥ずかしい。
走ることをある程度継続できるなら、誰かに見つかってもいいんだけど、もしも長続きしないですぐにやめてしまったら、「はいねさん、もうやめたんだ~」っていう感じになってしまう。
それが一番恥ずかしい。
やっぱり走るなら、服装はパーカーと綿パンで走ろう。
散歩に見せるためのカモフラージュ作戦だ。
やっと服装は決まったが、次に時間帯が問題になる。
昼間はどう考えても無理だ。
時間的にもだけど、人にも逢いやすい。
早朝か夜なら誰にも逢わないだろうし、もし逢っても、私だとわからない。
でも夜はバタバタと忙しすぎて出られない。やっぱり朝か、いや、朝はダメだなと、前々回の挫折を思い出した。
*****
昨年の11月末だった。またやってみたい衝動で、ランニングを始めてみた。
まだ薄暗い早朝に、ユニクロの暖パンとウルトラライトダウンでちょっと外へ出てみる。
ひんやりした空気がノーメークの顔に刺さる。ピカピカの白いシューズが、薄暗い庭でやたらと目立つが、なんだか自分が「やってる人」みたいで嬉しい。
思ったよりも空が明るいから、顔を隠すためにマスクをつけた。駐車場へ駆け降り、屈伸を3回。
準備運動もバッチリだ。
さぁ、走り出そう!
家の前を曲がったところで、坂の上のほうから中学校指定のウインドブレーカーの少年が走ってきた。
「朝から走って、感心感心!」って思っていたら、「彼」は私より3歳年上の近所の奥さんだった。
彼女は息子さんの昔使っていたウインドブレーカーを拝借したらしい。すっぴんで深く帽子を被っていても、ちゃんと彼女だとわかる。
「ありゃりゃ、はいねさん、バレたか・・・。これなら中学生だと誤魔化せると思ったら、やっぱりあかんね~。健康のためにちょっと走ろうかと思って。でもなんか、昼間に近所を走るのって恥ずかしいやん。」
みんな同じことを考えている。
「一緒一緒、私もこの格好だけど、ちょっと走ってみよかな~と思ったん。なるほど、息子のウインドブレーカーね!ナイスアイデアやん!大丈夫!遠くからだと中学生に見えるよ!」
2人とも恥ずかしかった。
結局走らずに、私は家に戻って息子の弁当を作り始めた。
次の日も、私は早朝ランニングをやらなかった。ウインドブレーカー作戦に、気持ちが負けた。
奥さん、おもしろすぎるんだもん。
*****
この前々回の教訓で、今回も早朝を諦めた。
今回はまだ、妄想しかしていない。
週末にランニングコースのある公園へ、車で30分もかけてわざわざ走りに行くほどの熱量もない。
まわりの目を気にせずに近所を走り続ける強い意志もない。
そもそも、あれこれ理由をつけて「無理」を探すところが間違っている。
走ることを継続されている方々を、心から尊敬する。
実家までの「気まぐれランニング」を、もう少し充実させようと思う。
今のところ、それで私は充分だ。いつもの普段着に、シューズだけピカピカのランニング用にすればいいかな。
あぁ、家の前が皇居だったらいいのに。
長々と、ほとんど妄想ばかりのお話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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