映画館でスタジオライブを見た/TKfrom凛として時雨"SAINOU"-Film Gig Emotion-【感想】
行ってよかった。
半年ぶりの渋谷は代わり映えしていないが、近未来感は増していた。映画館は3年ぶり、場所は「ヒューマントラスト渋谷」、よく通ってはいたが、建物の中に入るのは初めてだった。
キャパ200人でコロナ対策のため1席開けての鑑賞、赤色のふかふかした椅子で全体的にこじんまりとしているが、そのこじんまりさがちょうどよかった。
上映内容は以前の配信ライブとは内容は一緒、だけど全く違った感想だった。
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「Fantastic Magic」ではいきなり氷柱の豪雨と落雷と地鳴りが鳴り響き、美麗でドラマチックな悪天候からはじまった。
直後の「Kalei de scope」では万華鏡の中にいるような、時速49kmで回るメリーゴーランドのような目まぐるしさに早速渦巻かれた。
「flower」ではTKがギターを鳴らした瞬間、映画館のスクリーン一面にバラ、ダリア、ユリ、ラナンキュラス、トルコキキョウ、何十種類の花が一気に咲き乱れたかのような音と照明のリンクには、天国へ飛んだのかと思った。
家でもライブハウスでも映画館でもない異次元に飛ばされたのは初めてだった。”既に一度見ている”という余裕は、一瞬でTKの音楽に埋め尽くされて消えた。
一番ライブ映え、いや映画館映えしているなと思ったのは「鶴の仕返し」。
雪の降る夜、凍てりついた鶴が夜空へ飛び立ち、霜に包まれた羽が一枚一枚、ゆっくり落ちてゆく。その羽についた霜は、触っても溶けてしまうし、晴れても溶けてしまう。上映時間は21:20から、夜に怖い昔話を見てしまったようだ。
そして映画館でより楽曲の魅力を発揮したのは「蝶の飛ぶ水槽」。
深夜の樹海の湖に溺れているような錯覚、冷たく、真っ暗で、何も見えなくて、深くて、怖くて、蒼い。何者かに顔を水面につけられ殺されかけたところ、何者かが私の髪の毛を引っ張り、息をさせる。顔を上げたときに蝶が横切った、そんな恐怖の最先端から抜け出し、目の当たりにした奇跡を繰り返した起承転結に、いつの間にか転がされていた。
そんなホラー感満載の楽曲の合間には「インフィクション」「copy light」はあたたかい心の芯が映し出されるような柔らかい曲で緩急をつけた。
奇跡の裾を掴んでは消え、暗闇のトンネルから光が見えたと思ったら、また暗闇に蓋をされてしまう。その一瞬見えた光を、日々の日常に近い音楽であるこの2曲に封じ込めたようだ。
「凡脳」では、あまりの音の色の尖りっぷりにマシンガンでカラーボールを撃たれたようだった。ゲーム"スプラトゥーン"で例えればポップすぎるが、四方八方から原色のカラフルな弾丸が飛んでくるようで、その豪華絢爛な音楽と鋭い音の刺激の快楽に溺れた。
「彩脳」では「凡脳」でのカラフルさとは違い、空一面が虹になったように綺麗で滑らかだった。「凡脳」は睨み付けるような現実世界的な痛さ、「彩脳」はパラレルワールドで、現実と幻想世界の2つの世界を同時に生きているような感覚だった。
「mement」から怒涛のラスト「katharsis」では、いつの間にか世界観に飲み込まれていた。水の中で目が覚めてから、あっと言う間に音の洪水に飲まれてしまった。
エンドロールのラストは予告されていた新曲が流れた。
砂嵐に明朝体のリリックが映し出されるというシンプルさ。TK節満載のフレーズと曲展開、自分の中の"死にたい"と"殺してみなよ"が喧嘩してるような歌詞だった。
"心は殺された 命だけが残った"そんなような歌詞が印象的だった。まさに今の私である。
館内の明かりが付き、「TKfrom凛として時雨」の夢幻想世界から現実世界に戻ると、震えている私がいた。
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こだわっているだけあり立体的で音響が良く、いつも溶け込んでしまうギターが主役に踊り出ており、まるでライブのような臨場感があった。
TKの「ファンに音楽を届けたい」という心意義が嬉しかった。ツアーのチケットは払い戻さずに持っていつだってツアーの再開を待ってるけど、こんな状況だから”こそ”届けたいという気持ちが一層強く伝わった。
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一度見たライブなのに、環境が変わっただけで全く違うライブになり、圧倒されっぱなしだった。
映画館で見に行ってよかったと思う反面、音楽が充満した瞬間、こんなにも殺されかけられるのかという恐怖も覚えてしまった。
TKの音楽が好きで触れに言ったはずなのに、気がつけば息ができず苦しくなってる。目に見えないものに首を締められながら、轟音の空襲に刺され、気づけば息をするのを忘れている。
そして、私の中の私は殺され、失い、空っぽになった。空っぽになってしまった自分から、本当の自分を探さなくちゃいけない。
ライブに行けなくなって忘れていたんだ、そして思い出したんだ、TKのライブを見た後に私に残されるのは、耳鳴りと、残像と、心が殺された身体だけの私だということを。
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