嫁とブラックな金曜日

「夫くん、もうダメだよ・・・」

「どうしたの？そんな深刻な顔して」

「この子はもう限界だよ。休ませてあげよう」

「・・・この子って、どの子？何言ってるの？」

「このフライパンだよ。見てよ、もうボロボロ」

「・・・なんだフライパンか」

「なんだじゃないよ！この子は毎日毎日
夫くんの食欲を満たすためにがんばったんだよ」

「そ、そうだね。悪かったよ。その通りだよ」

いつも明るい嫁ちゃんがなんだかどんよりと
表情が曇っていると思ったらフライパン。
確かに、我が家で愛用していたティファールの
取っ手が取れるフライパンのテフロン加工が
傷つき、ロゴは消え失せ、弱々しい印象だ。

「餃子を焼いたんだけどさ、もうダメ。
くっついてボロボロになっちゃうんだよ」

「それじゃあもうテフロン終わってるね。
テフロンじゃなくてフロン…いやテロだ」

「何ぶつぶつ言ってるの？夫くん」

「男はしょうもないことを言いたくなるんだ。
すまないが見逃してくれ」

「何年使ったっけ？４年？５年もっとだっけ？」

「そう考えると凄かったね、このフライパン。
ほとんど毎日使って、こんだけ活躍したんだね」

「そうなのよ。この子はがんばった。できる子」

「じゃあ、新しくしよっか？フライパン」

「・・・実はナベもちょっとガタが来ていて」

「じゃあ、ティファール鍋フライパンセットで
ちょっと見てみる？」

「いいね。ていうか夫くんティファール好きね」

「そりゃ、ティファールは取っ手が取れるから。
洗いやすいし、収納しやすい。超便利じゃない」

「他のメーカーも取っ手は取れるんじゃない？」

「そりゃそうなんだけど、デザインも大事よ。
色もロゴもカッコいいでしょ？ぼくは好きだ」

「まあ、たしかにティファールいいよね。
買わないけどお店があったら入っちゃうし」

「そうだよね。買わないけど、見るのは楽しい」

「じゃあ夫くん、今日買いに行く？フライパン」

「そうだね・・・ん？ちょっと待って」

「何、どしたの」

「あと一か月、待ってくれる？」

「はあ？一か月も？どうしてよ？」

「たしか、年末あたりにやるじゃない」

「やるって、なにを？」

「Amazonブラックフライデーだよ！」

「ああ、ああ。たしかにやるね」

「それで買ってみるのはどうかなって」

「なるほどね～。ブラックフライデーか」

「いいでしょ？普段ネット通販とかしないし
なんか色々見てみたいんだよ」

「それまでこの限界フライパンでやれと？」

「うっ、は、はい・・・」

「いつ？」

「はい？」

「いつからやるの？ブラックフライデーは」

「えっと、だから、一か月後？くらい？」

「今すぐ調べて！正確な！日時を！」

「へい！」

「こちとら命（食欲）預かってるのよ」

「えーっと、正確な開始日は不明なんだけど
おそらく11月24（金）から一週間続くみたい」

「よろしい」

「つまりあと３週間くらい、だね」

「まあ、なんとかやってみましょ」

「いつもありがとうございます」

嫁は料理に関することでたまに性格が変わる。