地域と関わるのに「理由」はいらない。関係人口の3人に聞く、自分らしい地域との関わりの見つけ方
「第二のふるさとを持ちたい」
「地域に関わってみたい」
「地域創生に興味がある」
コロナ禍以降、人生の豊かさを求め、地域と関わりを持つ「関係人口」がちょっとしたブームになっています。
そんな風に移住までではないけど、観光よりももっとディープに地域と関わる関係人口として地域に関わろうと思ったとき、どんな地域で、どんなきっかけで、どんな関わり方ができると良いのでしょうか?
第3回ふるさとLABOでは、都市部で暮らしながら、地域と現在進行形で関わりを持っている社会人メンバーの3人に「地域と関わってみてぶっちゃけどう?」を深ぼる座談会を開催しました。
などなど、リアルに地域と関わっている3人だからこその興味深いエピソードが…!
そんな座談会の様子をちょっと覗いてみましょう。
ゲスト紹介
【エピソード①】
佐渡での原体験が、起業につながった
ーー具体的にどんな風に地域との関わりを持っているのでしょうか?
八神さん:
「人と自然の共生」をテーマに、土に還るオムツを開発中です。
最近ではサステナブルという価値観が広がってきていますが、赤ちゃんのオムツや女性のサニタリーナプキンとかって化学物質で作られたポリマーを吸水素材として使っているので、一人当たり生涯で500kgものゴミが出て、焼却する際には環境に大きな負荷がかかってしまっています。だから、オムツを自然由来の素材でつくることで、土に還して堆肥化できるようになればゴミも減らせるし、豊かになった土壌でまた新たな食物が育てられる。そんな風に、人が生きていくために必要な排泄などの営みが、自然と循環していく暮らしを目指しているんです。
今は土に還るオムツの元になる自然素材を求めて、長野県をフィールドに、竹やリンゴの皮など地域で余っている未利用資源を探しています。この前は飯田市のリンゴジュース工場で余ったリンゴの搾りかすをたんまりもらってきたので、そういったものから吸水素材を作れないか実験中です!
ーー八神さんは起業準備というかなり具体的な目的のために地域と関わっているんですね。なぜ地域での起業を考えるようになったんですか?
八神さん:土に還るオムツのコンセプトでもある「人と自然の共生」は、実はコロナ前にハマって通っていた佐渡が原体験なんです。
私は5-6年前、「GOKIGEN Nippon」という日本各地のふるさとと交流するプログラムを通じて、新潟県の佐渡に7回ほど通っていて。佐渡はお能が有名で日本国内の能楽堂の3分の1は佐渡にあるくらいなんですけど、私が通っていた集落にも茅葺き屋根の能舞台があったんです。しかも、その茅葺き屋根は、近くの湖に自生している葦(よし)を使うことでサステナブルな循環が実現していた。さらにその湖では牡蠣を養殖しているんですが、その牡蠣の養殖に使う筏もは里山に生えている竹を活用していて。茅葺き屋根も、牡蠣の養殖にも、自然の恵みがうまく生かされていて、「ここに自然と循環した暮らしがある!」ってものすごく感動したのを記憶しています。
それから、出向でご縁のあった経済産業省でカーボンニュートラルや自然環境に関する仕事に関わったり、世の中的にもサステナビリティが重要視されるようになっていったりして、だんだんと過去の原体験と今やっていることがつながってきたんです。
自分も生活の延長線上でサステナブルな暮らしやプロダクトづくりをしたいと思うようになった時、長野なら東京との2拠点でそれが叶うかもと思うようになりました。
ーー偶然ハマった佐渡での体験が起業につながっていたんですね!
【エピソード②】
打ち合わせに参加したら、いきなり地域のプロジェクトマネージャーに?!
ーー間嶋さんは、本業と並行してプロボノ的に地域プロジェクトの支援に関わっていると聞きました。どんなことをされているんですか?
間嶋さん:僕は普段は教育系ベンチャーで働いているんですが、会社として地域創生にも関わっていこうという動きがあって。ただいきなりビジネスとして地域に関わるのって難しいなと思って、長野県の関係人口コミュニティ「さとキャン」を通じて、伊那谷の廃校利活用プロジェクトの企画づくりや推進役をやらせてもらっています。
具体的にはプロジェクトの活動費を引っ張ってくるための補助金申請書類を作成したり、地域プレイヤーの方々の思いをヒアリングしながら具体的な企画に落とし込んだりしています。
最終的には、関係人口向けにアイデア創発型の廃校ツアーを実施して、廃校アイデアを構想する「伊那谷クリエイティブキャンプ」という企画をやりました。そのキャンプ企画を通じて、地域の自然素材を活用したクラフトジンの蒸留所を作ろうというアイデアが進行中です。将来的には地域資源をさまざまなアイデアで商品化して行って伊那谷ブランドを生み出していきたいねとメンバーの中で話しています。
ーー間嶋さんはどんな経緯でそのプロジェクトに関わることになったんですか?
間嶋さん:最初はさとキャンのslackで「廃校利活用のプロジェクトが立ち上がるから興味ある人は打ち合わせに来ない?」っていう募集があったんです。なんか面白そうだな、と思ってミーティングに参加してみたら、そこで補助金の期限が3日前だということが分かって(笑)。本職でも社長の右腕的な立場で社長の思いを聞きながら具体的に形にしていく役割だったので、申請書類の作成を担当することになったんです。
ーーいきなりすごい展開ですね(笑)。プロボノと言いつつ、仕事並みに本格的なプロジェクトのようですが、会社との両立は大変じゃないんですか?
間嶋さん:僕にとっては、仕事と地域プロジェクトがごちゃ混ぜで、本業の仕事しながら、「あ、そういえば廃校プロジェクトの方もやろう」みたいな感じでバランスとりながらやれているので苦痛にはならないですね。僕は今の仕事以外にも働き方の選択肢を常に複数持っておきたいので、地域のプロジェクトに関わることで、自分の働き方の選択肢を広げている感覚はあります。
ーー地域プロジェクトをやってみて良かったことはなんですか?
間嶋さん:いきなり漠然と地域に関わろうと思うと難しいけど、仕事的に関わっている方が地域に入りやすいというのはありますね。それに、今回のプロジェクトオーナーの折山さんって、飯田市の空き家再生や地域づくりのキーパーソンでそういう人と今回のプロジェクトを通じて関われたのはよかったですね。折山さんを通じて、他の面白い地域プレイヤーの人とも繋がれますしね。
【エピソード③】
旅しながら多様な地域のイベントサポート、見えてきた夢
ーー起業やプロボノなど、比較的濃い関わりを持っている2人でしたが、及川さんはもう少し緩く、広く地域と関わり続けていると聞きました。
及川さん:僕がいちばんライトな関わり方かもしれないですね。普段はコンサルティング企業で働きながら、2〜3ヶ月に一度のペースで土日を使って地域に通っていて、これまでに飯田市の天竜峡、辰野町、王滝村など8地域くらいのイベントに関わらせてもらったかな。
この前は飯田市の天竜峡というところで開催されている県主催の空き家DIYイベントに参加してきたり、地域の伝統工芸や老舗の跡継ぎとして転職・移住するという「アトツギ移住」について考えるイベントの司会をやらせてもらったり、地域発のイベントに自分ができる範囲でサポーター役として関わらせてもらっています。
ーー及川さんが今のように緩く広く多様な地域と関わりを持つようになったのはどんなきっかけがあったんですか?
及川さん:仕事だけで生活が終わるのは面白くないっていうのが大きかったですね。日々働いていると、どうしても人のつながりも、時間の使い方も仕事に偏ってきちゃうじゃないですか。かといって、自分の中だけで完結する趣味もなんか違うなあって。せっかく自分の時間を過ごすなら、ただ遊ぶよりかは意味のあることに時間を使いたいなって思ったとき、地域のイベントやプロジェクトのお手伝いって少しでも誰かの役に立てている感覚が持てるんです。それに、ちょっとした資料作りとか、自分の中で当たり前だと思うような仕事のスキルが地域の人からはすごく感謝されたりして、自分の中でも役立てることがあるんだという喜びを感じられることが大きいですね。
ーー緩く、広く地域と関わり続ける中で自分の中に変化とかってありましたか?
あんまり強く自分のやりたいことがあるわけではなかったんですが、いろんな地域とのイベントに関わる中で、やっぱり自分の場を持っていろんな人と関わるって楽しそうだなって。ゲストハウスのように、柔らかく人が集えるような場づくりをしてみたいなっていう思いが芽生えはじめていますね。
お酒や音楽、伝統工芸にも関心があるので、自分で場を持ってそういうテーマをかけわせた企画をやってみたいです。
ーー八神さんと同じく、地域と関わる中で自分の中の「好き」や「やりたい」が見えてきた感じですね!
【対話セッション】
やりたいことがわからないから、まずは地域に“巻き込まれてみた”
ーー起業、プロボノ、地域イベントのサポート役と三者三様の関わり方で面白いです! ただ、それぞれ自分らしい地域との関わり方ができているという点は3人に共通しているのかなって思います。近すぎず遠すぎず、自分に合った心地よい関わり方をしていくためのコツってあったりしますか?
八神さん:関係人口的に地域と関わる場合、「自分がやりたいこと」と「地域がやってほしいこと」のバランスをとることが大事だと思います。自分がやりたいこともあるけど、地域側でやってほしいという期待もあるので。その時に、自分のやりたいを地域に一方的に押し付けると地域と良い関係は築けないし、逆に地域側の求めに応じるだけでも自分がのまれちゃう。自分の軸を持ちながら地域の求めにも応じていくことが大事かなと思いますね。その視点でいうと、マジー(間嶋)さんは地域側のニーズとバチっと合った感じなんですか?
間嶋さん:僕の場合は今まさに心地よい場所を探っている最中ですね。ここだなと思える場所に見つかるために今は意図的に地域側に巻き込まれにいっている感じです(笑)。やっぱり、地域と地域とどういう風に関わりたいかとか、何がしたいかとかって体験しないとわからないじゃないですか。僕の場合、やりたいこととか、やりたくないことっていうのがそんなにはっきりしているタイプじゃなくって、結構なんでも良かったりするんですよね。だからこそ、幅が広すぎて絞れないしむずい。だから、まずは一回プロジェクトに関わって、現地の人とコミュニケーションするなかで探っていってる感じですね。
及川さん:実は僕もSlackで廃校利活用のプロジェクトに関わろうか迷ったんですけど、結構深く関わることになりそうで、抜けられなくなる気がしたので距離を取ったんです(笑)。マジーさんはそういう心配はなかったんですか?
間嶋さん:自分の中できちっと線引きするようにはしてますね。ここまではプロボノでできるけど、これ以上引き受けたら本業と両立できないみたいな。
ーーどこまで関わりたいかっていう判断基準を持つのって大事そうですね。心地よいなと思える関わり方の基準はどうやって醸成されていったんですか?
八神さん:やっぱり地域と関わっていく中で見えてきたのかなあ。最初の頃は、自分に合う地域ってどこかわからなかったので、声をかけられたらとにかく足を運んでいた。
今の方が「このくらいのタイミングで通いたいです」っていう自分なりの基準ができましたね。長野に関わる前に別の地域にも足を運んでいたんですが、そちらでは今一つ前に進めなくて。だから今は「自分のやりたいことに理解や共感をしてくれるか」というのをいちばんの基準にしていて、長野ではそれができているなって感じます。
なぜ地域に関わりたいの? その目的は後から見つかっていく
ーーここからは会場の皆さんからも質問があれば聞いてみたいんですが、何かありますか?
参加者A:漠然と地域に関わってみたいと思ってきたんですが、これまで地方に関わるのってなんでだっけ?という問いをきちんと言語化できませんでした。でも、まずは無目的でも、関わりたいから関わるっていうのも必要かもって思えて背中を押してもらえた気がします。
及川さん:たしかに、地域(創生)に関わりたい、みたいな曖昧な動機って持つ人は多いと思うですけど、それを深ぼっていくと、人によっていろんな思いや目的が隠れていそうですよね。でもそれは実際に動いてみないと見えてこないっていう。だからこそ、最初は無目的に地域と関わることが大事な気がします。
間嶋さん:本業の方で、採用面接もやったりするんですけど、「明確な目的は見えてないけど地域創生に関わってみたい!」という子には、「協力隊になってみたら?」って勧めたりもしています。まずはやってみる中で見えてくることもあるかなと。
八神さん:無目的でも関わっているうちに目的が芽生えることはありますもんね。その可能性を残すために余白を残しておく必要なのかも。
参加者B:やっぱり地域に入っていくってなった時に、何したいの?って聞かれることは多い気がします。でも例えば、友達になる時のことを考えてみると、「こういう目的のために友達になりましょう!」っていうコミュニケーションではなくて、お互いのことを知り合ううちに、自然と友達になっていくと思うんですよね。そういうふうに、地域の人たちとも無目的に仲良くなれる場があって、そこで知り合った友達に会いにいける、みたいな機会があると良いのかなって思いました。
ーー友達になるのに、目的がいらないように、地域と関わりを持つのも、あまり構えすぎずに「まずはおしゃべりしませんか?」くらいのカジュアルな関わり方から始めるのもいいですね。
夢ややりたいことを見つけるプロセスと、自分に合った地域を見つけるプロセスは似ているかもしれません。
どちらも、「まずはやってみる」。
やってみて、楽しかったり、心地よかったら続けてみる。
続けているうちに、ハマってきて、好きになって、気づいたらそれが「やりたいこと」「自分に合った地域」になっている。
考えるな。感じよう。
そんなカジュアルな感覚で、まずは気軽に地域のイベントに足を運んでみるのも良いかもしれません。
さとキャンでは、地域と関わる一歩目をこれからも様々な形でつくっていきます。あなたが地域との心地よい関わり方を見つけるきっかけに活用してみてください!
(インタビュー・文:北埜航太)
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