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3 ココルームという実験

 アートNPOココルームはわたしの仕事場でもあり、社会的実験の場でもあります。正式名称は「NPO法人 こえとことばとこころの部屋」。声はいのちの表現であり、言葉は応答のための表現であり、心は想像力の翼です。
 この名前のとおり、ココルームは「表現」というのものが、社会とどのように関わることができるのかさぐっています。人々が表現しあい、対話を重ねることは生きることを深くするものだと信じています。
 ココルームは2003年からに大阪市の現代芸術拠点形成事業の一つの団体として、浪速区の新世界にある都市型立体遊園地ビル・フェスティバルゲートで活動をはじめました。この建物はバブル期の1997年、大阪市の土地に4つの信託銀行によって土地信託の方式で建てられました。総面積1.4ha。開業数年で営業不振に陥ったこの建物にアート系のNPOを誘致したのが2002年です。4つのアート系NPOが活動しましたが、2007年にこの事業が頓挫し、建物も閉鎖されました。
 ココルームは2008年となりの西成区の商店街に拠点を移しました。ココルームの活動をはじめてすぐ、20メートルほど離れた隣町・西成の釜ヶ崎に関心を持ち、少しづつ関わり始めました。日本の高度経済成長を支えてきた街がこれほどに忌み嫌われることに違和感を持ち、そして抑圧された人々の表現の奥深さに直感的に興味を持ったのです。人々がアートNPOの事務所を訪ねてくれることはないので、ココルームは設立当時からずっと喫茶店のふりをしています。釜ヶ崎に拠点を移したとき、フェスティバルゲートの頃と変わったことは、アート関係者の訪れがほぼなくなり、釜ヶ崎の日雇い労働者や生活保護受給者、全国から釜ヶ崎に流れてくる家のない人が訪れるようになったことです。今でこそアート関係者や研究者なども訪ねてきますが、引越してからしばらくは一癖二癖ある人たちだけがやってきました。やがて地域と少しづつ関係が育まれたものの、高齢化と地域の土地への投資が活発になりカラオケ居酒屋が増え、ココルームの喫茶店は営業不振に陥りました。そこで旅人と関わる事業を考え、2016年4月に同じ商店街で「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」の運営をはじめました。旅人と地域の人々がであい、記憶と経験をわかちあえる表現の場をつくりました。
 今でも、ふつうの喫茶店と違うのは、お金のない人やお喋りにくるだけの人、いろんな相談事を持ち込む人がいることです。そうした人たちと緩やかに関係をつくり、表現の機会へとつなぎます。カフェやゲストハウスには地域の人たちがつくった作品のようなものが所狭しと展示してあります。ちいさなトークイベントやライブ、ワークショップの会場にもなります。

 こうした、だれでも出入り自由の場をつくり、そこで「表現」を担保するための場作りからから学んだことがあります。人は、じぶんの存在を排除されたり無視されたりすることなく、存在が認められることを心の底から感じられたときに、すなおに表現することができるのですね。生きづらい環境で抑圧されつづけた人々がのびのび表現できないのは、その人個人の問題ではないということです。社会環境やまわりの人々との関わりのなかで、孤独に麻痺してしまったのです。もちろん、人は孤独です。けれど孤立した孤独と違い、じぶんの人生をひきうける孤独は、人々の関わりを生み出すふしぎな力をもっています。ココルームは、多様な人々が生きるための、孤独をひきうけて表される「表現」の力を信じ、多様性を認めあえる社会の実現をめざしています。 
 これまで活動のための収入は、喫茶店の収益、助成金で獲得したお金、寄付です。その割合はだいたい3:4:3でまかなってきました。ココルームは若者たちがじぶんたちで働く場をつくる実験の場でもありました。少ないお給料でも、いっしょにご飯を作って食べることで生活のお金を抑え、スタッフ自身がココルームという場をとおして興味のあることを仕事にすることを認め合ってきました。ステップアップの場でもありました。そういう意味でもココルームは社会的実験の場でもあったのです。とはいえ、14年目をむかえ、継続的な活動が難しくなりました。行政からの補助金はなく、助成金を獲得してきました。助成金はアート系だけでなく、就業支援、コミュニティビジネス、福祉、医療、まちづくりなど、さまざまな分野に取り組みました。ココルームの活動はさまざまな課題に対し表現を軸とした先駆的な取り組みだったからです。けれど同じ助成金を何度も、というのは難しく、申請できる助成金が減ってきました。また釜ヶ崎ではカラオケ居酒屋の急増でおじさんたちの来店が減り喫茶店の経営がうまくいかなくなりました。お給料が安すぎてスタッフが長く働けないこともおじさんたちが違和感を持つことになり来店を妨げる理由となりました。また、生活保護受給者が80人程暮らすマンションの生活に寄り添う管理人業務を2年間取り組み、マンションの共有スペースに表現の場を埋め込む挑戦を行うなど、アート団体の仕事の領域を越えるような活動をしてきました。さらに、2016年新しい挑戦として、商店街にある共同住宅をリノベーションして35床のベッドと野生的な大きな庭をもつ「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」の運営に乗り出しました。まだ軌道にのらず悪戦苦闘しているところです。スタッフは3名。非常勤4名。障がいを持つ人の就労の派遣先となり、毎日数名の障がい者が働いています。


現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています