「私は偏っている。」 臨床心理士への随録
自分自身を理解すること、内省すること、自己洞察を深めていくことは、心理援助に際してなぜ必要になるのでしょうか。
ひとつには、自分の限界や短所や認知の偏りを知ることで、歪んだクライエント理解をしていることを自覚するためです。そう承知していれば、相手のことを100%理解しているなんて傲りはなくなり、いい意味でのあきらめ感情も生まれ、不完全であることでかえって外界からの刺激に対し一貫した態度で対応できるようになります。こうした姿勢がクライエントとの信頼関係を築きます。
二つ目に、感情のマネジメントができるようになります。援助の場面ではしばしばクライエントは転移感情を露わにし、カウンセラーにも逆転移の力動が働きます。自分を客観的にみる視点を持つことで、感情のゆさぶりに左右されず、対人場面を安心感のある環境にすることができます。
このような信頼感や安心感が、クライエント自らの自己実現傾向の発揮による自己一致の実現、ならびに不適応状態の変容に大きく貢献するのです。
自分の強さと弱さ、得意と苦手、価値観、過去からの影響など、改めて向き合う時がやってきました。とてもつらい作業ですよね。人生の節目でみなさんも体験していることだと思いますが、心理屋として生きていく私はこれを一生続けていくんだなあと感じています。