見出し画像

記憶装置としての植栽(HONDA和光ビルのランドスケープ)

シーアイハイツ和光というマンションの集合住宅植栽とその歴史について、前回記事でまとめました。今回はそのお隣のホンダ和光ビルについて。

シーアイハイツの目の前にホンダの大きな敷地がある。あまり特徴が思い浮かばない和光市だけど、和光市といえばホンダ。次に理化学研究所だよね、と言われるほど和光市のなかでホンダの存在感は大きい。
和光市駅からすぐの広大な敷地に建つホンダ和光ビルはホンダの本社のひとつ。いろシーアイハイツと同じく竹中工務店施工で、どちらも建築の受賞歴がある。
隣接しているシーアイハイツの14階からは、眼下のホンダ和光ビルのみどり豊かな敷地がよく見渡せる、という位置関係だ。


シーアイハイツとホンダ和光ビル。
左上はメトロの車両基地

三谷徹さんのランドスケープ設計に出会う

先日、この景色を見て「あっ!」と気づいたことがあった。
実は、その数日前に「ランドスケープ(景観)って何だろう?」ということを考えて、三谷徹というランドスケープアーキテクト(建築以外の外構・造園部分の設計者)のことを知りその代表作である品川駅前の植栽、品川セントラルガーデンのことを考えていた。

(品川セントラルパークについて3:15-9:40で三谷さんが設計意図を語っている)

(こちらが三谷さんのオンサイト計画設定事務所のよる品川セントラルガーデンの記録)

品川駅のガーデンも誰それのデザインとかは知らず歩いたことはあって、素敵な場所として記憶していた。品川を再訪したくなったのももちろんだけど、近場ならホンダ和光ビルも大規模なランドスケープと言えるかも!と思いたち、ランドスケープ勉強のために見に行った。
そうしたら、あらためて見ると和光ビルの駐車場の植栽は品川セントラルガーデンにそっくりだったのである。
「あっ、似てる!」

調べてみると、品川セントラルガーデンの竣工は2003年、ホンダ和光ビルの竣工は2005年頃。ほぼ同時期。なんと、どちらもランドスケープの設計は三谷さんが行っていた!
おもわぬ偶然の発見が嬉しかった。そして、ふだん意識していなかっただけで、ランドスケープアーキテクト(景観設計)の仕事は意外に身近なところにあるんだなあ、と気づいた。 

こちらが品川セントラルガーデン。

主要樹木は群植されたカツラの木
落葉したカツラ。都市に四季を持ち込んでいる。

興味深いと思ったのは、水と土と緑を素材に扱うランドスケープは、建築家のようにわかりやすくカタチや素材の特徴から作家性を示すものではないということ。そして、それにも関わらず、高木の均等な群植で舗装を覆うことで森をつくるという着想や、ツリーサークルのデザインなど、同じ設計者が設計していることが感じられるイディオムというか、デザインの言葉づかいがあることだ

和光ホンダビルの駐車場。品川に似ている。


記憶装置としての植栽

こちら↑は三谷さんのオンサイト設計事務所ウェブサイトの、和光ビル植栽の記録。ここに書かれている下記の設計意図も興味深い。

…南北に連続する小さな庭の連続帯…これは古参の従業員が自慢とした旧生産ラインの長さを記念したものであり、これから新しい社員によって育てられてゆく野花やハーブ類のための空間となるであろう。

https://www.s-onsite.com/works/detail.html?id=7

どういうことかというと、帯状に南北に伸びている緑の植栽帯は、本社ビルを建て替える以前の工場のベルトコンベヤーを模しているということ。

帯状のハーブの植栽帯

ちなみにホンダの和光工場では戦後の復興期から長期にわたってバイクが製造されていた。ホンダはバイクからはじまった企業であり、和光市はホンダのまちであり、”バイクのまち"でもあった。ベルトコンベヤー状の植栽帯はそのことの記憶装置だ。

よくよく考えてみると、駐車場の敷地を間引いて群植をほどこしたり、バイク製造のベルトコンベヤーを記念碑のようにしてハーブに置き換えるという行為は、ランドスケープという立場からの都市とモビリティへの三谷さんのかなり大胆な挑戦状にもおもえる。まるで、いずれすべては役割を終え、森に覆われればいいと語っているような…。
いや、そうではなく、ホンダという企業がそれだけ自動車産業に対する想いと反省をもっていると言うべきなのか。
(とはいえ、品川セントラルガーデンとちがい駐車場の高木は強剪定されあまり育ってはない。やはり車への落葉の問題があるのかもしれない。ある意味でデザインの敗北?)

ところで、和光市は有楽町駅の終着駅でもあり、ホンダ和光ビルの敷地の北側には東京メトロの車両基地がある。(ここは米軍基地のための引き込み線だった場所らしい)
ホンダの帯状の植栽の先には、線路にたくさんの車両が眠っている。彼らはベルトコンベヤーとちがい、検車を受けてまた多くの都市生活者をのせて走る。電車たちはいわば仮眠しているだけだ。
遠い未来には、彼らが歴史的使命を終えかつて線路だった場所を記念し帯状の植栽帯がほどこされる日が来るんだろうか?

巨大な集合住宅、車両基地、自動車メーカー施設、それらに施された植栽…。都市空間の成り立ちを抽象化して凝縮した空間。これがシーアイハイツからの眺め、和光市の景色だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?