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都市に根づくためのランドスケープ〜マンション植栽の時間軸を考える
シーアイハイツ和光の樹林
有楽町か東上線で和光市駅へ。そこから徒歩5分ちょっと歩く。
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シーアイハイツ和光。15階建てのマンションが8棟建ち並んでいる。ここは僕の新しいふるさとの一つだ。総戸数1600戸のマンション群で、敷地内には広大な緑地がある。住居エリアが縦に積層することで、その他の共用スペースに豊かな緑地が実現する。樹林だけでなく、遊具のある広場やテニスコートも備えつけられている。どちらが良い悪いという話じゃないけれど、都市部の住宅街で無秩序に戸建が立ち並び、それらに1戸1庭、という具合にちょこんと緑地がついているのとは対照的な景色といえる。
航空写真でみるとその緑量の豊かさがよくわかる。
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実際に敷地内を歩くとエントランスから奥へ続く通りにはケヤキが多く、よくみると和光市の「保存樹」に指定されていることを示すタグがついている。
数年前にこの光景を見たとき、ぼくはおそらく開発時にもともと武蔵野平野があってそこを伐採し一部の樹木を保存したのだろうなと思っていた。
これだけよく育った高木が景観を作り出しているマンションはそれまで見たことがなかったから。
マンション建築以前の土地の記憶をさぐる
けれど、調べてみるとケヤキははるか昔からここに植っていたわけではなかった。
これは1961年頃の航空写真だ。
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現在の樹林の姿はまったくない。写真上部は既に現在と同じくホンダの敷地で、写真下部は巨大な倉庫のような建物と荒涼とした原っぱのような空地があるのみだ。現代の航空写真と見比べると、大きな地形はさほど変わっていることがわかる。
![](https://assets.st-note.com/img/1686041614824-boml2Mo6KS.jpg?width=800)
実は、現在のシーアイハイツがあるあたりは、アメリカ軍の倉庫だったらしい。1945年の敗戦後、和光市の南部はキャンプドレイクというアメリカ軍の一大拠点として接収され、シーアイハイツのある土地もどうやらその一部だったらしい。
アメリカ軍が進駐する以前は、軍需工場で、そこでは機関銃が製造されていたらしい。機関銃!
緑豊かで平和な景色の下には、そのような語りきれない暴力と悲惨な歴史が剥がされて静かに存在している。
その後のざっくりとした歴史をたどると、キャンプドレイクは1962年前後頃に返還され、シーアイハイツの用地を伊藤忠が取得。竹中工務店の設計施工で1984年に竣工している。
ランドスケープの時間軸を考える
あのモノクロ写真の占領の生々しい傷跡の残る原っぱにマンションが新築され樹木が新植され、それからおよそ40年。
ずっと昔からそこにあるかのようにそよいでいるケヤキたちはかつては無く、つくられたランドスケープ(景観)だった。人の手で作られているけれども、とても自然に、人々の生活を見守る存在として、変わらずにそこにあるような顔をしている。
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変わらないようでいて、40年という時間軸のなかで実は変わっているというか、大きく育っていて、そこに豊かさがある。
木を植え、景色をつくる仕事の豊かさは、設計・施工・竣工という現在のときの断面ではなくこうした40年、50年という時間軸のなかにあると思う。それを意識するのはとても大切なことだ。
シーアイハイツの管理組合の植栽計画を読むと、過剰に大きくなったらヒマラヤ杉をはじめとした高木について、日陰の問題や駐車場の車への落葉・落実など様々な問題が報告されていて、剪定だけの管理計画でなく伐採と小ぶりな樹木への植え替えが提唱されている。
コンクリートの構造物は理論上は100年も200年も
もつ。その建物を「減価償却」のような経済的な時間軸を指標にして建て替えるのではなく、コンクリートの寿命にあわせて長く使っていくこと。そんな経験を僕たちはまだ経験したことがない。今後もこの街の風景に住みづけるためには、住人も第一世代から徐々に健全なペースで世代交代していかなければ、すぐに管理費が高騰して廃墟になってしまうだろうし、植栽もまた長期的な時間軸で更新されていかなければいけない。
難しい話に思えるけど、覚えておきたい大切なことは、「木って育つよね。長い時間のなかで。でもその長い時間って、意外にそんなに遠くのことじゃないよ」ってこと。時間軸をもつとは、そういうことだと。
付記:
ランドスケープにおける時間軸の大切さを教えてくれたのは造園家の田瀬理夫さんとその代表作アクロス福岡の森。田瀬さんは60年後を意識して高層ビルのうえに植栽し、長期的に維持管理に携わり続けて豊かな森を福岡の都市部に作りだしている。
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