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信じられる人


20代前半の頃、働き始めたアパレルショップの店長は、とても人当たりのいい人だった。

というのは、良くも悪くもと言う感じで、いつもスタッフとしゃべってばかりいて、お客さまが入店しても、接客にも行かないし、上の立場として指示をすることに、躊躇があるような感じの人だった。

あまりに驚いたわたしは、とにかく、こんなお店の在り方には染まりたくない、と、一所懸命働いた。

店頭がバタバタしているのに、カウンターから出てこないときなどは、直接店長に、

『なんで接客行かないんですか?お客さまいらっしゃるんですけど!』

と吠えることも多々あった。

わたし、新人ですけど…新人にとやかく言われる店長ってどうなの?大丈夫?

そんな滞りを抱えながら、働いていた。

なんならわたし店長になっちゃうからね!見とけよ!的な勢いで、店長不在のときは、お店のレイアウトも勝手に変えては、売り上げを実績を積み重ねた。

それが楽しくたまらなくて、どんどんやりたい放題やった。

すると、だんだん店長の様子が変わり始めた。

レイアウトをやたら真剣に作り出したり、接客につくスピードも早くなった。

わたしが作ってせっかく反応のよかったディスプレイを変えたりして、やり合ってる感満載。

でも内心、わたしはうれしかった。

店長のやる気が、日に日に漲っているのを感じた。


ある朝、わたしはとても機嫌が悪かった。

全然接客する気にならない。そして当たり前だが全然売れない。

そんな不貞腐れた様子を見た店長は、わたしに言った。

「○○さん、接客つくの遅くない?お客さま待ってるやん。やる気あるん?」

詳しくは覚えてないが、こんな感じの内容だったと思う。

その瞬間、【わ!叱られた!やった!】と思った。

変な反応だろうか?

でも、明らかによくない態度をとっているとき、叱ってくれる人というのは、当時、わたしがその人を信じられる瞬間であり、尊敬できるかどうかの基準だったのである。

だから、すごく感激した。


その店長とは四年半、一緒に働いた。

京都に新店舗が出来ることを機に、念願叶って、わたしが京都店の店長を任されることになり、店長とは別々に働くことになった。

別れのとき、店長が言ってくれた。

「○○さんがいてくれたから、今のわたしがある。仕事にやりがいを感じられるようになった。楽しめるようになった。ほんまにありがとう。」

最高の言葉だった。


わたしがやりたい放題出来たのは、店長のやさしさであり、器のでかさのおかげであった。

きっと、上司と部下としての相性がよかったのだろう。

店長のおかげで、自由に表現し、毎日の仕事をのびのびと楽しむことが出来た。

楽しいとき、うまくいくときは、いつだってWin-Winだ。


これからも、わたしはわたしで在り続ける。

人間として、地に足つけて生きる。

このいのち、この身体を、未知の体験、深い悦びでいっぱいにするために。








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