障害のある子が大人になってからのお金(1)
障害のある子が大人になってからの金銭収支はどうなるのか、赤字にならないか、赤字になるのなら不足分を親が用意しておかないといけないのかなどの不安や疑問を持っている親御さんは多いと思います。
今回は、大人になってからの収入と支出の平均額や、障害基礎年金などの公的なサポート、さらには子どもの老後資金についても少し触れながら、子どもの将来のお金についてイメージがわくようにしていきたいと思います。
収入
まずは、就労タイプ別の平均収入や、公的な経済サポート等の金額についてみることで収入のおおよそのイメージをつかんでみましょう。
就労等による平均収入(月額)
代表的な就労・日中活動タイプ別の平均収入を見てみます。
一般雇用:障害者固有のデータなし(正社員32.3万円、非正規21.7万円)
障害者雇用:11.7万円(知的障害)
特例子会社:12.5~16.5万円が最多ゾーン(全障害平均)
就労継続支援A型:8.2万円(最多は6万円程度)
就労継続支援B型:1.6万円(最多は1万円程度)
生活介護・地域活動支援センター:0~3千円程度
障害基礎年金
障害によって十分に働くことができない人にとって障害基礎年金は主要な収入源となります。受給するための要件があり、障害の等級により金額が違ってきます。
令和6年度の金額
1級:月額 8万5千円
2級:月額 6万8千円
障害年金生活者支援給付金
所得が一定額以下の年金受給者には、生活を支援するために年金生活者支援給付金が支給されます。障害基礎年金を受給しているのであればほとんどの場合給付金ももらうことができます。
令和6年度の金額
障害年金1級:月 6,638円
障害年金2級:月 5,310円
公的な手当
受給要件を満たすことで公的な手当を受給できる場合あります。20歳以上になると障害基礎年金がありますので、特別児童扶養手当に代表されるような子どもがもらえる手当に比べると大人になってからの手当ては受給要件が厳しくなる印象です。
特別障害者手当:月額 28,840円(令和6年度)
自治体独自の手当
東京都重度心身障害者手当:月額6万円
神奈川県在宅重度障害者等手当:年額6万円 など、自治体による
しょうがい共済(障害者扶養共済制度)
障害のある人を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、保護者が亡くなった時などに、障害のある人に対して一定額の年金を一生涯支給する公的制度です。
支給額:毎月2万円/口(最大2口まで)
掛金月額:9,300~23,300円/口(加入時の保護者の年齢による)
しょうがい共済は一生涯年金がもらえる魅力的な制度ですが、仕組みが簡単ではないので、しっかり理解した上で加入を決めるべき制度でしょう。
生活保護(要件あり)
最低生活費>収入の場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給されます。収入には就労による収入、年金(障害基礎年金を含む)、親族による援助などが含まれます。
最低生活費は住んでいる地域、年齢、世帯人数などで決められます。
最も高い地域の最低生活費例:20~40歳の単身:約13万円(医療費は別に実費支給、障害者加算は加味せず)
就労することができず、障害基礎年金だけでは生活費が賄えない場合などに、セフティーネットとして生活保護が用意されています。
支出
支出は住居と趣味によって大きく変わります。住居タイプ別の生活費と趣味に関するお金について考えてみましょう。
住居タイプ別の生活費平均
基本的な生活費は、障害者支援施設入所 < 親と同居 < グループホーム < 一人暮らし の順で大きくなる傾向があります。もちろんのことながら、金額だけで住むところを決めるべきではありません。
趣味や余暇のお金
趣味や余暇のお金は、その人の興味や行動範囲、お金に対する価値観などにより大きく違ってきますので、将来のお金を考える際に平均値はあまり役に立たないでしょう。収入面も考慮してその人にあった支出額を想定する必要があります。
グループホーム利用者のアンケート結果によると、個人的な生活費・小遣いの平均は約3万円4千円ですが、2万円未満の人が全体の30%である一方、5万円以上の人が21%もいることから、ばらつきが大きいことがわかります。
社会保険料
健康保険や国民年金などの社会保険料は障害があっても支払う必要があるのでしょうか?
健康保険料
障害を理由とした免除・減額はなく、就労先で健康保険に加入していない場合は、親などの健康保険の扶養に入るか、国民健康保険に加入する必要があります。
国民健康保険料は自治体によって違いますが収入等に応じて決められます。
国民健康保険料の目安:横浜市の例(令和5年度)
40歳、単身世帯、収入(障害基礎年金1級+工賃1万円): 月額保険料:約1,600円
40歳、単身世帯、収入(障害基礎年金2級+給与8万4千円):月額保険料:約3,000円
就労先で健康保険に入れない場合は、親の扶養に入れるのが一番いいですね。
親の扶養に入れない場合は国民健康保険に入らないといけないのですが、収入が多くない場合の保険料は上記の程度です。
なお、障害基礎年金を受給していても親の扶養に入ることはできます。扶養については誤った理解も多いので、別の機会に触れたいと思います。
年金保険料
障害基礎年金を受給している場合
障害基礎年金を受給していると国民年金保険料は免除されます。
免除はされますが、65歳から受け取ることができる老齢基礎年金は半額になります。
障害基礎年金の受給に年齢制限はありませんので、障害基礎年金を一生涯受給できるのであれば問題ありませんが、程度が変わり得る障害の場合は、障害基礎年金が途中で更新されない可能性がありますので注意が必要です。将来が心配であれば国民年金保険料を払うことで、将来の老齢基礎年金を満額とすることができます。
障害基礎年金と老齢基礎年金を同時に両方受給することはできません。
障害基礎年金を受給していない場合
51人以上の企業等で週20時間以上働くなど一定の条件を満たして働く場合は勤務先で厚生年金保険と健康保険に加入することになります。
就労先で厚生年金に加入できない場合は国民年金に加入します。
国民年金保険料:16,980円(令和6年度)
子どもの老後資金
子どもの老後に介護費用がかかるかもしれません。障害の原因によっては老化が早かったり、寿命が平均より短かったりする場合がありますので、その人に応じた老後資金を考えたほうがいいでしょう。
子どもの老後資金を考える必要があるの?
知的障害や発達障害のある人は身体機能の低下が早く、急速に進む傾向があるとの研究があります。
障害者グループホームに年齢制限はありませんが、身体機能や認知機能が大きく低下した場合、今まで住んでいたグループホームでは対応することができなくなり、特別養護老人ホームなどの高齢者施設へ移るケースが散見され、多くの場合自己負担額が上がります。
自宅暮らしで在宅介護保険サービスを利用し始めると原則1割負担となります。収入が少ない場合は月の上限が設けられています。
在宅での介護保険サービスでは不十分になると、高齢者施設や障害者グループホームなどへの入所を検討する必要が出てきます。
老後介護にかかる費用
特別養護老人ホーム:月10~15万円
収入が障害基礎年金程度で、預貯金額が550万円以下の場合は、介護保険給付により月6万円~11万円程度に軽減されます。民間の介護付き老人ホーム:月15~30万円 +入居時 0~数千万円
在宅での介護保険サービス自己負担:自己負担には上限があり、収入が少ない場合は上限 15,000円/月の自己負担となります。
年金受給額の将来
少子高齢化の日本においては公的年金の将来が心配との声が多く聞かれます。実際、受給水準は下がっていく可能性が高いと見られているので、将来のお金を考えるときには、障害基礎年金が徐々に下がる想定で考えた方が安心でしょう。
今回は、障害のある子が大人になってからの収入と支出の平均的な金額を見てみました。ただ、実際には人によって大きく違うのが現状です。次回は3つのモデルケースを見ながら将来のお金についてイメージできるようにしていきたいと思います。
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