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知的障害がある人の日中の暮らしと収入

知的障害のあるお子さんが、大人になってからどのような仕事や日中の暮らしをして、収入はどの程度あるのかなどを気にされている親御さんは多いと思います。
皆さんご自分に合った様々な暮らし方をされているのですが、今回は代表的な暮らし方と平均的な収入について紹介したいと思います。将来を考える上での参考になれば幸いです。

日中の暮らしと収入

代表的な日中の暮らし方を大きく分けると以下の3つになります。もちろんこれ以外の暮らしをされている方もたくさんいらっしゃいますのであくまでも参考例です。

①「就労してお金を得る」:企業での一般雇用または障害者枠での雇用、企業の特例子会社での就労、障害福祉サービスである就労継続支援A型の利用などがあります。

②「自分に合った日中活動や、マイペースで働いて多少のお金を得る」:障害福祉サービスの生活介護/地域活動支援センターの利用や、就労継続支援B型の利用などがあります。

③「就労や暮らしの訓練」:障害福祉サービスの「就労移行支援」や「自立訓練(生活訓練)」の利用などがあります。

では、それぞれの概要や平均収入などを見て行きましょう。

就労タイプ・日中活動タイプ別の特徴と平均収入一覧

まずは一覧表からです。

賃金データ出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」「平成30年度障害者雇用実態調査」「令和3年度工賃(賃金)の実績について」、野村総合研究所「障害者雇用及び特例子会社の経営実態に関する実態調査 」2016年、日本知的障害者福祉協会「令和3年度 生活介護事業所(通所型)実態調査報告」

一般雇用

一般雇用は、障害者枠雇用よりも給与面などは好条件となり得るものの、障害に対する理解や必要な配慮が十分に得られない可能性があります。職場定着率は障害者枠雇用より低くなる傾向にあります。また、障害を開示して就職した方が、開示せずに就職した場合より定着率が高くなる傾向にあります。

下記グラフは知的障害がある人の一般企業における職場定着率です。就職してから1年後も同じ職場で就労を続けている人の割合を比べると、障害者雇用では75%なのに対して、障害をわかってもらった上での一般雇用は46%、障害を告げずに一般雇用となった場合は19%と大きな差が見られます。知的障害以外の障害でも同じ傾向が見られます。職場で長く働き続けるためには職場での理解と配慮が重要ということでしょう。

一般企業における知的障害者の職場定着率
出典:障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」2017年4月

一般雇用の平均賃金

障害のある人が一般雇用された場合の平均賃金データはありませんが、一般雇用全体での平均賃金月額は正社員が32.3万円、非正規が21.7万円となっています。


障害者枠雇用

障害のあることを前提として求人・採用しているのが障害者枠雇用で、一般的には障害手帳をもっていることが条件になります。

従業員に占める障害のある人(身体障害者・知的障害者・精神障害者)の割合を「障害者雇用率」と言います。一定規模以上の会社・事業者は、障害者雇用率を2.3%以上(公的機関は2.5~2.6%以上)にする義務があり、これを満たさないと納付金を収める必要があります。

障害者雇用率にカウントされるのは、身体障害者手帳1~6級に該当する人、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人、児童相談所などで知的障害者と判定された人になっているので、障害者雇用率を満たしたい企業としては、一般的に障害者手帳保有が雇用の条件となります。(知的障害については手帳がなくても児童相談所などが発行する判定書があればいい。)

国が推し進めるこの施策もあって年々障害者雇用は増加してきており、2021年6月時点で民間企業に雇用されている障害のある人の数は59.8万人、率では2.2%となっています。59.8万人のうち、身体障害が35.9万人、知的障害が14.1万人、精神障害が9.8万人となっています。

障害者雇用は、職場で障害への理解と配慮が期待できるため、就労を長く続けられる可能性が高くなりますが、一般雇用に比べると給与面では低くなりがちです。その理由として、労働時間が比較的短い場合が多いことや、有期契約で非正社員での雇用形態が多いことがあげられます。
厚生労働省「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」によると、知的障害がある人の週所定労働時間は約1/3の人が30時間未満となっています。言い換えると、自分のペースで仕事ができる職場が多いと言えるかもしれません。

知的障害のある人の週所定労働時間(障害者雇用)

雇用形態別では、無期契約の正社員が 18.4%、有期契約の正社員が 1.4%、無期契約の正社員以外が 40.9%、有期契約の正社員以外が 39.1%となっています。

職業別(職種別)にみると、生産工程の職業が 37.8%と最も多く、次いでサービスの職業が 22.4%となっており、職種の選択肢は比較的限られたものになります。

知的障害のある人の職業分布(障害者雇用)
出典:厚生労働省「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」

なお、同調査によると、知的障害のうち重度が 17.5%、重度以外が 74.3%、残り8.2%は不明となっています。

障害者雇用の平均賃金(知的障害のある人)

厚生労働省「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」によると、障害者雇用のうち、知的障害のある人の平均賃金は月額11.7万円となっています。

特例子会社

企業が障害のある人の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合に、その子会社に雇用されている人を親会社に雇用されているとみなして障害者雇用率を算定することができるようになっています。そのような子会社を特例子会社と呼んでいます。

一定の要件には、雇用される障害のある人が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であることや、障害のある人のための施設の改善や専任の指導員がいることなどがあります。つまり特例子会社は、職場・仕事が障害のある人がいる前提で設計されているため、より働きやすい環境が期待できます。

障害のない人に一人交じって働くというより、障害のある人達と一緒に働くことで仲間ができ孤立しにくいことや、会社の就業規則などを障害のある人が働きやすいように柔軟に設定できること、また、手厚い指導員のサポートが受けられるなどの特徴があげられます。

特例子会社の平均賃金

特例子会社の平均賃金データはありませんが、年収の金額ゾーンでは151~200万円が一番多いゾーンとなっています。

就労継続支援

企業等に就労することが難しい人は、「就労継続支援」と呼ばれる障害福祉サービスを使って働くことができます。働く場を提供すると共に、就労に必要な能力向上を支援してくれるサービスで、昔は作業所と呼ばれていた事業所が多くあります。

就労継続支援で働き続ける人もいますが、名前に「支援」とあるように、企業就労へのステップアップを目指して訓練的に利用している人もいます。

就労継続支援にはA型とB型の2種類あり内容が違います。

就労継続支援A型

A型は事業所と雇用契約を結んで働き、都道府県が定める時間当たりの最低賃金が保障されます。時間的には4~8時間/日、週3~5日程度が多いようです。所定労働時間によっては健康保険、厚生年金、雇用保険などの社会保険に加入することができます。

ある程度の賃金が期待できますが、仕事を遂行するための能力及び体力が必要とされます。

就労継続支援A型の平均賃金

就労継続支援A型の平均賃金は月額8.2万円で、最も多いのは6万円程度となっています。

就労継続支援B型

B型では雇用契約がなく、比較的軽めの作業等をマイペースで行うことが可能です。朝から夕方まで通所している場合でも実働時間は事業所によってまちまちで、一日中働くところや、休息をとりながら自分のペースで働くところもあります。毎日通所する人や週に1日の人もいます。

雇用契約がないB型では“給料”という形ではなく“工賃”という名目でお金を受け取ります。工賃は給料のように時間/日/月あたりの賃金が決まっているわけではなく、得られた利益をメンバーで山分けするイメージが近いでしょう。

就労継続支援B型の平均工賃

就労継続支援B型の平均工賃は月額1.6万円で、最も多いのは1万円程度となっています。

就労継続支援での仕事

A型、B型ともに様々な業種で様々な仕事・作業が行われています。例えば、パン・お菓子の製造・販売、カフェ・レストランでの調理・接客、弁当製造、お店のスタッフ、データ入力・ウェブ作業、事務作業、箱折り・袋詰めなどの軽作業、軽作業の内職、工場での各種作業、清掃・草刈り、農作業などなど、例を挙げるときりがないほどです。

「就労継続支援A型 事業所」「就労継続支援B型 事業所」に地域名を加えてネット検索するとお住まいの地域の実例がたくさん出てくるでしょう。

生活介護

働くことをメインにするのではなく、創作活動や軽めの仕事など日中活動の場を提供する生活介護という障害福祉サービスがあります。

生活介護は創作活動や生産活動をするだけでなく、名前の通り、入浴・トイレ・食事等の介護や日常生活の相談・支援も含まれますのでより支援を必要とする人のみが利用でき、具体的には支援区分3以上の人が対象です。

活動内容は非常に様々で、絵やクラフトなどの創作活動のほかに、料理やパン作り、体操・ストレッチ・散歩、ダンス、レクリエーションなどの活動や、作った作品の販売、清掃、空き缶回収、内職、農作業などの生産的な活動をして工賃を得る事業所もあります。

週1日通所から週5日通所まで利用頻度は様々です。また曜日ごとに複数の事業所に通う人や、就労継続支援B型等との併用など利用の仕方は様々です。

朝は9~10時の間に通所して、午前に一つか二つの活動(プログラム)を行い、昼ごはんを食べてから午後の活動(プログラム)を行って15時頃に終了する事業所が多いでしょう。利用する人の特性に合わせて、9時から17時まで活動するところもあります。また自宅まで送迎のある事業所もあります。

生活介護事業所での収入

生活介護事業所の約8割で工賃が支払われており、そのうち約半数が3千円以下となっています。

地域活動支援センター

前述の就労継続支援や生活介護は国の制度による全国一律のサービスですが、地域活動支援センターと呼ばれる自治体の事業があります。地域活動支援センターにはいくつかのタイプがあり、創作や生産などの基本的な活動に加えて、相談支援事業や生活面での介護など、タイプにより提供している事業内容に違いがあります。自治体による事業なので、利用料や対象者も自治体により違います。

活動内容を見ただけでは生活介護や就労継続支援B型との違いが分かりにくい事業所が多く、また自治体によっては地域活動支援センターとは呼ばずに別の呼称を使っていたりするので、名称になじみがない方も多いかもしれません。
活動内容は生活介護など国の制度によるサービスと似ていますが、元となる制度が違うため利用料金が異なる場合があることや、国の制度によるサービスを利用する際に必要となる利用計画作成を行う「計画相談支援」事業者を利用しなくてもよいことなどが制度に起因する違いになります。

訓練

企業への就職や自立した日常生活を送るための訓練を行う障害福祉サービスがあり、それぞれ就労移行支援自立訓練(生活訓練)と呼ばれています。どちらも原則として最大2年間の利用期限があり何年も訓練を受けられるわけではありません。

就労移行支援

企業などへの就職を目指して、就労のために必要な訓練や相談ができます。事業所によって事務の仕事、軽作業、清掃など得意とする分野があり、中にはデザインや動画編集などクリエイティブな仕事やプログラミングを訓練するところもあります。

事業所によって内容・やり方は違いますが、一般的には就労に必要な技術的スキルの訓練、ビジネスマナーや集中力を身に付ける訓練、コミュニケーションの訓練、就職先を見つけるサポート、面接の練習、その他諸々の相談などが多いでしょう。スキルの訓練だけでなく、体力をつけることや、レクリエーション活動を通して生活リズムを整えるなどのプログラムを用意しているところもあります。

スキルの訓練では、パソコンを使っての作業や、組み立て・ピッキング・仕分けなどの軽作業、清掃などを実際に行うことで、課題や目標が明確になったり、得意なこと・やりたいことがわかってきたりする場合があります。また、障害者雇用を行っている企業・公的機関に実習として数日間働く機会もあります。なお、作業をした場合の工賃支払いは事業所によりまちまちです。

学校を卒業してすぐに訓練をする場合や、一回働いてみたけどうまくいかない場合に訓練を受けて再度就労を目指すなど、利用する時期は様々です。
原則最大2年間しか利用できません。

自立訓練(生活訓練)

自立した日常生活・社会生活が送れるように生活能力の訓練を行います。様々な訓練を必要に応じて行います。例えば、家事・金銭管理・交通機関の乗り方など日常生活の訓練や、生活リズムを整えて体調管理をする訓練、コミュニケーションの訓練、その他にも余暇活動を通して好きなことを見つけるなど訓練以外の様々なプログラムもあります。

学校を卒業してすぐに利用する場合や、長期入院からの退院後に利用するなど、利用する時期・状況は様々です。原則最大2年間しか利用できません。

就労移行支援、自立訓練(生活訓練)の利用料金

就労移行支援、自立訓練(生活訓練)ともに国が定める障害福祉サービスであり、障害がある本人の所得が少ない場合には利用料はかかりません。

障害福祉サービスの全体概要や利用料については別の機会に触れたいと思います。

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