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舞台「UTOPIA」を終えて




この度はcoconkukanunity vol.12
5周年記念公演 「UTOPIA」 を応援いただきありがとうございました。

このご時世の中、誰一人欠けることなく最後まで走り切ることができてひとまず安堵の気持ちでいっぱいです。

簡単ではありますが作品について少しお話させていただければと思います。

■タイトル「UTOPIA」について

自身の作品では、いつも少し捻った、というか、ストレートでは無いタイトルをつけることが多かったです
・2018年 もしも、世界が、あお、ならば、、、
・2019年 ネリネの曲線
・2021年 無重力、な、わたし、

今回はそれに反して「UTOPIA」というストレートなタイトルをつけました。
そこまで深い考えは無いのですが、僕自身、芝居はどこまで行っても芝居であって、存在しないもの、「嘘」、をつらつらと重ねていると思っています。

そんな、どこにも存在しないというインスピレーションから「UTOPIA」としました。

多くは桃源郷や理想郷と訳されることが多いこの単語ですが、どこにも無い場所であるこの「UTOPIA」は、演劇のそれと似ていると思い、タイトルとしてつけました。


■物語について

物語は大きくなった少女が母を亡くし、記憶が薄れている中、何かを思い出すため両親の思い出が詰まった場所へ訪れるところから始まり、そこで出会った謎の”人物”からこの店の話をされるのが物語の導入です。

この古物商店「アーモロート」
そこに一匹の猫が、雨の中迷い込んできます。

この物語では、登場人物に決まった名前は出てきません。
名前(ミケ)は稽古を潤滑に進めるために決めたものです。

○主人公ミケ
この店を訪れた時は、猫として振る舞います。
動き出した冷凍庫に不思議な力で触れられてから、自身を人間だと思い込み、モノ達の悪戯に巻き込まれていきます。

壊れた傘を渡された時、ミケは自身の手を見つめます。
人の形になったことがないので傘の使い方に戸惑いを感じている様子です。

この今回の主人公は僕の中で一つの挑戦でした。
これまでの作品では、主人公以外のキャラクターは主人公を深掘りするために存在していました。

しかしUTOPIAでは主人公は視聴者と同じ目線でこの古物商店の存在を知っていくという流れで書き進めました。

途中何度もこの方法でいいのかと自問自答し続けていましたが最後まで信じて突き進みました。

ミケはお店を飛びだして自身の正体がわかった際、戻ってきて初めに傘を渡された時と同じ仕草をしています。

作品の中では彼女をたくさん傷つけてしまいました。

○傘
冒頭で大きくなった少女にこのお店の話をしていた人物(?)の正体は現代アートになっていた傘です。
はっきりと明記はしていないですが、傘の不思議な力は、誰かの助けになることができる、というものだったのかもしれません。

○果たして時計は時間を戻したのか
このお話では時間は戻らずにエンディングを迎えます。
果たして時計は時間を巻き戻したのか。
巻き戻った先の未来は存在したのか。
どうだったのかは決めていません。
しかし、そんな出来事があってもいいかなとエンドロールから先を書き足しました。

エンドロール中では時計が動き出した瞬間自身の首から下げている時計を確認していたり、主人公が雨の中お店の前まで来たけれどなぜか入ってこなかったり、届けられなかった鞄が届けられたりと、本編では描かれていない描写で登場人物たちが動いています。

戻ったかもしれないというのは、エンドロールが逆さに流れているので示唆しています。

○作品を通しての思い
この作品は、僕の嫌いな”雨”をテーマに生まれました。
雨とは過ぎ去っていく現象ではありますが、現在はコロナ禍だったり不景気だったりでまるで雨が続いているような状態だと思います。
止まない雨はない
それはそうかもしれないけど、いまこの瞬間降っている雨が好きじゃないんだ
そう思って過ごしていました
この街を覆う雨という描写は

この世界に、雨が降っている

に変化していき、今もなお不安なことや嫌なことは続いているかもしれない

この雨は、いつ止むのだろうか

苦しい時間はいつの時もあるし、世の中ではそれは続いているのかもしれない。
でも、少しくらい救いがあってもいいのかなと思い、最後は優しい終わりを表現しました。

「あったかい」

たったそれだけで救われる誰かがいるかもしれないし、そんな世界であって欲しい
もしかするとこの店の不思議な力は
少しだけ優しくなれる、ということなのかもしれません

劇場まで、この店まで
お越しいただきましてありがとうございました
何か少しでも、お持ち帰りいただけていれば幸いです。


coconkukanunity
木村克幸

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