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食の安全性 第三話 良質の脂質とは

1)油脂全般の実態

 はじめに申し上げておきたいことがあります。最近は、油脂について書かれた書籍も多くなってきました。健康志向が強まったこともあり、特に油のとりすぎはカロリーオーバーになるとして摂り過ぎには注意しようという動きもあります。

 そんな中で、カロリーを控えた「お腹に脂肪がつきにくい」などの謳い文句で中年や実年層、ダイエットしたい女性などをターゲットにした商品が市場に出回っています。何度もお話していますが、ここではどの油がイイとかワルイというお話はあまりしません。

 特に最近はω(オメガ)3脂肪酸が良いとか、α-リノレン酸が良いとか、不飽和脂肪酸が良いとかいろいろな情報が飛び交っています。皆さんもそのあたりのことは興味がおありになってご存知のことでしょう。その知識は、知識半分で知っていても良いと思います。

 しかし、肝心なところで、まったく興味をもたれていない領域があります。それは、巷にあるサラダ油やオリーブオイルなどが、いったいどのように作られているのか、という原料から製造方法に至るまでの工程です。

 植物性だから体にイイとか、動物性の脂はワルイとか、その程度で本来の油の価値を判断されないほうが良いでしょう。

まず原料のお話からする必要があるのです。

 タンパク質のところで、日本の遺伝子組み換え作物の輸入量は世界一というお話をしました。大手の製油メーカーである、Jオイルミルズ、日清オイルなどのホームページには「遺伝子組み換え不分別」と載っています。

 これはどういうことかというと、つまり遺伝子組み換え作物と遺伝子組み換えでない作物と分別していないということです。非常に分かりにくい表現ですが、簡単に言えば、遺伝子組み換え作物を使用しているということです。

 また製造方法は薬剤抽出方法を採用しており使用薬品が何であるかはホームページ内の検索でも出てきませんでした。

これは、製品にするまでにそのすべてが取り除かれるということで、キャリーオーバーという表現をするのですが、製造者にはそれらを表示する義務がないためです。

抽出については、以下のように記載されています。

● 抽出法:油分の少ない原料を搾る時に行われる製法です。細かく砕いて押しのばしたり、加熱したりして調整した原料に、溶剤を加えて油分を取り出します。
● 圧搾法:油分を多く含む原料を搾る時に行われる製法です。油分を取りやすくするために、加熱した原料に強い圧力をかけて、油を搾り取ります。

お気付きのように、化学物質溶剤抽出法はもちろんのこと、自然圧搾についても過熱して抽出しています。

そして、その中で溶剤とのみ記載されている最も懸念される化学物質が「ノルマルヘキサン」といわれる抽出薬品です。実はこれは猛毒であり劇薬指定も受けているもので、これを200℃以上の高温で気化させて最終産物には一切残らないようにしているので、問題ないとされているのです。

 しかし、油を200℃以上に加熱した段階で、かなり酸化されてしまうことは間違いありません。酸化された油は体の中で過酸化物質として処理されるため、体に負担がかかりやすい上、酸化されているので、フリーラジカルという体を錆びさせ老化を早める物質が生じやすくなるのです。

 さらに、遺伝子組み換え作物についても表示義務はありません。

 遺伝子組み換え作物のたんぱく質も油には混入しないということもあり、このあたりのことについては、ほとんどノーマークというのが現状でしょう。私も正直のところ、遺伝子組み換え作物を原料とする油脂製品がどの程度問題であるのか現状では分からない、というのが本音です。

 ただ、油脂の抽出過程で様々な問題が起こる可能性があることは予測できるので、それを申し上げたいと思います。とくにはじめにも申し上げたとおり、昨今の健康志向で、ヘルシーやダイエットという耳ざわりの良い言葉を利用した「トクホ」(特定保険食品)というカテゴリーで製品が作られているのですが、このあたりの問題と絡めてお話したいと思います。

2)「トクホ」の信頼性は?

 さて、油脂の領域では、日清が出した食用油「ヘルシーリセッタ」が有名です。中鎖脂肪酸(ちゅうさしぼうさん)の働きで体脂肪がつきにくい健康対策オイルだそうですが、同じような効果を謳って爆発的に販売をのばした花王の「健康エコナ」もありました。

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 この「エコナ」は、ダイエット効果がありそうな宣伝をしていましたが、結局のところ普通の食用油と同じで、摂取カロリーが過剰なら「エコナ」の油も、体は体脂肪にして蓄えてしまうのです。そしてご存知かもしれませんが、発がん性があることが懸念され、販売中止に追い込まれたのは記憶にあると思います。

この当時の記事を載せたブログがあります。この記事の中にも、厚労省と花王の癒着、あるいは利権関係を覗かせる経緯が記されています。

これによると、2009年8月時点まで、「トクホ」の管理は厚労省が担当していたのですが、2009年9月から食品衛生法やJAS法、健康増進法、 表示基準法などが、厚労省から消費者庁に移管されました。

そのすぐ後の、同年10月8日に突然「花王は当初の(認定取り消し反対の)態度を一転し、今日になってあわてて取り下げた。健康効果をうたうトクホの商品に疑問が見つかり、企業に裏切られたという感情を抱いた消費者の受け止め方に比べて、問題の重大性の認識が不足していたのではないか」という内容と共に、前例のない「認定取り消し」劇となったのです。

 「ヘルシーリセッタ」は、どうでしょうか。

3) 中鎖脂肪酸(ちゅうさしぼうさん)とは

 中鎖脂肪酸は、食品では牛乳やヤシ油(ココナツオイル)に含まれています。脂肪は、グリセリンと脂肪酸が結合した物です。脂肪酸は、炭素が鎖状に結合していて、その炭素の数が8~12個の物が中鎖脂肪酸です。我々が食べる油脂、脂肪のほとんどは12個以上の長鎖脂肪酸です。

 販売されている商品は、ヤシ油などを分解し、精密蒸留により高純度の中鎖脂肪酸を取り出し、再度、グリセリンと結合した合成品です。「ヘルシーリセッタ」の原材料の表示は「食用精製加工油脂、乳化剤、酸化防止剤(ビタミンE)」となっています。

 洗剤メーカーのライオンの調査では、部屋に干した洗濯物のあのイヤなニオイ(部屋干し臭)を特徴づける「酸っぱくて汗っぽいニオイ」の「キー成分」は中鎖脂肪酸、(その酸化物)だそうです。

 脂肪は、腸で胆汁などの働きで細かくされ、油滴になり、そこに膵臓から分泌される消化酵素が働いて分解され、吸収されます。

 中鎖脂肪酸は胆汁や膵臓からの酵素がなくても分解吸収されます。(普通の約4倍吸収されやすい)肝臓で普通の脂肪より約10倍酸化されやすい、エネルギー源としての利用速度が速いのです。

 実は、この特徴を生かして、手術後の人や未熟児(酵素の活性が低く、胆汁の量が少ない)のエネルギー補給に使われてきました。

 こうした用途に花王は中鎖脂肪酸100%の商品を販売していますが、その商品への花王の評価は ①必須脂肪酸などの栄養に欠ける ②揚げ物、炒め物には使えない、そのため調理性に問題があるのです。

 そこで花王は中鎖脂肪酸ではなく、グリセリンに2個の脂肪酸が着いた脂肪・油を合成して多く配合した食用油「健康エコナ」を開発販売したわけです。

では、日清の「ヘルシーリセッタ」は、揚げ物、炒め物に使えるようどのような工夫をしたのでしょうか。

 食用油の市場規模は年間約1000億円。年々縮小し、健康面から注目されていたコーン油、べに花油、オリーブ油なども落ち込み、その分、健康オイルが伸びているのだそうです。縮小しているのは40、50代以上の世帯では、油の使用量は少ないからで、ただこの世代は肥満が生活習慣病の素地ということから、肥満に関心があり健康オイルはこの世代の需要があるのだそうです。

 約1割、年間100億円程度でそのほとんどが「健康エコナ」だったのですが、先ほどもお話ししたように、エコナが発がん性の疑いから販売中止、今や「ヘルシーリセッタ」の独り舞台になっているようです。また日清は1988年に中国に進出。2013年3月期の中国での売上高は約150億円。中国は食用油の供給過剰が続いており、価格競争が厳しい。このため、09年に「ヘルシーリセッタ」を投入しました。

 中鎖脂肪酸を摂ると体脂肪が増えないのでしょうか。摂取カロリーから使用カロリーを引いて、余剰があれば合成された体脂肪が蓄積するわけですし、不足なら体脂肪が消費される量が増え減少するわけです。肥満、ダイエットという点からは、「ヘルシーリセッタ」など中鎖脂肪酸を含んだ食用油にかえると摂取カロリーが減るのか、使用カロリーが増えるのかがポイントです。

4)本当にカロリーが減るのか?

 「エコナ」も「ヘルシーセッタ」なども、カロリーは普通の食用油と変わりません。1gあたり約9キロカロリーありますから、これに変えても総摂取カロリーは変らない。北海道の畜産試験場で、豚の飼料に中鎖脂肪酸と大豆油を添加して、その違いを調べる調査が行なわれました。

 それを見ると、体重や体重の増え方、脂肪層の厚さは、大豆油と中鎖脂肪酸で変りがなく同じです。脂肪の質には違いが出て、中鎖脂肪酸の方が高品質の豚肉になるそうです。

 広告や新聞記事で紹介されている健康オイルでのダイエット例を見ると、総摂取カロリーのことは触れられていない。この手の使用実験でよくあることは、この食品がダイエットに効果があるかどうか試験したいので協力してくださいと頼まれると、その試験期間中はダイエットが気になって、食べる量を減らしてしまう、つまり、総摂取カロリーが減る、そうなれば、自然に体重、脂肪は減るわけです。

 総摂取カロリーの点がはっきりしているのは、エコナのグリセリンに2個の脂肪酸が着いた脂肪・油のダイエット例です。
身体での使用カロリーが増えるのか?

 米国で肥満症の治療の為に食事・総摂取カロリーを制限した実験で、エコナの油を使った方が体重の落ち方が早かった、約1%早く落ちたという例です。肥満症の治療ですから、体重、脂肪が落ちて当り前です。

 食事をして、血糖値が高くなるとせっせと体脂肪やグリコーゲンを合成してたくわえ、血糖値が低くなると分解して消費しているのですが、体脂肪はグリセリンに3個の脂肪酸が着いた形で、「エコナ」の油は2個ですから、もう1個着くのにエネルギーを使います。

 中鎖脂肪酸なら、中鎖脂肪酸がまず使われて、さらに米やパンなどの炭水化物から体脂肪を合成するのにエネルギーを使う。つまり結果的に使用エネルギー量が増えるという説明です。

 それでも、食事制限をしたうえで落ち方が1%早くなるだけですから、この手の健康オイルを求める人は、自主的な食事制限・摂取カロリー制限に困難を感じる人なわけで、この程度で実際のところどれ位効果があるのでしょうか。


5) 著しい脂肪肝・・・安全性は?。

 中鎖脂肪酸は、高濃度の物が医療で使われています。出されている注意事項をみると、下痢 (便中の脂肪酸の増加)、黄疸の遷延、肝機能障害などが上げられています。

 「ヘルシーリセッタ」の中鎖脂肪酸は、胃で消化されて、普通の油・長鎖脂肪酸より約4倍速やかに腸管壁に吸収され、肝臓に運ばれていきます。そして肝臓で代謝も約10倍速く効率良く燃やされてエネルギーとなります。それだけ肝臓に負担がかかると考えてよいでしょう。

 雄ラットに高脂肪食を食べさせた実験では、中鎖脂肪酸の多い食事は肝臓に脂肪が蓄積するという結果が出ています。その高脂肪食は、脂肪エネルギー比率40%で、脂肪・油は脂肪酸組成の異なるラード、大豆油、ヤシ油(中鎖脂肪酸が多い)の3種類です。

 いずれも、体重増加・終体重に差はありませんでした。肝臓中性脂肪はラード食、大豆油食、ヤシ油食の順に増加し、特にヤシ油では著しい脂肪肝になります。肝臓内の脂肪細胞には、ヤシ油に多い中鎖脂肪酸は少なく、成分の少ない長鎖脂肪酸が増加していました。このことから、中鎖脂肪酸が優先的に利用され代謝される反面、体内の長鎖脂肪酸の代謝を抑制し、肝臓に脂肪が蓄積しやすくなると考えられています。

 自然界に少ない中鎖脂肪酸を大量摂取することによって、黄疸、肝機能障害、著しい脂肪肝が引き起こされています。このような事実を目の当たりにすると、肝臓への悪影響が心配です。この手の健康オイルの主要な購買層は40・50代の世代で、この世代は、飲酒などの影響で肝臓が弱っている人が多いので、特に注意が必要でしょう。

6)健康食品の副作用の監視は?

 花王の「健康エコナ」は、先にもご紹介した通り2009年に発がん性があるとして製造中止になりました。日清の「ヘルシーリセッタ」も、ご存知のように特定保健用食品「トクホ」です。

ヘルシーリセッタ画像

 「トクホ」は、その効果、安全性についての動物実験などのデータを厚生労働省に提出し審査を受け、その効果、安全性について国がお墨付きを与えている健康食品で、その根拠となったデータをみれば、その効果の程や安全性がどれ位調べられているか分るはずです。しかし、そのデータは公表されていないのです。これでは疑問や心配を解消できません。

 欧州食品安全機関(EFSA)は、日本でトクホ審査で使われた試験資料を検討して、体重減少の効果は認められないとし、摂取することで体重が減少するという健康機能表示を2012年認めませんでした。欧州食品安全機関(EFSA)の「医薬品並みの厳格な審査」では、同じ試験資料でも効果なし、不明となったのです。

 「エコナ」の脂質代謝過程で発がん性が疑われるグリシドール脂肪酸エステルが通常の油の何十倍も産生されることがわかりました。そのような「エコナ」が「トクホ」として認定されていたことを忘れてはなりません。

 「ヘルシーリセッタ」も健康にどのような影響があるか、今、これを使った人で人体実験中というところですが、何らかの障害や副作用などが生じたら、誰が、何処に公表し警告するのでしょうか。

7)では、最終的に良質の油とは?

 このような、半ば「工業的に生産」されたものは極力避けた方が無難です。

 最初にもお話したように、猛毒の添加物を加えても、それが残らないから問題ないとしていますが、既に高温で加熱処理をした段階で過酸化脂質が生産されるので、やはりこのような製法は問題ありと捉えるべきでしょう。

 自然圧搾の油を利用することをお勧めします。

 人間の脳の6~7割は脂肪分で出来ていることをご存知でしょうか。私は時々冗談めかして言うのですが、「生命保険料はケチっても、油はケチらない方がいいでしょう」生命保険をいくら掛けても健康になることはないのです。

 同じ掛けるなら、良質の油で作った自家製ドレッシングにして下さい

 良質の油は、確実に私たちの体に活用され補われていきます。良質の素材が入れば体も自然に健康になるのです。

 最後に、以下にご紹介するのは、あくまでも個人的な嗜好で私自身が現在使用している油をご紹介します。

食の安全性第三話 挿画

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坂本製油

 ご賛同いただければ、お使いになってみてください。

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次回は、第四話 良質の繊維質とは をお送りします。


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