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ある魔女の話。

ある魔女の話。

魔女は森の奥深く静かに暮らしていました。
人々を癒し治しているうちに多くの人の信頼と尊敬を集めるようになりました。
しかし、それを快く思わない人物がいました。

「どうして、魔女がみんなの尊敬を集めるのだ。いまいましい。」

その男は魔女を陥れるためにある事を思いつきました。
満月の夜、人々が魔女の家に占いや薬草を求めてくるのを男は知っていたので、その日に魔女を皆の前で貶める事にしたのです。

「魔女は魔女だ。何が癒しだ。何が救いだ。所詮は悪魔の所業。きっと、俺がみんなの前で事実を明るみにさらせば、あいつの正体に気がつくはずだ。あいつは魔女だ。恐ろしい女なのだ。俺を呪い、汚い言葉で言い返してくるだろう。その様子を人々が見たら、あいつの人気なんて、アッという間に崩れるに違いない」

そして、満月の夜。
沢山のひとが魔女の庭で満月の祈りを捧げているところに、男は魔女の前に立ちはだかって、ひどい言葉を投げかけました。

魔女はただ黙って、その男の言葉を聞いていました。

人々は「あんなひどいことを言わせておいていいのですか?貴方の力を見せつけたいいのに!」と魔女にいいましたが、それでも魔女は一言も言い返すことなく、ただ黙っていました。

男は、とうとう朝が来るまで魔女に凡ゆる悪態をつきましたが、魔女はどんな言葉を投げつけられても一言も言い返すことはありませんでした。

朝日が昇って、朝露に濡れる森が光に照らされる頃、男はとうとう口をつぐみました。

その様子を見て、魔女は静かにその男にたずねました。

「もし他人に贈り物をしようとして、その相手が受け取らなかった時、その贈り物は一体誰のものでしょうか。」

こう聞かれた男は、突っぱねるように言いました。

「言うまでもないだろ。相手が受け取らなかったら贈ろうとした人のものだろう。当たり前のことを聞くな。」

男はそう答えてからすぐに、「あっ」と気づきました。

魔女は静かにこう続けました。

「うふふ。今、あなたは私のことをひどくののしった。でも、私はそのののしりを少しも受け取らなかった。だから、あなたが言ったことはすべて、あなたが受け取ることになるのよ。」

男は口を噤んだ。

「そして今、私は愛を込めて貴方に語りかけてるわ。全身全霊で。その贈り物は誰のものになるのかしら。

私はどちらでもいいけどね。」

魔女は満足げに微笑みを浮かべた。


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