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【検証】あのデパコスと同じ成分の商品がプチプラで?!成分表示のカラクリを教えます。

最近は、化粧品への興味関心が高い人も増え、SNSやインターネットで容易に美容情報が発信されるようになりました。
そんな中、多くの方が目にしたことがあるであろうあのウワサ。

『SK‐Ⅱと激似の商品があるらしい...』
『ドゥ・ラ・メールとあのプチプラが同じ成分らしい...』
『デパコスと同じ成分の商品がプチプラ価格で買えるらしい...』

実は、この話題、メディアを立ち上げた時からきちんと記事にしたい!と温めていた内容の一つでした。
というのも、実際にスキンケアの処方(レシピ)を作ってきた私たちから見えていることと、SNSなどで広がっている情報に大きな差を感じていて、それらを正したいと思っていたからです。
今回、満を持して(?)まとめてみました。
モノづくり現場の雰囲気も感じながら、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。


デパコスとプチプラ商品が同じ?!

さて、冒頭の『SK-Ⅱと激似の商品があるらしい』というこのウワサ、本当なのでしょうか。

まず、インターネットやSNSを徘徊しながら、そのウワサの背景を整理しました。
・SK‐Ⅱの有名な化粧水はメイン成分がガラクトミセス培養液である
・同じ成分のガラクトミセス培養液を高配合している商品がある
・全成分の並びが似ている

どうやらこの流れからウワサとなり、多くの人に広まった模様です。

さて、真実はどうなのでしょうか。
結論からお伝えすると、全成分上は同じでも、商品の効能効果が同じかはわからない。いや、むしろ違っている、同じではないと考える方が理にかなっていると考えます。

順を追って説明していきます。
まず、全成分上では同じとはどういうことでしょうか。

1.全成分について

化粧品はすべての成分を記載することが義務付けられているので、パッケージなどで全成分を確認することができます。
その全成分とは、表示名称という日本化粧品工業連合会が定めた成分名称によって構成されています。
わかりやすいようにウワサの的になっているSK-Ⅱの商品を参考にしながら解説していきます。

SK-Ⅱフェイシャル トリートメント エッセンスの全成分より抜粋

この全成分の中では、ガラクトミセス培養液BGなど、それぞれの成分が表示名称と呼ばれているものです。

各成分は、表示名称以外にも、INCI名、定義、成分番号の各項目で構成されています。
今回、ウワサの的になっているガラクトミセス培養液の場合は、表1のように定められています。

表1:化粧品の成分表示名称リスト"ガラクトミセス培養液”の検索結果
引用:日本化粧品工業会より転載

今回の件でポイントとなるのは、この表の中の定義についてです。
ガラクトミセス培養液の場合、

『本品は、糸状菌の一種 Galactomyces candidus を培養した後、ろ過して得られる液である。』

という条件がクリア出来ていればこの表示名称を名乗ることができます。
言い換えると、①培養の条件、②ろ過の方法などの製造工程、への制限はなく、この定義内であれば同じ表示名称になるということが言えます。

より身近な例として、コーヒーになぞらえて説明していきましょう。
まず、コーヒーにはコーヒー豆が不可欠ですよね。
コーヒー豆は、品種だけではなく産地によっても味が異なります。
そして、そのコーヒー豆を誰がどのように栽培したかによっても味が変わることは容易に想像できるかと思います。
これが、先ほどの①培養の条件に当てはまります。

次に、ハンドドリップ抽出で淹れたコーヒーを想像してみてください。
同じコーヒー豆であっても、使うフィルターの種類や注ぐお湯の温度・スピードなどによって抽出されたコーヒーは味や香りが変わると言われています。
これは、フィルターの種類に限っても、目の粗さや素材が異なると吸着できるものが変わり、味や香りに変化が起こるという仕組みです。
化粧品は肌に塗るものなので味覚とは異なるものではありますが、②ろ過の方法などの製造工程の違いによって抽出物に違いが出ることが想像して頂けたのではないかと思います。

話を戻すと、化粧品で使われている表示名称の定義では、原料の産地や製造工程が違っていても同じ表示名称になるということになります。

以上のことから、表示名称が同じでも、原料・培養の条件・ろ過方法などの製造工程が異なるので、まったく同じものであるとは言えないことがご理解いただけるかと思います。
もちろん、まったく同じものを作れる可能性はありますが、各企業が独自で研究しているものなので同じものが出来上がるのは難しいと言えます。

(化粧品原料が作られる過程にも夢や希望、技術がたくさん詰まっているので、いつか記事に出来ればと思っています!)

2.商品の効能効果について

では次に、処方(レシピ)についても説明をしていきます。

商品の効能効果を決める要素は2つあります。

1)配合している成分(原料)の性能
2)成分を組み合わせる処方設計技術

 1)配合している成分(原料)の性能

前述した通り、成分の開発・製造には企業ごとの特徴が大きく表れます。
各企業のこだわりを形にしたものが化粧品原料となり、処方開発者はこれらの原料を組み合わせて製品を作ります。
そして、この化粧品原料は、同じ表示名称でも複数の原料が存在します。

同様に、『ガラクトミセス培養液』を例として説明していきます。
Cosmetic-Info.jp(化粧品技術者のためのデータベースサイト)でガラクトミセス培養液と検索すると、以下のように5つの原料が該当します。

表2:ガラクトミセス培養液の検索結果
引用:Cosmetic-Info.jpより転載

そして、5つの原料は、表示名称『ガラクトミセス培養液』が含まれている共通点はあれど、特徴は異なります。 

表3:ガラクトミセス培養液の関連原料の結果
引用:Cosmetic-Info.jpより抜粋して作成

黄色い部分は、他の原料にはない特徴です。
それぞれの原料で開発・製造工程が異なるだけではなく、期待できる効果が違うこともわかると思います。
つまり、表示名称が同じであったとしても、どの原料を配合しているかによって効能効果が異なるのです。

表示名称は同じでも、効能効果が異なる...
どれを選択するのかを考えるのもモノづくりの醍醐味ではありますが、入社当時の研修の際、化粧品原料が多すぎて覚えるのに何年かかるんだろうとゾッとしたことを思い出します。。

ここまでお読み頂いて、成分・原料・表示名称などの言葉がわかりにくいと思いますので、以下(図1)に補足しておきます。
コーヒーのお話が出たので、コーヒーを例としてみました。

図1:化粧品の原料に関する名称の整理

 2)成分を組み合わせる処方設計技術

では、前述の化粧品原料を同じものを選択したとしましょう。
『表示名称も同じだし、特徴である効能効果も同じ!』と考えてしまいますよね?
実は、その後の成分を組み合わせていく処方設計という点も大変重要になってきます。
配合する量と、どのような処方にするか(他の成分との組み合わせ・製造工程)で皮膚へのアプローチが異なり、最終的な効能効果に影響します。

処方設計はよく料理に例えられます。
同じ材料を用いたとしても、食材の入れる順番や、調理方法(焼く・蒸す・煮るなど)を変えたら違う料理が出来ます。
化粧品でも同様に、原料が同じでも配合量や製造工程によってまったく違うものになり、効能効果も異なるものとなります。

処方設計については、私の専門分野でもあるので、別の記事で詳しく解説予定です。
リリースを楽しみにお待ちください。

まとめ

・表示名称が同じでも、同じ原料を配合しているとは限らない
・よって、全成分が同じでも、同じ効能効果を有する原料を配合していると 
 は限らない
・同じ原料を配合しても、処方設計によって効能効果は変わる

さて、今回はSNSで定説になりつつあるウワサについて、モノづくりの現場経験者からの視点を交えてモノサシを当ててみました。
少しマニアックな内容だとは思いつつ、楽しく読んでくださる方がいたら嬉しいです。

(執筆:甲斐)

参考)
1.日本化粧品工業会
2.Cosmetic-Info.jp