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レナウン経営破綻①~コロナ禍の中堅、中小企業

 長引くコロナ禍にあって特に飲食などの業種においては大企業のみならず中堅、中小企業の経営者の圧し掛かる不安やプレッシャーが相当なものと思う。特別貸付や雇用調整助成金の受給など支援策が実施されているが、売上事態が回復しなければ根本的な解決にならず、耐え忍ぶのにも限界があるというもの。

 そこでひとつの手段となってくるのが企業の集約である。これまでは日本企業の低生産性をどうするかという文脈で中堅及び中小企業の集約が語られてきたが、コロナ禍に対処する有力な手段として今後浮上してくることだろう。企業の集約は、形式としてはM&Aや業務提携など幅がありそうだが、ここではM&Aにより企業あるいは事業の買収が伴うものと考える。買収側する側にとっては簿外の債務がないかとか、従業員の離反がないかとか、される側もオーナーチェンジで自分の処遇がどうなるかとか、不安が付きまとうことだろう。

 ここでタイトルにあるレナウンだが、2020/11/02の東京商工リサーチの記事によれば、新型コロナ関連で初の上場倒産とうたわれているところの、2020/05/15に民事再生法を申請し再生手続きを進めていた㈱レナウンが、東京地裁から民事再生手続廃止決定を受け、廃止決定から4週間後を目途に破産手続開始決定を受ける見通し。民事再生法の申立事由は、新型コロナウィルスの影響や、親会社の関連会社から売掛金の回収遅延が発生し、子会社が民事再生法の適用を申請したとのこと。

 レナウンはバブル崩壊後、百貨店不振や消費税増税などから経営再建を迫られファンドなどの支援を受け、2010年には第三者割当増資により中国の大手繊維会社である山東如意科技集団有限公司(以下、山東如意)から約40億円の出資を受け、さらに2013年には山東如意の親会社である済寧如意投資有限公司(現社名:北京如意時尚投資控股有限公司)を引受先とする第三者割当増資を実施し約29億円を調達。これにより山東如意のグループ出資比率は約41%から約53%へ上昇し過半数を取得されることとなった。

 これは言わば、レナウンが中国外資企業に集約された形と見ることもできる。今後進むかもしれない中堅、中小企業の集約によって、その後どのようなことが起こりうるのか、いいタイミングなのでレナウンを通じて学びにするのが賢明であると思う。


レナウンが経営破綻に至った流れを理解するには、同社の第16期有価証券報告書にある継続企業の前提に関する重要事象の記載を参照するといいだろう。以下、引用すると、
「当社グループは2期連続で営業損失を計上しており、当連結会計年度においては7,999百万円の営業損失を計上しております。また、当連結会計年度において営業活動によるキャッシュ・フローが△4,567百万円となっております。なお、当連結会計年度の販売費及び一般管理費に計上した貸倒引当金繰入額5,779百万円には、当社の親会社である山東如意科技集団有限公司の子会社である恒成国際発展有限公司に対する売掛金の回収が滞ったことにより計上した貸倒引当金繰入額5,324百万円が含まれており、当社グループの資金繰り計画に重要な影響を及ぼしております。」とある。
前期営業キャッシュ・フローと比較しても、上記売掛金が回収されなかったため資金状況が悪化し、引当の計上負担が増した。コロナの影響もあるだろうが、売掛金回収遅延が民事再生手続の申請に至った主要因と見られる。

しかし、子会社による民事再生手続の申請であることや、未回収売掛金は親会社山東如意の子会社との取引であり、山東如意が連帯保証人であるにもかかわらず保証履行に至らなかった点、また、売掛金発生の原因となった取引は代理人取引として処理されているが、代理人取引というのは仲介のようなものでしかなく、そもそも親子会社間(山東G)取引の間にレナウンが入る経済合理性があったのかなど、不可解な点が目に付く案件である。代理人取引については収益認識基準において純額表示が求められているものだが、これについては次回以降解説するつもりだ。この取引について、連帯保証人の親会社も保証履行せず、売掛金は回収出来ないのに山東如意への買掛金は支払ったのだろうか。仲介なのに仕入債務のみ山東如意に支払い、山東如意子会社への売掛が回収不能となったとすれば、レナウンが山東如意Gに資金を一方的に徴収された格好にも見える。山東如意がレナウンに見切りを付け過去の投資を回収するスキームだったのだろうか。それにしては、レナウン子会社による民事再生申請などレナウンプロパー側が山東如意を突き放しているようにも見える。山東如意による突然の代表取締役再任案の否決など、人事的な対立もありそうだ。

いずれにせよ、企業集約の失敗事例と言えそうである。レナウン側において債権の管理回収はしっかりなされていたのか、また、買収後の組織統合作業をPMI(Post Merger Integration)というが、事前にPMIについて両者の合意があったのか、十分な検討が行われていたのか等、検討事項は多いのではないか。

次回以降、詳細な検証を試みたい。


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