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映画『LOVE!TAMAGAWA!』脚本【VOL.7】

○203号室・ベランダ(夜)

瞬、高校時代の卒業アルバムを取り出す。ベランダに入る。壁に寄りかかってアルバムを見る。松任谷由実の「卒業写真」を口ずさむ。

○204号室・ベランダ

寛人、壁に寄りかかって座る。スマホで高校時代の同級生たちの近況を覗いている。

寛人「へえ、渡部はお子さんもうこんなに大きくなってるんだ。お母さんの身長と変わらないじゃん。望月はフランスか。浅倉結婚したらまた離婚か。木下は銀行員。小田は独身かな。みんな高校時代とずいぶん変わってるね。俺もそうか」

瞬が歌った「卒業写真」を聞いて寛人も小さな声で口ずさむ。

○電気屋・洗濯機の売り場

洗濯機を選んでいる瞬と蛍(27)。

蛍「早くやめれるように」

瞬「ありがとう」

蛍「もう、毎回学校の出来事を聞いたらさ、もうカンカンしてジークンドーの相手にしたくなってしまう。今すぐ学校に駆けつけて上司の襟を掴めたくなる」

瞬「落ち着いて、区役所勤めの国家公務員さん」

蛍「瞬、今日はまだ言ってくれてないよ、あのセリフ」

瞬「あ、ごめん、早くやめれるように」

蛍「ありがとう。そういえば、今日は本当に自分のタイプに出会ったの。あたしの前に現れた瞬間、ドキュンッと…でもね、ドキドキしてる間に、隣の女性に書類出されて、おとなしく婚姻届の申請書類を対応するしかなかった」

瞬「このような話、会うたんびに言ってない?」

蛍「しょうがないじゃん。だって同僚の中に、タイプいないし。たまに好きになれそうな人に出会っても、結婚しようとしてるし。やってたまるか、こんな仕事、もう一瞬たりともやりたくない」

瞬「わかる。朝目が覚めた途端に、仕事辞めようと頭に浮いてくる」

蛍「仕事の時間が子供の送迎時間にかぶらない。部屋が薄暗くて、家具などの輪郭や色がぼんやりと映るような頃に目が覚めて、惚れた人は目の前にいて…瞬、あたしたち送りたい生活ってこんなシンプルなのに…」

瞬「そうだね。旦那の鍵を開ける音を聞いたら、玄関でおかえりと迎えたり、クリスマスに不器用のサプライズを楽しみにしたり…」

蛍「さすが台本家、すごい発想力だね」

瞬「残念ながら、まだ現役教師だけど」

蛍「そうだね、何万円か足していい洗濯機を買いたくてもお金を惜しむ小学校の先生。ねねね、家事の中で一番嫌いなのは洗濯だよね。洗濯機を買い換えてしまえば?(目の前の洗濯機を叩いて)これいいと思うよ。水も時間も節約できるし」

瞬「32万円、無理に決まってるじゃん」背を向けて帰ろうとする。

蛍「待ってて、もうちょっと見ようよ」

○203号室(日曜日の朝)

瞬、クローゼットを開けてさほど多くない夏ウェアを選び悩む。かなり時間をかけてワンピースを決める。丁寧にアイロンをかけて身につける。

○204号室

寛人、クローゼットを開けて高級そうなスーツから少し素朴に見えるものを身につける。

○街

バス停でバスを待つ瞬。

車で通り過ぎる寛人。

○披露宴会場

親友たちと記念写真を撮る新婦玉。

リア「結婚って羨ましいな。あたしいつできるんだろう」

夏美「この前、会社の社長さんと手を繋いで歩いたのを目撃したのよ。そういう関係だよね」

リア「何言ってるのよ。社長はとっくに結婚してるんだよ」

香織「手首のブレスレット。あれ、いとこが贈ったものでしょう。二人はどう?」

リア「どう?って、まあ、そういう…」

玉「オマエたち、フツウじゃないな。男性陣のところもずいぶん賑やかだから、瞬を連れて顔を合わせてこよう」

新婦の親友たち「行こう行こう」瞬と押し合って新郎の男性陣のところに向かう。

香織「わあ!俳優の工藤寛人!」

皆「本当だ!本物!!」

香織「嬉しい!!どうしよう!どうしよう!」

務久「お嬢さんたち、寛人と写真を撮ってもいいよ、な、寛人」

寛人(少し躊躇して、頷く)「うん、いいよ」

務久「じゃあ、集合写真を撮ろう。ただ、ネットなどに載せないでね、寛人が困るから」

視線を交わす瞬と寛人。意外そうな顔の瞬に、寛人が微笑みながら頷く。

集合写真を撮る全員。

○披露宴会場の駐車場

子ども連れの女性と立ち話をする瞬。

瞬「尚美、もう帰るの?」

尚美「うん、しょうがないから、2時の新幹線なの(バッグを開ける)あ、スマホ会場に忘れたかも。瞬、少しだけ息子を預かってちょうだい。すぐ取りに行ってくるから」

瞬「うん、いいよ」

瞬、膝ついて子どもに話をかける。

瞬「お名前は?」

浩「浩」

瞬「浩くんはおいくつ?」

浩「五歳」

瞬「五歳か、幼稚園の歳だね。浩くんは幼稚園に通ってる?」

浩「うん。通ってるよ。『お利口さん』って先生に褒められて、色紙ももらってるの」ポケットから色紙を何枚か取り出す。

瞬「すごい!じゃあ、折り紙を折ながらママを待ちましょうか。折り紙できないな、浩くんに教えてもらおうかな」

浩「いいよ!簡単だよ!」

浩、折り紙を折る。

╳ ╳ ╳

尚美、戻ってくる。

尚美「浩、瞬さんにバイバイしよう」

浩「バイバイ」

瞬「バイバイ」浩にくるくる回っているリュックの帯を直す。

瞬の動きを車内で目を凝らす寛人。

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